一章 探せ!ぼくらのリーダー
電波女2
 午前中の授業のコマが全て終わり、わたしは窓の外を見ながら伸びをする。五期生に上がってからは極端に授業数が減るので、今日わたしが受ける授業はすべて終わっていた。
 がやがやと騒がしくなる教室内、さて、お昼ご飯は何にしようかなー?などと考えていると、教室にメザリオ教官が入ってくる。どことなく空気が張り詰め、自然と全員が席に戻った。
「昼休憩に入る前に一つ連絡事項を伝えておくぞ。えー、諸君も既に知っていると思うが、来週から『演習』が開始される。クエストを受諾出来る状態になる……その前のテストだな」
 全て周知の事だったが、メザリオ教官から改めて話しが上がると、やはり皆の雰囲気も変わる。テスト、といっても普段受ける古代語のテストや魔術理論のテストとはわけが違う。五、六期生はクエストを受けることで単位を稼いでいかなくてはならないのだから、実質この『演習』のテストを乗り越えなければ卒業は無い。
 もちろんこれ以降も学園に通うのは変わりないが、四期生までに比べれば少ない授業の単位取りの為と、主に情報収集に集まることになる。『半冒険者』のような立場になるわけだ。
「演習にはパーティを組んだ者から参加する。パーティメンバー編成書は今日の放課後から受付だ。ぼうっとして乗り遅れるなよー」
 普段には無い軽い調子の教官の口調に気遣いを感じた。皆が緊張した状態なのを分かっているのだろう。そこへ一人のクラスメイトが手を上げた。
「あのう、演習って具体的に何をするんでしょう?」
 教官は頷く。
「演習は組んだメンバーと一緒に実際にクエストをこなしてもらう。ただ先輩達が今やってるような本格的なものではないぞ。簡単なものを選り分けて、現地には教官達が一度足を運んでいる。あんまり心配するな」
 そうは言っても学園の外で行動を起こすのは、ソーサラークラスのような『引き篭もり』たちには初めての経験だった。ざわざわと不安の声が漏れ出す。
「これこれ、静かに!まずはメンバー集めだ。人数は四人から六人、クラスをなるべく被らせないこと。これに乗り遅れたら演習には出られないんだから、まずはこっちに集中しなさい。来週から演習が始まるんだから、当然締め切りはそれまでだからな」
 それを聞いてなのか後ろの席から声がする。
「……でもソーサラーは少ないから余らないし、大丈夫よね」
「まあね、でも変な人と組むことになったら大変じゃん」
「きっと卒業してからもずっとの付き合いになるわけだもんねー。深刻よ」
「ファイタークラスは人数多いから大変みたいよ。一パーティに三人以上は厳しいし、余った人は強制的に傭兵訓練に回されるから」
「それ考えると魔術師科にきて良かったと思うわー」
「……まあうちのクラスでも敬遠されそうな問題児もいるから、さ」
「しい!聞こえるわよ……でも仲間に背後から撃たれちゃ堪んないわよね、くく」
 わたしの事ですかー!と頭に血が上る。がたん、と椅子を引いた時だった。
「リジアー!!」
 ばこん!という軽快な音と共に教室のドアが吹っ飛ぶ。「ひ!」という悲鳴が上がった。視線の集まる入り口に立つのはウォーハンマー片手に仁王立ちした電波女の姿。
「リジア!イルヴァとパーティ組みましょう!」
 豊満なバストを自慢するかのように胸を張るイルヴァに立ちくらみがする。隣りにいたロレンツが肩を叩いてきた。
「もう仲間いるなんてすげーじゃん。お似合いなんじゃない?」
 厭味なのか何なのか判断つかないその言葉に、わたしはイルヴァと初めて会った日のことを思い出していた。


「趣味が合うかと思って」
 共通の知人が紹介してくれた女の姿にわたしは「どういう意味だ!」と言いたくなるのをなんとか堪えた。
 ウサギ耳のカチューシャにハイレグカットの水着、網タイツを着たコスプレ女と趣味が合うとは思えなかったが、わたしは頬を引き攣らせつつも握手の手を伸ばす。
 それに応えながら「にへ」と笑ったのがイルヴァだったのだ。


「リジアー!イルヴァと……」
「わわわかったわよ!」
 わたしは慌ててイルヴァの腕を取り、教室から連れ出す。後ろから教官の「……まだ終わってないぞ」という呟きが聞こえるが、気付かない振りをして逃げ出した。
「イルヴァと組んでくれるんですね?じゃあこれからずっと一緒ですねえ」
 廊下を駆ける後ろからイルヴァの嬉しそうな声がする。そう、自分で言うと恥ずかしいがイルヴァはわたしが大好きなのだ。なぜこんなにも懐かれたのか謎でしょうがない。教官からも派手すぎる服装に多少の小言を受けたことはあるわたしだったが、コスプレの趣味は無い。
「じゃあこの調子でどんどんメンバー見つけましょう!」
 とてもポジティブな台詞を無表情のまま叫ぶイルヴァに「分かったわよ」と小声で返した。
[back][page menu][next]
[top]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -