二章 猫はもてなしがお好き
リーダー誕生1
「君らが『卵』達かね。よろしく頼むよ」
 わたし達がお茶を飲みつつ待っていると現れたバレットさんは、拍子抜けする程普通の人だった。
 研究者特有の変わり者の雰囲気はうっすら醸し出しているものの、頭がボサボサなくらいで、柔らかい顔つきはむしろ良い人そうであった。歳は六十を超えるぐらいか。白髭で顔を覆い、同じ色の頭は寂しくなっている。小柄なので威圧感も無く、青いローブを着ている姿は魔術師のようにも見えた。
 『卵』とは、学園外の人がよく使う、わたし達のような学生の愛称だ。
「君達を呼んだのはね、私の研究に必要な材料を付近の洞窟から採ってきてもらおうと思ってなんじゃが」
 そこまで言うと、バレットさんは髭をさすりつつわたし達を見回す。
「若い子はいいのー。目がキラキラしとる」
と嬉しそうな声を上げ、にこにこした。おじいさんと言っていい年代の人から見るとそう見えるのかしら。
「で、話の続きじゃが、その材料というのが『ポゼウラスの実』でな」
 ポゼウラスの実。わたしも魔術を習う身である。その存在は辛うじて、といった程度の知識でだが知っていた。
 光を好まない植物、しかしながらある程度の温度湿度が必要な生態で、それゆえ洞窟などに生える珍しい植物である。洞窟といえば野良モンスターの巣になるのが世の常。そのため依頼してきたのであろう。
「その姿がわかる方はいるかの?」
 わたしとローザ、アルフレートが手を上げる。わたしは図鑑で見ただけの知識だが十分だろう。
「よしよし、なら大丈夫そうじゃの。で、この村から半日程の所に自然洞窟があるんじゃが、そこの奥に生えてるはずじゃ。小さい洞窟だから苦労も無いだろう」
「今までもそこで調達を?」
 アルフレートの質問にバレットさんは頷く。
「ここに来て何年になるかわからんが、ずっとじゃ。今までは流れの傭兵に頼んでいたんじゃが、欲しい時期に丁度よく流れの傭兵が村にいるとは限らなくての。今回初めて学園に依頼したんじゃよ」
「じゃあ最後に頼んだ傭兵が、根こそぎ取ってない限りはあるはずだ」
 アルフレートが一人呟く。彼がしつこく聞くのには訳がある。ポゼウラスはその珍しい生体ゆえ、あまり見かけることがない。ここにないから他を探そう、とはなかなかいかないのだ。自分たちの非がないとしても、行ってみてありませんでした、では後味悪い。『見つけてくるまで探し回れ』なんて言われないとも限らない。
「乾燥させて使うんですよね」
 わたしが聞くと、バレットさんは満足そうに頷いた。
「そう、よく知っとるな、お嬢ちゃん。だから持てる限り持ってきてほしい。ただし、後先のことを考えて根は残してきてくれよ。根が残ればそこからまた成長するじゃろうからな」
「お茶のおかわりをどうぞにゃ」
 会話が途切れた調度いいタイミングで猫達が紅茶を運んでくる。「一緒にどうぞ」とカップケーキまで出された。オレンジの輪切りの蜜漬けが乗ったそれを見ていると、
「食べながら少し話そうじゃないか。そうだなあ、学園の話しなんて聞きたいねえ」
バレットさんににこにこと言われるが、皆顔を合わせて躊躇してしまう。こんなにのんびりしていて良いのかな。その気持ちを見透かしたようにバレットさんは手を振った。
「今日は時間も中途半端だから、出発は明日にするといい。寝場所と食事は提供するから、年寄りの話に付き合ってくれると嬉しいね」
「そういうことなら」
 わたしは答える。こちらも珍しい学者の話を聞いてみたいところでもある。
 バレットさんの質問により学園での授業やどんな教官達がいるのか、生徒の数、学校内の施設などを話していく。興味深そうに聞いていたバレットさんがわたし達一人一人を見回した。
「君らは何故、このメンバーで組むことになったのかね?くじか何かで決めたのか?」
 バレットさんの問いかけにローザが「いえ、そうじゃ……」と言いかけた時、
「学園でも優秀な生徒の集まりですよ」
アルフレートがにこやかに答えた。「はは……」と何人かの乾いた笑いが響く。
「そいつは楽しみじゃの〜。くじ引きじゃないとすると、生徒が自主的に組むということか。なかなかシビアじゃの」
 わたしは頷きつつも、こんな話し面白いのかな、と思ったりする。しかしバレットさんは身を乗り出し質問を続けてくる。
「パーティの役割もあったりするのかね?例えばリーダーとか」
「この人です」
 バレットさんの質問にローザが即答する。指差されたヘクターがむせこむ。
「え、ちょ……」
 何か言いたげに全員の顔を見るヘクターだったが、全員から目を逸らされてしまい、最後にバレットさんと目が合う。
「やっぱりリーダーになる子は見た目も違うの〜。お兄さん、男前じゃよ」
 バレットさんの言葉に後ろにいた猫達がぱちぱちと手を叩いた。
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