アヴァロン 二章 接近
5
「……マイロです。初めまして」
マイロは厚い武人の手としっかり握手した。蜂蜜色の頭に意思の強そうな翡翠色の瞳、バラックは確かにフリュカの父親らしい。
「娘が大変世話になった。思っていたより随分若いんだね」
バラックの言葉には嫌味を感じない。本心から言っているのだろう。
「デーモンから娘を守ってくれたそうだね。……メイドのサリナが軽い疲労を抱えていたのは知っていたんだが、残念なことをした」
マイロはアルフォンスの言葉に頷いた。この場ではあまり深い話しはしない方がいいだろう。深く肯定するに留めておく。
ふと気が付くとアンジェラがいない。何処へ、と周りを見渡しているとフリュカに手を取られた。
「昼食の準備が出来てるわ!さあ、こっちに来て!」
後ろからバラックの軽く窘める声がするがフリュカは気にもとめずにマイロの腕を引っ張る。
何に興奮しているのかさっぱりだ、とマイロは溜息をついた。
「付いていくからそんなに引っ張るなよ」
マイロが文句を言ってもフリュカからは鼻歌しか聞こえない。こういうのもマイペースというのだろうか。先程の部屋の向かいになる扉を開くとダイニングルームだった。屋敷の大きさにしては小さい規模を見るとプライベートな空間かもしれない。それでも装飾は豪華だ。派手だがセンスのいいシャンデリアと花やレースが散りばめられた光景にマイロは少し目眩がする。薄暗い祖末な家の方が馴れてしまったのだろうか。
「君がマイロくん?」
後ろからかかった声にマイロは振り返る。廊下を歩いてくる一人の青年。年はマイロより少し上、といったところか。
「初めまして、僕はクラウディオ・バラック。フリュカの兄だ」
「ああ……」
言われれば似ている。それにこの場にいるということは家族でしかあり得ないのだが。髪色も顔のパーツも似ているのだが、雰囲気がアルフォンス、フリュカとも違う尖った空気を纏った彼をマイロは「典型的な上流社会の人間」と感じた。握手する右手も細く柔らかい。武人の息子なのに剣の扱いも無さそうだった。
「マイロくん」
アルフォンス・バラックが一人の女性を伴ってきた。こちらは紹介される前から何者なのか分かる。
「妻のマルゴだ」
「マルゴ・バラックです。フリュカがお世話になりました」
にこり、と笑う顔は少女のように可憐で美しい。だが作り馴れた笑顔にマイロは寒気がした。しかしここで空気を悪くしてもしょうがない。マイロは笑顔で受け答える。
「さあ、座って!」
フリュカが席を叩く。マルゴがそれを軽い笑みと共に窘めるが、瞳の奥は冷ややかだ。
久々に胃の痛い食卓に参加するはめになりそうだ、とマイロは苦笑しかなかった。


「……それでこの国は四つの地域に分かれたのさ。僕はそれは正しい判断だったと思う」
「はあ……」
食事も終盤に近付き、肉料理の重さを冷たい水で流し込んでいる段階に入ってもクラウディオの話しは止まりそうに無い。マイロは返事をするのにも疲れてきていた。
バラックの長男クラウディオはお喋りな男だった。それに加えて常に話題が自分中心でないといられないようで、始めこそマイロがデーモンを葬った際の話しや何でも屋としての生活を質問していたのだが、マイロが曖昧に当たり障りなく答えているうち、直ぐに話題の中心は彼になっていった。家族も慣れているのか適当に相槌をうつだけだ。
彼の話題は自分の知識のひけらかしで、余りにも多岐に渡る話題に「この男は本当は何に興味があるのだろう」と考えてしまう程だった。しかもマイロが知っている素振りを見せると途端に機嫌が悪くなる。家族の態度が理解出来るのと同時に、なぜ自分に相手をさせるのか、と恨みに思った。
暖かい紅茶が運ばれてくることで漸く食事が終わることにほっとする。マイロは無意識に素早く飲み込んでいった。
「マイロくんはフットボールは好きかね?」
アルフォンスの言葉にマイロははっとする。カップを置くと静かに答えた。
「ええ、大好きですよ」
アンジェラから事前に言われていた返事をするとアルフォンスは嬉しそうに手を合わせる。
「そうか!なら貴重な資料があるんだが、どうかね?好きな戦術なんか談義するのも面白いと思うのだが」
「いいですね、是非」
マイロは立ち上がるアルフォンスに合わせるように椅子をたった。
来る前は何故フットボールなんだ?と疑問だったが、なんてことはない。クラウディオ、それに女性二人も興味が無い話題だったのだ。
部屋を出る途中、後ろでフリュカが「つまんないの」と呟く声が聞こえた。
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