二章 猫はもてなしがお好き
口開ける魔物の巣1
「いや〜ん、おいしそうだわあ!」
 お弁当の中身を見て、ローザが身をよじらせた。タンタ達が持たせてくれたお弁当は朝食べたパンで作ったサンドイッチだった。中身はツナやたまご、ローストビーフと野菜サンドもある。一生懸命作っている姿も可愛かったんだろうな、と思ってしまった。
「なつかしいなー」
 ヘクターがタコさんウインナーをしげしげ眺め、妙に嬉しそうに口に運ぶ。こういう姿を見れるのも同じパーティという立場の特権だなあ、と頬が緩んだ。そんな風に油断していたからか、気がつくとわたしのお弁当箱にフロロが野菜を移動させている。
「ちょと!好き嫌いしないでこれくらい食べなさいよ!」
「肉が多いな……」
 騒ぐわたしの横でアルフレートがぼやく。イルヴァがすかさずフォークを出した。
「じゃあ食べてあげます。そのかわり口付けないでくださいね。付けたのは食べられませんから」
「だから私はばい菌か?」
 アルフレートが睨みつけているにも関わらず、イルヴァは彼のお弁当から肉類を奪っていった。それを見て思いつく。
「アルフレートが野菜を食べて、フロロが肉を食べればいいじゃない!」
 真っ当な意見を言ったと思うのだが、二人は揃って首を振り「つまらない奴」と言ってくる。イライラするな。
「仲良いねー」
 ヘクターがしみじみと呟いた。ローザがそんな彼の言葉に溜息つく。
「いや、こんな低レベルなやり取りにほのぼのしないでいいから。……と、そうだリジア、あんた洞窟に着いても、中で魔法使わないでよ?」
 厳しい顔のローザにわたしは「は?」と返すが、隣りでアルフレートも頷いている。
「な、何でよ」
「何でって……言わなくてもわかるでしょうが」
 呆れた口調のローザの後をアルフレートが引き継いだ。
「みんな、死ぬぞ」
 ごくり……。その言葉に全員が唾を飲み込んだ。
 わたしの魔法への不信感が、先程のファイアーボールでダメ押しになってしまったようだ。山の一部が黒煙上げてへこんでいたら無理もない。
「で、でも何もしないわけにもいかないでしょう?」
 わたしの辛うじての反抗にイルヴァがいつもの真顔のまま答える。
「リジアは何もしなくて大丈夫ですよー。モンスターが出てきたとしてもイルヴァがやっつけてあげます」
「さっきはわたしの頭を『やっつけ』そうになったくせに、よく言うわね……」
 わたしは鼻を掠めたウォーハンマーを思い出して身震いした。
「まあ、良いように言えば、モンスター相手にも臆することないって頼もしいじゃないの」
 ローザの言葉にイルヴァとヘクターは顔を見合わせる。
「授業ではモンスター相手にするなんて毎日のことですから」
 そう答えるイルヴァにヘクターも大きく頷いた。
「俺達の授業じゃゴブリンやらコボルトやらの巣穴に突っ込まされるんだよ。それこそローラスの隅から隅まで被害を調べて遠征させられるわけ」
 二人は眉間に皺寄せ、苦悶の表情を浮かべる。何やら辛い思い出らしい。
「トロールの集落に崖から蹴落とす教官もいますからねー」
 そう言ってイルヴァはなぜかピースサインをする。
「な、なにそれ……」
 ローザが呻いた。
 そういやファイタークラスってしょっちゅう校外授業という事でいない時多いっけ。泊り込みの遠征も多いみたいだし、魔術師科の授業に比べて随分ハードだ。
「あんた達は大丈夫そう?」
 ローザが黙ったまま食事をする妖精二人に問いかける。するとフロロは手を振った。
「モロロ族の逃げ足を舐めるなよ。……それに旅は慣れてるしね」
 なるほど。モロロ族は本来、定住生活をしない種族だ。旅から旅の生活ではそういうこともあるのだろう。彼が学園に留まっているのも不思議な事だし。
 アルフレートの方はといえば、くだらない質問を、とばかりに返事もしない。
 なんだか急に不安になってくる。わたしはモンスターに会うのも初めてだったし、魔法禁止令も出されてしまって、このメンバーの中ですら足手まといになりそうな気配がしてきた。
 皆が食べ終わった昼食を片付け始めたことにはっとする。わたしもサンドイッチが包んであったクロスを畳むと立ち上がる。横で腰を伸ばす仕草をしているヘクターにそっと近づいた。
「あのー、さっきごめんね」
 わたしの言葉にヘクターは目を大きくして瞬く。何の事か考えているようだったが、ふっと笑顔になった。
「ああ、気にしなくていいよ。俺も無神経だったなと思ったから」
「……蛇のこと?」
 わたしの小声の問いかけにヘクターは「そう、それ」と言って笑う。わたしの謝罪も何の事か分かってくれたようだ。
「蛇見せただけで魔法ぶっ放されても許すんだ?にいちゃん優しいな」
 フロロが早速、ヘクターの肩によじ登る。そのずうずうしさにむっとしていると、ヘクターがふ、と苦笑した。
「何ていうか、難しいね」
 それを聞いてわたしは固まってしまう。
「さー、もう洞窟まで近いはずだから、さっさと行きましょう!」
 ローザの張り切った声にイルヴァが拳を上げた。その二人に続くヘクターの後姿を見て思う。
 どういう意味だったんだろう?じわじわと湧く不安は先程までの物より粘っこい。
 どうしよう、呆れられたんだとしたら。
「やっぱこのパーティに入ったこと後悔してたらどうしよう……」
「『もう逃げられないぞ』って脅せばいいんじゃないか」
「……独り言に返事しないで、アルフレート」
 わたしはいつの間にか横にいた、にやにや笑うアルフレートを睨みつけた。
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