二章 猫はもてなしがお好き
達成に火を囲む1
「リジア!あんた真っ黒じゃない!」
 通路からローザが駆けてくる。そこらじゅうに転がる再起不能となったゴブリンに嫌そうな顔をして、間を縫ってこちらにやって来た。
「転がっていった時に汚したのね。……顔まで打ったの?」
「いや、これはちょっと……」
 言いよどむわたしの顔を良い匂いのするハンカチで擦ってくる。ローブは背中からお尻にかけてひどい事になっているだろう。水が流れるようなところがあればいいんだけど。体の背後の湿り気に顔を歪めた。
「さて、『ポゼウラスの実』を探すぞ」
 張り切ったアルフレートの声にむかむかとする。さっきの歌声といい、このエルフには協調という言葉はないのだろうか。
「そんな事よりまだ謝ってもらってない!くだらない悪戯でこっちは泥まみれよ」
 わたしに顔を指差されたアルフレートはひょい、と肩をすくめる。
「私が悪いのか?だったらそもそも『左に行こう』なんて言い出したのはコイツだ」
 彼が指差すのはハンカチを畳む途中だったローザ。
「あたし!?法則の話ししただけじゃない!それに『声が聞こえる』っていって決定させたのはフロロよ!」
「俺かよ!俺はにいちゃんから『声がどっちから聞こえるか』って聞かれたから答えただけだぞ!」
 全員がヘクターを見る。
「あ、えっと……ごめん」
 頭をかき、謝罪するヘクターにわたしは思わず大きな溜息をついた。人が良すぎる……。
「あんたそんなんじゃこのパーティで貧乏くじ引き続けることになるわよ?」
 呆れた顔のローザにヘクターは、
「いや、確かにそうかなーって」
と照れたように笑った。
 しかし何時までも喧嘩しているわけにもいかない。わたしは気持ちを切り替えると『ライト』の呪文を唱えていった。光の精霊ウィル・オ・ウィスプが集まり出すと、松明の明かりだけの薄暗い広間がぱっと明るくなる。
「とりあえずここを探して、無いようなら次行こうか。他はどんな風だった?」
 違う道を来たローザとアルフレートに尋ねる。
「途中で寝床みたいな藁敷きの空間もあったわね。他は一本道だったわ」
 ローザが腰に手を当て答えた。イルヴァがわたしとローザを見てくる。
「どんなのか知らないですけどイルヴァもお手伝い出来ますかね?」
 それを聞いてわたしは地面を見渡した。ゴブリンの物と思われる汚れたショートソードを拾い上げると、土の地面に図鑑で見たポゼウラスの実を描いていく。
「……確かこんな感じの植物なのよね」
「リジア、絵下手ですねえ」
「下手なんじゃなくて、本当にこんな感じなの!」
 イルヴァの感想にむっとしつつ答えた。わたしの描いたひょろひょろとした植物の図を見て、ヘクターが呟いた「木の根みたいだな」という言葉にローザが頷く。
「そうそう、色も茶で目立たないと思うのよね」
 わたしは『木の根』と聞いて嫌な予感がする。
 『ライト』を誘導しつつ、洞窟の壁をぐるりと見て回る。ゴブリン達の生活道具らしきナイフやら壷やらが転がっているのをどかしつつ、目的の植物を探した。
「あった」
 わたしの一言にメンバーは駆け寄って来る。怪訝な顔をするメンバーに壁を掘り返して根のような一部を切り取って見せた。一見、木の根にしか見えないが触ると凹凸がある。割ってみると中から黒い豆のようなものがぽろぽろと出てきた。
「これ……入り口の所からあったわよね」
 そう、ローザの言う通り壁に埋まる木の根は入り口付近から見かけていた。多分、この洞窟全体に根を生やしているに違いない。
「なんだよ、丸っきり無駄足かよ」
 溜息をつくフロロをわたしは睨んだ。
「あんた、この状態のわたしによくそんな事言えるわね」
 そこへローザが手を叩いて割って入ってくる。
「無駄?無駄じゃないわよ!一つの悪を倒したじゃない!」
 は?と思いつつ彼女の指差す先を見ると、広間の最深部に大きく描かれた邪神サイヴァの紋章があった。洞窟の壁面に直接描かれた黒十字は、大松明の明かりを煌々と浴びて藍色に見えた。
 正直、どうでもいいけどこの状況を納得させるには丁度良いかな。と思ったのだが、
「さ!消すわよ!」
続くローザの声に皆の顔が引きつった。消すって言われても、染料の染みた土壁をほじくるしかないんじゃないだろうか。
 その通りだったようでローザは腕まくりすると落ちていたダガーを拾い上げ、壁を掘っていく。途中で出てきたポゼウラスの実を皮袋に入れるのも忘れない。
「あーあ……こうなったら梃子でも動かないぜ」
 フロロが諦めたように腰に掛けたダガーを引き抜く。他のメンバーも溜息をつきながら壁に近づいていった。
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