二章 猫はもてなしがお好き
リーダー誕生2
 猫達に泊まる部屋を案内されたのは、既に夕方近い時間になってからだった。用意された部屋は二つ。男女に別れ、わたしとイルヴァ、ローザが同じ部屋へ入って行った時は猫達も不思議そうな顔をしていたが、ローザのしゃべる姿を見て何やら納得顔になっていった。物分かりの良い子達である。
 部屋は広さもベッドの柔らかさも申し分ないものだった。一つ気になるのはやっぱり窓が少ないこと。明かりを取り入れる為に上の方に横長の窓があるだけである。
「何か拍子抜けよねー」
 ベッドにうつぶせに寝転んだローザが枕に顔をうずめ、唸る。
「うん、特に問題のある人にも見えないけど。付き合いが薄いだけなのかもね、村の人と」
 わたしの言葉にイルヴァも頷く。
「田舎特有の陰湿さなんですよ」
 ……それはちょっと同意しかねるが。
 でも村の人にも問題がある気がしてしまうな。バレット邸に入るのを最後に行方不明になった人がいる、なんて話しも見間違いなのかもしれないし。
「まあ無理矢理気になるところを上げれば、何で学園の事をあんな興味があるのか、よね」
 わたしが言うとローザは首を傾げる。
「若い子の話しが面白いんじゃない?お年寄りってそういう方多いわよ」
 とんとん、と遠慮がちなノックの音がする。
「はーい」
 一番近場にいたわたしは扉を開けた。目の前にはヘクターの顔。
「うどあ!!」
 わたしは思わず後ずさる。ここ最近の流れで少し馴れたとはいえ、顔アップはだめだ。
「今、大丈夫?」
 ヘクターが言うと、その後ろからアルフレートとフロロも顔を出す。
「このお兄さんが何か言いたいことがあるらしいぞ」
 そう言うとアルフレートは部屋にずかずか入ってくる。部屋をぐるっと見て一言。
「ふむ、部屋の質は一緒なんだな」
「デリカシーのないエルフねぇ……」
 ローザがむくり、と起き上がった。
「で、話って?」
 みんなが適当にベッドに腰掛けるのを見て、わたしはヘクターに尋ねた。
「いや、その、さっきの『リーダー』の話なんだけど……」
「ぴったりじゃない。他に誰がやんのよ。いよ!リーダー!男前!」
 ローザの冷やかしにも、めげずにヘクターは手を振り遮る。
「いやいや、俺はさ、ここに入れてもらった立場なわけだよ。新参者がやることじゃないような気がするんだけど……」
「私がやるよりかはよっぽどマシですよぉ」
 イルヴァの大変自覚ある言葉に、皆頬を引きつらせる。
「なら逆に尋ねよう。他に指名するとすれば誰がいい?」
 アルフレートに顔を覗きこまれ、ヘクターは困ったように頭をかいた。暫く考えた後、ローザを指差す。
「ローザとかは?」
「あたし?リーダーっていうと何かと教官と話ししたり、あと依頼人と話すのも役割でしょ?無理無理、オカマだもん」
「じゃあアルフレート……」
「私か?言っとくが教官にも依頼人にもおべっか使わないからな。それと全員が私を神と崇めるならいいぞ」
 それわたしが嫌なんですけど。そう思い、アルフレートの顔を睨んだ時だった。
 とんとん、と再びノックの音がする。
『お食事ですにゃー』
 扉の向こうからは茶虎猫の声。
「じゃ、そういうことで」
 ローザは立ち上がるとヘクターの肩をぽん、と叩いた。
「応援してるぞ」
 これはアルフレート。
「ヘクターさんなら大丈夫ですぅ」
 これはイルヴァ。三人は順に部屋を後にする。そしてフロロはおもむろにヘクターの肩に乗ると、肩車の体勢をとった。
「さ、行こうか」
 それを聞くとヘクターは溜息一つ、諦めの表情で立ち上がった。ハラハラと状況を見ていただけの自分が情けない。
 廊下に出ると茶虎猫を先頭にぞろぞろと歩く列。その最後尾にいる白猫がわたしを見てにやー、と笑う。
「今日のご飯は張り切って作ったにゃ。タンタもいっぱい手伝ったにゃ」
「あ、タンタっていうのね、あなた」
 わたしは思わず顔がほころぶ。先端が黒い模様なのを見るに始めに部屋を案内してくれた猫だろう。
「こんなに大人数の食事頼んでごめんね。大変だったでしょう?」
 わたしが聞くとタンタは大きく首を振る。
「にゃん達はお世話するの大好きなんだにゃー。お仕事いっぱいあると嬉しいにゃ。若い人ご飯いっぱい食べるから大好きにゃー」
 若い人、っていうとバレットさんもそんな事言ってたな。しかし働くのが好きとは。彼ら皆がそういう性格なんだろうか。
「ウェリスペルトの学園にも行ってみたいにゃー。若い人いっぱいにゃー」
「一度来てみれば?わたしが案内するよ」
 するとタンタは大きな目をぱちぱちさせ、ゆっくりと首を振る。
「……バレットさんに村から出ないよう言われてるにゃ。にゃん達とバレットさんとのお約束」
「あー、そうなんだ……」
 わたしはそう呟き、タンタのぽてぽてと可愛い歩きを眺め見る。
 村から出ちゃいけない、とは。どういうことなんだろう。
[back][page menu][next]
[top]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -