アヴァロン 二章 接近
6
アルフォンスと廊下を歩いていると、
「すまなかったな」
と隣りから声を掛けられる。
「……こんなまどろっこしいやり方に、ですか?今の拷問の時間に、ですか?」
「両方だ」
きっぱりと答えるアルフォンスは武人らしい性格だ。何故子供二人はああなのか。母親の影響なのだろうか、と思ったところで下世話な考えかとマイロは首を振った。それにしても、とマイロはアルフォンス・バラックの顔をちらりと見る。見事なまでの二面性を持つ男だ。先程まで家族といた時の顔とはがらりと変わり、今隣りにいるのは間違いなくこの国の武力を統括する重鎮そのものだ。
「こっちだ」
そう言ってアルフォンスは突き当たりになる部屋を開ける。天井まで届く本棚が並ぶ書斎。中央にあるデスクに寄り掛かる人物にマイロは目を細めた。
「何処行ってたんだよ……」
マイロが小声で咎めてもアンジェラは小さく首を傾げるだけだった。
「ナディアは?」
アルフォンスがデスク横にあるソファーに腰を下ろしながらアンジェラに尋ねる。
「町の方へ」
「そうか」
短い会話を終えるとアルフォンスはマイロに向かいのソファーを指差した。マイロは遠慮無くボスン、と腰掛ける。アンジェラが自分の横に座ろうとする姿を意外だと思いながら。自分側の人間であるという意思表示なのかもしれない。
「相棒の男が投獄されたそうだな」
アルフォンスの単刀直入の出だしは大変武人らしい。マイロはどう話しを進めるべきか、と迷ったところですぐに止めることにする。
「そうです」
お喋りは相手に任すことにしよう。マイロは簡単な返事に留めた。
「今の状況だとその男が簡単に釈放されるとは思えない。そこでだ、こちらが彼の逃亡の手筈を整える。代わりに君たち二人が揃った際にはこちらに協力してもらう、というのはどうだね?」
アルフォンスは真っ直ぐマイロの顔を見る。睨むようにも見えるがこれが彼の真顔なのだろう。マイロは暫く思案気に眉をひそめていた。
「……ちょっと待ってくれ。『逃亡』って言ったな?釈放では無いと。……あんた保安省の長官なんだろ?だったら……」
町の警備の全てを担う保安省、そのトップが一人の拘留中の男の身柄もどうこう出来ないものなのだろうか。マイロの疑問の声をアルフォンスは手を振り遮る。
「脱獄犯にしてしまうのは私も本意ではない。これは分かって欲しい。私は自分に出来ることは全てやらせてもらうつもりだ」
「あ……」
マイロはうめいた。つまり、出来ないと言っているのだ。ポールを正式に釈放することは。
暫く額に手を当て眉をなぞる仕草をしていたマイロはふ、と顔を上げる。
「……色々聞きたい事が多過ぎるぐらいだけど、聞くのはポールを連れてきてからにする。で、どうすればいいんだ?」
「ソーン水路に侵入してもらう」
アルフォンスが言うソーン水路とはヘッデンシュバルツ中に張り巡らされた地下水路。気候が厳しいこの地域で生活用水が凍るのを防ぐ為に地下に設けられたものだ。
「タイバーン監獄に繋がっているのはここしか無いからな。あそこは陸の孤島といってもいい」
「タイバーンに入れられてるのか!?」
マイロは思わず声を大きくした。あそこは囚人の中でも刑の重い者が行く監獄だ。死刑囚や一生を牢獄で終える輩しかいない。なぜアルフォンスや双子が協力する、と言ったのか分かってきた気がする、とマイロは爪を噛む。
「ポールは、ポールは何の罪に問われているんだ?」
ポールを連れ去っていったガーディアンの男は『アダムを探っていた』と言っていたが、それだけで重犯罪者扱いはおかしい。アルフォンスはマイロの質問に大きく息を吐いた後、ゆっくりと口を開いた。
「……彼には『神の加護』がある。これで大体分かるかな?」
マイロは眉間に皺寄せアンジェラを見た。アンジェラは陶器のような美しい顔を崩す事無く押し黙っている。
「要するに邪魔ってことか」
「そういうことだ」
アルフォンスははっきりと頷いた。マイロは大きく溜息をつく。
「……あんたには文句も言いたいけど、今は協力感謝する、って言っておくよ。ポールを何とかしたいのは俺の方なんだ」
マイロの言葉にアルフォンスは満足げに目を細めた。
「出発は早い方がいい。明日でもいいか?それまでにこちらも準備を整えておく」
「俺は今からだって構わない」
「まあそう急ぐな。内部の情報やら警備の人員を削るなんて手回しも必要だろう?」
アルフォンスがにやりと笑う。確かにそうか。マイロは頷き返した。
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