一章 探せ!ぼくらのリーダー
リーダー狩り1
「がり勉男の言う事も一理あるわね」
 ローザがお弁当のタコさんウインナーを刺したフォークを握りしめ、唸った。
「いや、一理どころか真理だろ」
 フロロがチキンサンドにかぶりつきながら答える。わたしが話したロレンツの台詞の内容に全員が考え込んだ。
 わたし達のパーティが教官達に認められるには、誰もが認める優秀な生徒でなければならない。そして優秀な生徒程、パーティ組みには苦労しないはずなので次々に『売れて』いくのだ。時間が経つほど状況は悪くなる。
「イルヴァにお友達がいれば良かったんですけど。コスプレ仲間ならいるんですけどねえ」
 イルヴァが残念そうに呟いた。本日の衣装はヒョウ柄のビキニに角の付いたカチューシャを頭につけている。この格好で授業受けてるんだろうか……。暴れまわった時に目のやり場に困る姿だ。
「いや、イルヴァが増えても困るだけだから」
 わたしが手を振るとイルヴァは首を傾げる。その仕草を見て思う。わたしもピンチではあるけど、この娘も皆バラバラになった際に新しい仲間の元で上手くやっていけるんだろうか。
 わたしは考えなど浮かんでくれない頭で空を見上げる。四階の渡り廊下、最上階にあるここは屋根がなく、スペースも広めで日当たりがいいので、シートを敷いてランチを取る生徒も多い。今日はわたし達三人の他は二組程、輪を作って食事を取っている。
「悠長にしていられないのであれば、それなりの方法を考えるしかない」
 後ろからした声に振り向くと、りんごを齧るアルフレートの姿。彼はわたしの隣に座ると、わたしのお弁当箱の蓋にりんごの芯を捨てた。
「どんな方法よ?」
 わたしは聞きながら、芯をアルフレートの膝に突き返す。
「頭を働かせる前に聞き返すのは馬鹿のやることだぞ」
 アルフレートは鼻で笑いながら、返されたりんごの芯をイルヴァのお弁当箱に投げる。それをイルヴァは見事な反射で弾き飛ばした。
「何それ?自分だって考えなんて無いくせに」
 わたしが性格の悪いエルフを睨む横で、空から舞い戻ったりんごの芯がローザのお弁当に、ぽとり、と落ちる。ローザがわなわなと震えだした。
「きゃー!!もう食べられないじゃない!」
「私は病原菌か!!」
 騒ぐオカマとエルフの横でフロロが「うるせえなあ」と耳を押さえる。のん気だな、と溜息つかずにはいられない。
「……考えなら一個あるわよ」
 わたしの言葉に全員が振り返る。立ち上がり腰に手を当てるわたしを見るメンバーの顔には期待の色はない。内心むっとしつつ口を開いた。
「聞き込みよ、地道な聞き込み。確かな達成を得るには地道な努力が必要なのです」
 胸を張るわたしにローザは「あら、あたしの得意分野だわ」と手を叩き、アルフレートとフロロの妖精二人は露骨に嫌な顔をした。


「やだあ、緊張しちゃう!」
 ファイタークラスの校舎、重そうな両面開きの扉の前でローザが首を振る。
「いや、顔嬉しそうだし」
 眉を下げつつも口元が緩んでいるローザにわたしは突っ込む。そう言っている間にもローザの目は通り過ぎる男子達へと泳いでいる。獲物を探すハンターに見えるのはわたしだけか。
 『地道な』と言った途端にふらりと消えた妖精二人のことは諦めて、わたしとローザは正面口から、イルヴァは裏口から校舎を回り聞き込みをしていくことにする。休み時間ということもあるが、やはり同じようにメンバー集めに苦労している同族の姿もちらほらあった。その中の一つに目が留まる。
「あら、リジアのお仲間」
 ローザの言うとおり、入り口付近の廊下で身を縮めている二人組みは真っ黒のローブ姿。やっぱりこういう場だと黒ずくめの方が浮いてるじゃない、と妙に誇らしい気分になった。向こうもこちらに気付いたらしく「あ」と声を上げた。一瞬、気まずそうに目を伏せていたが、その後は何故か睨んでくる。
 二人の顔に見覚えのあったわたしは好戦的に睨み返す。なぜならわたしを『敬遠されそうな問題児』と笑った二人だったからだ。
 お仲間には徹底的に強気な内弁慶のソーサラー達が睨み合う様を、
「やだあ、おもしろーい」
とローザは眺めている変な状況が暫く続く。が、虚しくなったのか一人がわたしに尋ねてきた。
「……仲間、揃った?」
「いや、だからこんな所に来てるんじゃない」
 わたしの答えに黄緑色の不思議な色合いの髪をした少女は少しほっとしたように息をついた。もう一人のオレンジヘアーも寄ってくる。黄緑色がディーナ、オレンジがジリヤである。
「私達もまだ揃ってなくて。ここにいれば声掛けがあるかな、って思ったんだけど、もうやだ……。知らない人と話すくらいなら学校辞めたい」
 ディーナの半泣きの台詞に、横目に見えるローザの表情が呆れの極みになるのが窺えた。わたし自身はここまでではないものの、これが『ソーサラークラス』なのである。
[back][page menu][next]
[top]
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -