一章 探せ!ぼくらのリーダー
リーダー狩り2
「まだパーティ組んでない奴ねぇ」
 ディーナ&ジリヤと分かれ、話し掛けることに成功した一人目の人物、赤毛のクリスピアンくんは答えながら顎を摩った。
 わたしは元々彼の事を知っていた。交友範囲が広いのか魔術師クラスの校舎でもたびたび見かけるからだ。整った顔に明るく派手な雰囲気。腕も立つなかなか評判の高い人物である、らしい。なんせ腕前に関しては噂で聞いた話しでしか分からないからだ。授業風景はよく覗いているものの、魔術師であるわたしには腕の差なんてよく分からないというのが本音だ。重い武器を振り回しているだけで充分凄いと思うし。
 さて、目の前のクリスピアン君、目立つ存在なゆえ友達も多いようなタイプだ。わたしも数回程話したことがあり、それだけで彼の気さくさが分かる。彼を見つけてとりあえず聞き込み開始。別に彼がパーティに入ってくれなくとも情報が聞ければ十分なのだ。すなわち、彼の友達ならそれなりの人が多いはず。いやらしい考えだが人間、自然と同じようなタイプが集まるものなのだ。
「意外と多いぜ。俺の周りじゃ」
 返ってきた答えはまさに意外なものだった。
「え?そうなの?」
 わたしが驚いていると彼は頷き、腕を組んだ。
「結構選り好みしてるやつが多いからなぁ。俺の友達なんかでも、何組も断ってたぜ。なんでも『入れてもらおうと思ってるところがあるから』とかなんとか」
 わたしとローザは顔を見合わせる。うーん、うらやましい話である。こういう話しを聞いてしまうと嫌でも格差を感じてしまうじゃないか。
 そんなわたし達の空気を読んだのか、クリスピアンは苦笑しつつ首を振る。
「あ、そういう贅沢な状況の奴ばっかりじゃないよ?単純に仲間が揃わない奴もいっぱいいるしな。ファイタークラスだと魔術師クラスの知り合いがいない奴って多いからさ。ほら、建物も違うし」
「なるほど……。けっこう同じ悩みの人もいるかもね、わたし達と」
「そういうこと。だから良い方だよ、メンバー5人まで決まってるんでしょ?」
 良い方、なのかは置いておき、クリスピアンの笑顔にわたし達が頷いた時だった。いきなりぶわっ!と黒い影がわたし達三人に覆いかぶさる。
「え?」
 わたしは頭上を見上げた。視界に飛び込んできたのは素早く動く二つの影。次の瞬間、
「うおわ!!」
 クリスピアンの絶叫が廊下に響き渡った。足下の光景に唖然とした後、立ちくらみがする。
「何してんのよぉおおお!!」
 ローザの絶叫する声。目の前には巨大な虫網のようなものを地面に振り下ろしてがっちり押さえこんでいるアルフレートとフロロの姿。網の中ではクリスピアンがもがいている。
「な、なんなんだ!?」
「ふふふ……、我々は君を拉致しに来たのだよ。おとなしく我々のパーティに入るんだ」
 恐ろしいことを言いつつクリスピアンに近づくアルフレート。
「何言ってんのよ!無理矢理すぎるでしょ!つーかなんでフロロまで手伝ってんのよ!」
「楽しそうだから」
 さらりとわたしに答えるフロロ。こ、こいつ。ある意味アルフレートより性質が悪い。
「お前達もよくやったぞ。よくこの男の気を削いだ」
「共犯にするな!さりげなく!」
 アルフレートの頭をはたくわたし。クリスピアンは呆気に取られていたが、ようやくもぞもぞと網からはい出してきた。
「ご、ごめん。俺はもう無理だよ。決まってるんだ。メンバーが」
 律儀に答えてくれるクリスピアン。いい人だ……。
「ちっ、なら貴様にもう用はない。行くぞ!フロロ!」
 悪役でしかない台詞を吐きつつアルフレートは網を掴むとフロロを手招きする。割とあっさり退くのを見ると完全に遊び目的なのが伺える。
「ちょっと!待ちなさい!」
 ローザが叫ぶもむなしく、次の瞬間には二人は消えていた。くそー、さすが妖精コンビ。足が早い!むなしい風が吹くのみの廊下に佇む。
「君達も大変だね。まあ楽しい仲間とも言えるじゃない」
 クリスピアンの軽いの声にローザが返す。
「じゃあ交換してよ。今ならコスプレ女も付けるわよ」
「……仲間なんじゃないの?」
 この質問にはわたしが答える。
「仲間だけど深い友情で結ばれてるわけじゃないのよ」
 隣りでローザも頷いている。すると、表から戸惑いと驚きを混ぜたような悲鳴が聞こえてきた。
「も、もしかしてあの二人じゃないの!?」
 ローザの声にわたしはクリスピアンへの挨拶もそこそこに駆け出す。後ろから必死の形相でついて来るローザがわたしに叫んだ。
「あの馬鹿共!今、騒ぎ起こしてどうするのよ!始めは大人しく良い顔しとけば捕まえることも出来るかもしれないのに!いいリジア、これは男を捕まえる時の常識よ!」
 実行したことがあるのだろうか、というどうでもいい疑問が湧いてきてしまう。が、頭を振ることでそれを消し去った。
「解散も考えた方がいいな、こりゃ」
 そう呟く。組むのも早ければ散るのも早い。共に学園記録なのではないか。脇に避けていく生徒達を見ながら、そんなことを考えてしまった。
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