一章 探せ!ぼくらのリーダー
オカマ、嘆く2
「まず、貴方達は一人一人が問題視されている存在だということを理解しなさい」
女性教官――コルネリウス教官は持っていた指示棒をびっ!と伸ばした。五人の背筋が伸びる。
「貴方」
 指示棒で差されるのはイルヴァ。人形のような顔を傾げて見せる。
「日ごろから服装について注意を受けているはずです。ファイタークラスの生徒は薄い物でもレザーアーマーか防護服を着用のはず。……なんですか、その格好は」
 メザリオ教官を含めてその場にいる全員がイルヴァのフリフリな服を見る。
「ミニスカート、防護服無し、靴もなんですか、その厚底のヒール靴は」
「確かにねえ」
 頬に手を当て溜息つくローザに「ハイそれ!」と指示棒が迫った。ローザは身をのけ反らせる。
「個人の性格についてとやかく言いたくありません。けどね、外部の人間がオカマ言葉全開の生徒を見て、どう判断するかは、我々も関与出来ません。普通ではない、これをまず理解しなさい」
「お、オカマの何が悪いのよ!」
 うわーんと泣き出すローザに一気に修羅場感が増す。いかん、ここは地獄だ。
「婚期逃した独身女のヒステリーって嫌だよな」
 にやにや笑うフロロの頭に指示棒がぱちん!と当たる。「いてえ!」という悲鳴があがった。
「貴方はそれ!その口の悪さがトラブルの原因になるかもしれない!それを胸に置きなさい!盗賊としての腕前がどうこうなんて関係ありません。この問題児達を引っ張る力は貴方には無いんだから!」
 痛そうに頭を摩るフロロに同情するものの、普段からコルネリウス教官の魔術理論の授業はとんでもなく厳しいのだから馬鹿だな、とも思う。
「……そして一番の大きな問題は貴方達」
 指示棒が差すのはわたしとアルフレートだった。わたしは棒の先をぎょろぎょろと見つめ、アルフレートは欠伸する。
「貴方達が演習場や校舎の壁、窓ガラスをそれぞれ破壊したその修繕費、それはどこから出てるか知っていますか?」
 コルネリウス教官の目がすっと細められた。黙っているわたし達に教官は縦にやたら長い一枚の紙を突きつける。ずらずらと並ぶ日付と学園内の施設の名前に嫌な予感がする。これってもしかして、わたしとアルフレートが破壊して、修理が必要になったもののリストなんじゃないだろうか。
「学園の維持費用からです!学園の予算なんです!貴方達が大人しければ魔術書がいくつ増えたでしょう!奨学金枠がいくつ増えたでしょう!……いいですか?貴方達、特にその二人は退学寸前の状況だということを肝に銘じなさい」
 その言葉にぎょっとする。退学になったらどうすればいいんだろう。というかどうすれば回避できるんだろう。大人しくしてれば、って授業の一貫だったんだけどな。……ってそれがマズイのか。
 わたしの動揺を見透かしたようにコルネリウス教官は指示棒を手の上で弾いた。
「今回は見返すチャンスだと思いなさい。学生としては底辺の貴方達が、冒険者としては立派なものだと、周りを見返して御覧なさい。そしてこの学園、貴方達を慈悲で許容してくださっている学園長に恩返しなさい。プラティニ学園の生徒、そしてその出身冒険者は頼れるということを、世間に知らしめるんです!」
「そ、その為には!?」
 熱い演説にわたしは思わず大声で尋ねる。コルネリウス教官は厳しい顔のまま答えた。
「まずはバラバラになる方がいいと思うわよ?メザリオ教官が言いたいのも、よりによって学園の問題児が一同に揃ってることを仰っているんだから」
 一瞬の間の後、全員がメザリオ教官を見る。視線を向けられた教官は額に浮かんだ汗を拭きつつ息をつく。
「……まあまあ、何も全員バラバラになれ、とは言わん。数人ずつ分かれるのでもいい。それか、まだ五人なんだ。最後にもう一人、そうだな、君らをびしっと導いていけるような生徒を探すんでもいいぞ」
「既に輪が出来あがってるグループに外部からリーダーを引っ張ってこい、って事か?そりゃあ若い身空には酷じゃないかね?」
 アルフレートがメザリオ教官の肩に寄りかかる。こんなに自分の立場が分かってないのも羨ましい。再びコルネリウス教官のこめかみに筋が浮かんできたのを見て、わたしは慌ててアルフレートの腕を引っ張った。
「わ、わかりました!出来るだけ早く残りの一人を見つけてきます!そりゃあ教官達もびっくりしちゃうような!」
 そう喚きながら仲間の腕を引っ張り、全員を教官室の外へ押し出す。重い空気を遮るように扉を閉めると、その場にへたり込んだ。
「……ど、どうするの?あんなこと言って、リジア、当てでもあるの?」
 ローザの小声の質問にわたしはゆっくりと首を振る。
「あるわけないじゃない……」
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