一章 探せ!ぼくらのリーダー
銀の戦士2
 学園のグラウンドで皆と別れた後、わたしは裏門のすぐそば、通学用のバス停のベンチに腰掛ける。魔法の『ライト』がいたるところで光る学園は綺麗だ。それを眺めながら肩に掛けていた重いカバンを横に置いて肩を回した。
 ソーサラークラスの生徒のカバンは重い。魔術書に限らず他の教科のテキストもいっぱい持ち歩いているからだ。魔術師というのはパーティ内の役割において知識人として振舞うことも求められる。魔術師というのが本来「世界を解明する人」という職業だったかららしい。わたしも日夜、泣きそうになりながら外国語や数式を解いているのだ。
 今日は授業数も少なかったのに……しかも内一コマはサボったというのに、やけに疲れたなあ、と思う。気疲れ、なんていうと生意気かもしれないが、そんなものかもしれない。
 時間が時間なのでバスを待つ人も自分以外いない。そんな開放感から足を伸ばしていると、裏門からきい、という音がした。見ると緑色のローブにそろいのハットを被ったメザリオ教官が、重そうなカバンを抱えて出てきたところだった。
「おお、こんな遅い時間まで残ってたのか。で、どうした?」
 問いかけに躊躇しながらも残りのメンバーを探すことを伝える。
「そうか」
 教官は厳しい顔に見えるが、どこかほっとしたようにも見える。わたしは思わず、
「すいません」
と謝っていた。それを聞いた教官はベンチのわたしの隣りに腰掛ける。「よっこらせ」という掛け声に少し笑いそうになった。
「……実はな、私はこんな職に勤めているが所謂冒険者、という職の経験はない」
 驚いて教官の顔を見てしまったが、考えてみればそうかもしれない。前にちらりと聞いた話ではメザリオ教官はずっと学問をやってきて、就職先としてこの学園に来たのだから。
「だから、正しいパーティの形なんて分からない。これが本音だ。でも少しでも違う、と思えば私は生徒にブレーキを掛ける。これが私の仕事だからだ」
 教官の言葉が胸にじんわりとした痛みを残す。悲しいのかもしれない。嬉しいのかもしれない。教官が黙っているのを確認すると、わたしはぽつりぽつりと不安を打ち明けていった。
 正直コルネリウス教官から退学という言葉を言われるまでは、わたしは軽く見ていた気がする事。自分の出来損ないを軽く考えていたわけじゃないけど、「わたしだって頑張ってるじゃん」で認めてもらおうとしていたのかもしれない、という事。
 自分が思っていた以上に教官達はわたしを問題視していた事がショックだった。でも考えてみればオカマだってコスプレだって人様に迷惑はかけてないもの。暴走魔法の使い手があのパーティ編成で一番のネックかも、なんて気付いてしまったのだ。
 そんな事を教官に伝える。するとメザリオ教官は何度も頷いてみせ、
「頑張りなさい」
 そう一言呟いた。慰めの言葉や叱咤激励が無いのが教官らしい。それにこの一言で「頑張っていいんだな」という気持ちになっていた。
 わたしがお礼を伝えようとした時、再び門の動く音がした。出てきた人物はわたしと教官を見て戸惑った顔をした後、頭を軽く下げる。わたしはといえば跳ね上がる心臓と一緒に体まで持ち上がりそうになった。
 腰元に携えた長いソードに灰色のジャケット、黒いブーツの人物に教官が声を高くする。
「おお、ヘクター・ブラックモア。君も今帰りか」
「はい」
 そう答える彼の銀の髪も青みがかったグレーの瞳も、夜を照らす光源によって今は不思議な色合いに見えた。
 教官と何か話しているが動揺で全く頭に入ってこない。ただファイタークラスの生徒であるはずの彼の名前を、メザリオ教官がさらりと口に出したということは、それだけ教官達の間で期待されているのだろうな、と思う。
「送っていってやってくれないか?」
 そんな言葉と共に、教官がわたしを指差しているのに気がついた。一気に意識が覚醒する。
「いや!結構です!大丈夫!」
 わたしは真っ赤になった顔を隠すように手を振り続けた。教官が「何いってる」と少し怒ったような声を出す。
「だったらこんな時間まで居残っちゃいかん。今日のところは送ってもらいなさい。……悪いね?」
 そう言って教官は隣りの彼に尋ねる。
「いえ、大丈夫です。送っていきます」
 教官に答えながらヘクター・ブラックモアはわたしを見て、少し照れくさそうに微笑んだ。
 ちょうどその時、道の向こうから乗り合いバスを引っ張るコルバインの足音が聞こえ出した。地鳴りのような響きをさせて、巨大な馬のようなコルバインはバス停前に止まる。
「……家、どの辺?」
「え!?」
 ヘクターの質問に季節はずれの汗が吹き出る。後ろから教官がじっと見ていた。な、なんで嘘つくなよ、って空気なのかしら。
 悪いので適当に近い所を言おう、と思っていたが教官の影が動かない。わたしは正直に家のすぐ近くの通りの名前を伝えた。
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