二章 猫はもてなしがお好き
魔女っ子、捧げられる2
 生贄だ!自分の立ち位置を理解した瞬間、パニックになる。反対にゴブリン達は乗り乗りの雰囲気でプレートに乗ったわたしを運んでいく。
「ゲギョゲギョ!」
と陽気な声を上げるとプレートを揃った動きで振り始めた。
「うおあー!やめて!」
 悲鳴を上げるが動きが止まることはない。もしかして火の中に投げ入れるつもりなのか。わたしは必死でプレートにしがみつく。ゴブリン達は揺らす動きを止めないまま、大松明へ足を進めていく。
 徐々に近づく炎にごくり、喉を鳴らした。逃げなきゃ!と漸く体が動き出す。手段を探す為揺れる視界の中、辺りの様子を窺った。
 暗いので隅まで様子が見えるわけではないが、かなり広い空間に見える。そこに無数のゴブリンが蠢いていた。背後に感じる炎の熱に焦りが増すが逃げ場が見えない。
 どうしよう、と目線を動かしていた時だった。わたしが落ちてきた出口だろうか。上の方にぽっかりと開いた穴からぽーん!と影が飛び出してくる。続けてもう一つ。地面に着地するなり手に持った武器を振り回すのが見えた。
 イルヴァとヘクターだ!そう気付いた瞬間、力が抜けていく。わたしを運んでいたゴブリン達が「ギギー!」と叫ぶと、わたしを放り投げて二人の方へ飛び出していった。
「あだ!」
 投げ出されたわたしはプレートががしゃん!と落ちる音と一緒に地面に顔を打ち付ける。
「だいじょぶか?」
 聞きなれた声に顔を上げるとこちらを見るフロロの姿。ほっとするわたしを指差し、フロロはげらげらと笑い出した。
「ひでー顔!真っ黒じゃんよ」
「うそ!」
 頬に手を伸ばすと泥の感触。最悪だ……。既に泥だらけのローブで顔を拭うと、フロロの手引きに付いて祭壇の後ろに隠れる。
「ローザちゃんとアルフレートは?」
「ローザが落ちてくアンタ見て腰抜かしちゃったんで、アルが他の道探してる」
 ということは今いる三人はわたしの後に続いて来たのか。凄い度胸だな、と感心してしまう。するとフロロが呟いた。
「にいちゃんもイルヴァも躊躇なく突っ込んでくから、こっちも迷う暇なかったぜ」
 その二人を祭壇の脇から覗き見る。広間の中央でイルヴァがウォーハンマーを振り回す豪快な姿がある。棘のついた鉄球がゴブリンの体に当たると、面白いように吹っ飛んでいった。細い腕にどこにそんなパワーが隠されているんだろう。二匹、三匹とまとめて壁に叩きつけるイルヴァは表情は変わらないが、心なしか生き生きしているように見える。
「イルヴァってさあ、悪役っぽいよな」
 けけけ、と笑うフロロの言葉にはノーコメントとさせていただく。確かに悪役っぽいが黒い髪が揺れる様が綺麗だな、と思う。
 そのイルヴァの後ろ、無駄の無い動きでゴブリンを一体一体仕留めていくのはヘクターだ。右腕に光るロングソードが水平に動くと一体、返す手でまた一体と倒れていく。
「うわーんかっこいいよおー!」
 思わず漏れる本音。はっとしてフロロを見るが、彼の方は違う方向を見ていた。突如現れた戦士達に堪らん、と思ったのかゴブリン達が広間の左手にある通路に走っていっているのだ。
 そこから顔を出した二人組みに息を呑む。ぎゃーぎゃーと喧嘩しながら歩いてくるのはアルフレートとローザだった。駆け寄るゴブリン達の姿に喧嘩を止め、ローザが顔を手で覆う。わたしとフロロは祭壇裏から飛び出していた。
 その様子を見たのかヘクターがローザ達の方へ向き、顔を強張らせる。わたしも足が止まり、体が硬直した。
「ぎゃー!」
 フロロが耳を押さえてその場にうずくまる。大量のゴブリンを前に、アルフレートが取り出したのは銀のハープだった。
 止める間も無くぽろん、と弦を弾く美しい音色が響く。わたしも慌てて耳に指を突っ込む。
 次の瞬間、脳髄をぐりぐりと刺激するような不快音が広間に爆発した。全身の肌がびりびりと痺れる。頭が痛い。なぜか喉も痛い!神様お許しください、お願いします!と何回も頭の中で唱える。
 何度目のお祈りの後だったか、肌を刺す刺激が無くなったことで薄っすら目を開けていく。
「おおう……」
 わたしは思わず呻いた。広間に倒れる大量のゴブリン達の姿。イルヴァとヘクターが仕留めたものもいるだろうが、半分は泡を吹いて痙攣している。なぜかその姿には「可哀想に」と思ってしまった。
「いやあ、歌っていいものだね」
 のん気なエルフの声には本気で殺意が湧く。大体がわたしが転んで泥だらけなのも、ゴブリンの怪しい儀式の生贄になりそうになったのも、全部こいつのせいじゃないか。
 顔をもう一度拭っておく。隣りで耳を押さえて震えているフロロを立ち上がらせると、ヘクターとイルヴァも頭を振りながら起き上がった。
[back][page menu][next]
[top]
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -