一章 探せ!ぼくらのリーダー
銀の戦士1
「まさか許可貰えないとはね」
 既に窓からの光が夕暮れの茜色に染まってしまった中、眉間に深い皺を作り気だるい空気でローザが呟いた。
 放課後のカフェテリアには居残った生徒達が何をするわけでもなく、たむろしている。大体は友達と談笑するのに安い学食の飲み物を利用する人々であり、学校の雰囲気を名残惜しむかのようにただ、だらだらと他愛無い話を続ける。
 その中で笑顔もなく、たまに口を開けばうなり声をあげているわたし達は周りから見れば異様なのであろう。心なしか距離を置かれている。
「許可貰えないどころじゃないわよ。全否定じゃない」
 わたしはいらいらとしながらも、メザリオ教官の出した決断、コルネリウス教官の指摘も間違ってはいないのだ、と苦い思いだった。
 校外に出て人に触れる、依頼を受ける、遂行する、それらが始まるということはわたし達はこの学園の『顔』になるわけだ。半端な情で許可を出すわけにもいかないのだろう。
 テーブルに工具を広げて何かの金属片をいじっていたフロロが顔を上げる。
「もういいよ。こうなったら勝手に出掛けちまおうぜ」
「勝手に行ってどうするのよ!クエストは教官達が用意してるんだし、単位だって貰えないわよ」
 わたしはフロロの適当過ぎる意見を却下する。退学をちらつかれたわたしには常識外をやって教官達を見返す、なんて勇気も持てなかった。
「じゃあ言われた通りにするしかない。一からメンバーを探すか、残りの一人を探すか、だ」
 アルフレートが指を二本立てて、ゆっくりと繰り返す。思わぬ駄目だしに自信を失いかけていたが、考えてみれば演習の話しが出たのは今日のことなのだ。まだ他の生徒はこれからメンバーを探す段階かもしれない。少なくとも教官達が納得するような非の打ち所の無い人格者を探すよりかは、すんなり行きそう。しかしだった。
「……なんか悔しいよね、ばらばらになるのは」
 ぽつりと本音を漏らす。同じテーブルを囲む全員が頷きはしないものの、同じ空気になったのを感じた。どことなくしんみりした空気をローザが手を叩いて破る。
「じゃあ、残りの一人を探す方向で考えましょう!」
 明るい声に少し気持ちが和らぐ。わたしは大きく頷いた。
「そうなるとファイターだな」
 アルフレートがイルヴァを見る。各クラスの生徒が揃ってしまっているわたし達には、複数人いても形になるというとファイタークラスの生徒しかない。元々、推奨されるパーティの形は「前衛と後衛、半々ずつ」というものだった。ぽやっとした顔のままの彼女にわたしも尋ねる。
「イルヴァ、誰か知らない?」
「イルヴァ友達いないんですよねえ」
 イルヴァはそう答えると「てへ」と舌を出した。こんなに明るく友達いない宣言をするのも、ある意味相当な強さがないと出来ないのではないか。がっかりしつつも少し感心する。
「安心しろ、私もいない」
 自慢げに答えるアルフレート。どうでもいい。
 しばらくの間、知っている名前を出し合う。リーダーになってもらうくらいの人だ。わたしのクラスでいうロレンツのような優秀な人。わたし達でも知っているような人、というとやっぱりうちには入ってくれそうにない。極めつけが名前を知っていても友人といえるような人が全員いないことだった。
「……腹減った」
 フロロが切なげにぼやいた。わたしも言われてみて空腹に気がつく。窓の外を見ると茜色はとうに過ぎ去り、既に暗くなっていた。
「とりあえず今日のところは帰ろうか。もう学園に残ってる人も少ないだろうし」
 わたしは半分自分に言い聞かせるように提案する。全員が頷き、立ち上がった。
 いつの間にか人気がさっぱり消えていたカフェテリアを出る時、ローザがわたしの肩を叩く。
「大丈夫よ!あたし最近『フロー神』がとても近くに感じるの。きっと何もかもうまくいく前兆だと思うのよね」
 フローとはローザの信仰する大地母神だ。豊穣や大地の恵みを司り、結婚や恋愛、命の営みといったものを推奨する『愛の女神』である。世界を創造した六柱の神の一つなので、当然信者も多く、神殿、教会もいたるところにある。
 ローザを始め司祭達は皆、神からの助言を貰う『インスピレーション』と呼ばれる力がある他、勘が冴え渡るというような現象もあるそうだ。いずれも自分のさじ加減でどうにかなる問題ではなく、全て神の気まぐれらしい。
「近くにいるって、神様ってそんなに暇なの?」
 思わず出た正直な感想にローザは顔をしかめる。だってこの世界にどれだけのフロー神信者がいるのか知らないけど、一人に付きっ切りになってくれる神様なんて相当暇なんじゃないだろうか。
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