一章 探せ!ぼくらのリーダー
猫の企み2
 フロロとイルヴァに挟まれながら移動し、いつも昼食を取っている中庭に着く。噴水が中央にある芝生の上に数組の生徒達がいた。その中の一つ、異様な雰囲気を出す二人組みに近づいていく。
「……どうしたの?」
 わたしがそう声を掛けたのは白地に金の刺繍が入った美しいローブを着るプリースト、ローザ。綺麗な顔を歪めてメソメソと泣いている。その彼女が寄りかかっている人物は、露骨に嫌な顔をしてこちらを見た。
「早く何とかしろ」
 偉そうな口調でエルフのアルフレートはわたし達三人を睨んできた。
「慰めろって?曲芸でも見せりゃいいのかい?」
 その場に飛び跳ねるフロロにアルフレートは舌打ちする。
「その減らず口を慰める方向に役立てろよ、フロロ」
「アルの方こそ嫌味ばっかりで、人の慰め方はわかんないんだろー?」
 言い合う二人の異種族の横でイルヴァがローザの頭を撫でた。
「どうしました、ローザさん?オカマが原因でいじめられました?」
「その遠慮が少しも無い言い様がムカつくけど、そうかもしれないわあ……」
 そう零しながら漸く顔を上げたローザの話しを聞いていく。
 プリーストクラスもわたし達と同じ時間に、教官から『演習』の説明を受けていたらしい。一通り終わった後、教室を出ると知り合いのソーサラーがいたので話し掛けたのだが、何も言わずに物凄い勢いで逃げていったのだという。
「あたし、自分で言うのもなんだけど司祭としての腕前はちゃんとしてると思うし、避けられる要素としては『このキャラ』しか考えられなくて」
 めそめそするローザの話しを聞いて、数年前もこんな事があったっけな、と思い出す。
 入学して直ぐは今のプリーストクラスとソーサラークラス、一緒の『魔術師クラス』として編成されていたので、わたしとローザは同じクラスだった。その魔術師クラスの一番初めの授業、自己紹介の時間の事だ。一人一人が恥ずかしそうに自分の名前等を発言していく中、
「ローザでええす!」
と言い放ったのがヴィクトル・アズナヴール、この人であった。未知のキャラに純情な少年少女は戸惑い、悲しいかな孤立寸前になってしまったローザに話しかけたのがわたしだったのだ。
 実は単に興味があってオカマに触れたかっただけなのだが、ローザ本人はすごく嬉しかったのだという。「マイペースな友人にあたしは救われたのよ」と言われた時はなんだか恥ずかしかった。一人話し掛ければ不思議なもので、ローザはすっかりクラスに馴染んでいた。と思っていたらこの状況というわけか。
 薔薇の刺繍の入ったハンカチで涙を拭うローザに、フロロが口を開く。
「別に生まれ持った個性を変えろとは言わないけどさ、自分が『変人』ってことは理解しろよ。これから学園出て、自分達で依頼を取ってくる機会も出てくるんだ。仲間にオカマがいたら変な目で見られるかも、って考えは別の見方したら『プロフェッショナル』なんだよ。俺は嫌いじゃないぜ」
 フロロの辛辣な言葉に再びローザの顔が歪んだ、と思ったのだが、ぐっと堪えるようにハンカチを握り締める。
「……分かってるわ。でもね、あたしが腹立つのは、その子にちょっっっとでも『パーティ組まない』なんて話しは出してないことなのよ。勝手に勘違いして、しかも逃げていくって。それって凄い失礼じゃない!?」
 野太い雄叫びと共に立ち上がるローザにアルフレートが溜息をついた。
「怒りに変わったんならもう大丈夫だな。……めんどくさい奴だ」
 いつの間にかお弁当を食べ始めていたイルヴァが手を止め、アルフレートとローザを見る。
「じゃあ二人ともメンバー組み終わってないんですね?」
 それを聞いてローザが肩を竦めた。
「まだよ。というか話し聞いたの、さっきだもの」
「じゃあこのメンバーで組めばいいじゃないですか。仲良しなんですもん」
 イルヴァの発言にわたし達は顔を見合わせる。フロロがにやっと笑った。
「……結局『いつものメンバー』じゃん。ま、いいんでないの?」
 そう、この五人がいつもお昼やらなんやらでつるんでいるメンバーなのだ。一人一人ちょっと問題はあるが、わたしが一番落ち着く人達でもある。
 済んでみれば当たり前の結果に終わってしまった。問題の解決である。
 そもそもこれだけクラスが均等に分かれているのに、何故かこのメンバーのパーティは思いつかなかったのだから、わたしもちょっと薄情かもしれない。しかし何より自分があぶれなくて良かったな、とほっとした溜息をついた。
 買って来たサンドイッチの包み紙を解いて顔を上げると、上に見える渡り廊下の窓の奥に見える光景が目に留まる。
 『彼』だ。後ろ姿なので顔は見えないものの、ずっと見てきた人だ。仕草や雰囲気で間違いないと分かる。その彼の前にいるのは見覚えのある顔なのでプリーストクラスの子だろうか。他にも人影は見えるがよく窺えない。
 メンバー入りの相談かな、と思う。本決まりのメンバーなのか違うのか、どちらが誘う側なのかは分からないけど、目立つ人だもの。きっと色々なところから打診があるに違いない。
「演習ねえ、面倒だなあ」
 アルフレートの声に我に返る。欠伸を一つした後、わたしの視線に気付いたのか、
「何だ」
 そう言い放つエルフは人の顔を睨みながら林檎に齧り付いた。
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