アヴァロン 二章 接近
3
「で、バラックっていうのはどういう人物なんだ?」
「可愛い子ね」
マイロは自分のした質問に全く合わないアンジェラの言葉に、一瞬自分の声が聞こえなかったのかと思った。
「……バラック長官はね」
続けて話しだすアンジェラに「聞こえてたんじゃないか」と文句を言うが流されてしまった。
「さっき言ったように平民出身の珍しい武官よ。考え方も革新的といっていいかもしれない。だから敵は多いわ」
「……あんまり仲良くしたくない人物じゃないか」
これ以上ごたごたを増やしたくないマイロはその説明に顔をしかめる。アンジェラは「そう?」と言って笑った。
「あなたと気が合うと思うわよ?今必死になってデーモンの大量発生の原因を探ってる人だから」
アンジェラの言葉をマイロは暫し考える。国の中心の、しかも武力を纏める立場の人間なのだから当たり前じゃないか。やってもらわないと困る。だが、アンジェラは自分と気が合うと言ったのだ。
「それって、つまり……君たちも『止められてる』の?その、発生原因を探るような動きを取るのを」
マイロの質問にアンジェラは黙って頷いた。自分で聞いておきながら驚いたマイロは声を失う。暫くしてソファに身をあずけると、天井を見る。今の話しだと保安省長官よりも大きな力を持った人物が、動きを止めているということだ。それは誰?王室の人間?いや、今の国王にそんな力があるとは思えない。しかしアンジェラはマイロと同じ、原因究明の動きを求めているという事だ。そして国の中心部でも同じように不気味な流れに抗っている人間が一人。そのバラックに会わせようということか。
マイロはふう、と息をつくと立ち上がる。双子の中でも感情が感じ取りやすいと思っていたアンジェラも、やっぱり何を考えているのか分からない。ポールを頼るならまだ分かる。しかしポールや双子に比べれば力の劣る自分に何を求めているのだろう。
マイロはテーブルの上のピッチャーを手に取るとコップに牛乳を注いだ。
「……飲む?」
「いただくわ」
予想外の答えにマイロは少し慌てた。綺麗なカップを取りにキッチンへ戻る。洗い物は主にマイロがやるため食器は綺麗だが、この家の様子を見てアンジェラが不快に思っていないか、初めて気になってしまった。


マイロは寒さで目が覚める。固くなった体を起こしながら周りを見回すと、目の前に空になったコップが二つ並んでいる。ぼんやりとする頭を振ると漸く居間で寝ていたことを思い出した。家に一人になった開放感からか、初めて自室でなく居間のソファーで寝てしまったのだ。体にかかった自分のコートを見る。うとうとしながら体に掛けたことは何となく覚えていたが、こんな格好で寝るなら自分の部屋に戻ればいいのに、と自ら思う。
再び前にあるローテーブルに目を移した。昨日はアンジェラと牛乳で乾杯という不思議なことをしたのだった。その行為にも、アンジェラがそれに付き合ってくれたという意外な展開にも、今更になって妙に気恥ずかしくなってしまい、マイロは無意味に周りを見渡した。
部屋の中は真っ暗だ。しかし寝ていた感触から多分早朝だろう。痛む腰を伸ばすとマイロは立ち上がり、自室へと戻る。
部屋に戻ると窓のカーテンを開けた。やはり朝になっている。薄雲に覆われた太陽が申し訳なさ程度に日の光を放っていた。
マイロは大きく息を吐く。今日は忙しくなりそうなのだ。一人になった事は天からの授かり物と解釈して、珍しく豪勢な朝食を取るのもいいかもしれない。キッチンにある残りものを思い浮かべながら一先ず着替えることにした。
上に着たシャツを脱いでふと鏡を見た瞬間、息が止まりそうになる。
「……あの野郎」
鎖骨の下、シャツを着れば見えないと思われる微妙な位置に残る赤い跡。アンジェラだ。大人のいたずら、というものなのかもしれないがひたすら迷惑な彼女の印に、マイロは顔を赤くしながら奥歯を噛み締めた。
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