一章 探せ!ぼくらのリーダー
エルフの歌声1
 ここプラティニ学園はローラス共和国最大の『冒険者育成機関』である。
 なんでも故プラティニ氏が50年近く昔に「これからは育成の時代だ!」と数々の戦果をあげてきたモンスターハントをやめて、故郷ローラスの古い町、ウェリスペルトに戻り魔導師協会と冒険者ギルドを総合したようなものを作ったのが始まりらしい。
 ローラスも王政から共和制に移り『侵略戦争は悪である』という風潮になってきた現在、人と人との争いは減ったものの、世に蔓延るモンスターは増加の一途を辿っている。ここローラスの一都市、ウェリスペルトでもたびたびモンスターによる被害を受けていた。
 人と交われない種族達から人類を守る為に存在するのが剣や魔法に長けた冒険者なのだ。
 でもそんな救世主的な目標ではなく、この学園に通う生徒達の間では古代遺跡や未知の土地へ到達するような、旅物語に憧れて冒険家を目指す人の方が多いと思う。わたしもその一人だ。
 ファイター(戦士)、シーフ(盗賊)といった冒険者グループには欠かせない職業全ての学び舎としてウェリスペルトに門を構えるここに、わたしはソーサラー(魔術師)の卵として入学した。魔法のまの字も無い両親から生まれたのだが、近所に住んでいた占い師に魔法の才能を見出され、学園に通うことをわたしも希望したのだった。


 しかし、今現在といえば入学当初の希望や輝いていた日々も消え失せていた。
 まただ、またやってしまった。
 そんな思いから沈みきった気分でわたしはとぼとぼと歩く。次の授業は教室でのわたしの一番好きな世界史の時間だ。でもそんなことはどうでも良かった。
 グラウンドの脇を歩きながら真っ青な空を眺め、真っ黒いローブが訳もなく憎たらしい気分になっていた。
「リジア!」
 校舎の入り口に向かうわたしの足が止まる。見上げれば二階の窓から金髪に青い目の美しい顔が覗いて、わたしに向かって手を振っていた。ヴィクトル・アズナヴール、通称ローザちゃん。そしてわたしの学園内での唯一の親友だったりする。
「ちょっと待ってて」
 そう言い終えるとローザは顔を引っ込めた。わたしは学園の時計塔を見上げる。半世紀前の学園創立から時を刻み続けている荘厳な姿が、次の授業まで少し間があることを告げていた。
「まーたやっちゃったの?」
 ローザが校舎入り口から現れるなりわたしに聞いてくる。
「またやっちゃったよ……。ファイアーボールの実習だったからシャレになってなかった」
 肩を落とすわたしにローザは「おおふ……」と呻いた。そして、
「ちょっと座んなさいな」
と校舎脇にあるベンチを勧めてくる。
「そう落ち込むこともないわよ。また皆から色々言われたかもしれないけど、あたしの予想だとリジアの事を『羨ましい』って人もいると思うの」
 わたしの隣りにぴったりと座り、ローザの言った台詞にわたしは首を傾げる。彼女、いや彼、いややっぱ彼女の綺麗な青い瞳を覗き込んだ。
「ほら、制御出来ないぐらい魔力が大きいってことは、ゆくゆくは凄い大魔女になれるかもしれないってことよ!魔力が大きい人はそれだけ強い魔法も使えるんだし、どんなに唱えても疲れないってあたしも羨ましいわあ」
「ロレンツはちゃんとコントロールして制御出来てるし、わたしは大きい魔法ほど暴走が酷くなってるよ」
 わたしの間を置かない答えにローザは頬を引きつらせる。そして大きく溜息をついた。
「そんなこと言わないで、ちょっと前向きになってくれなきゃ……」
 そこまで言うとローザはわたしの顔を覗き見る。
「何だかいつも以上の落ち込みようね。何かあった?」
「いやあ……騒ぎにファイタークラスの人まで駆けつけちゃったから、恥ずかしくて」
 そう答えるとローザは「ふうん?」と曖昧に頷いた。
 実は『ファイタークラスの一人に好きな人がいる』というのを、わたしは親友である彼女にも言っていない。そしてこれが今回の酷い落ち込みの理由だった。先程の集団の中にちらりと見えた銀髪の少年は、あの騒ぎにどう思ったのだろう。とっさに隠れてしまったけど、きっと周りから「誰の仕業か」は聞いただろうし。
「ああー!もうやだ!穴に入って一生出たくない気分」
 わたしが頭を抱えた時だった。空気がちりちりと震えた気がした。次の瞬間、右手に見えていた隣りの校舎の窓が次々に割れていく。
「ひい!」
 ローザの野太い悲鳴が聞こえたのも一瞬のことで、すぐに別の雑音にかき消される。
「な、に、よ、これ……」
 きっとわたしのうめき声も聞こえていないだろう。両手で必死に耳を塞ぎ、うずくまる。肌までひりつかせる不快音の波。辺りに響き渡る巨大な音の波は、脳髄までかき乱すような破壊力を持っていた。頭を抱え込んだ体勢のまま地面に這い蹲り、ただただ耐える。
「終わった……?」
 ローザが動き出すのを見てわたしも恐る恐る耳から手を外す。何の音もしない学園内に鼓膜がイカレたかと不安になる。が、
「あっちの校舎って『バードクラス』の、よね?」
 ローザの声にほっとする。わたしは彼女の指差す先を見て顔を歪めた。
「また『あのエルフ』じゃないわよね」
「他に何があるのよ」
 ローザの呟きに近い返事を聞く。わたし達は顔を見合わせると、隣りの校舎に駆け出した。
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