アヴァロン 二章 接近
2
「会っておいた方が良いんじゃない?」
「アンジェラ」
マイロはこちらに向かってくるガーディアンを見て驚いた。来ることは分かっていたが、彼女が今の話しを勧めてくるとは思わなかったからだ。アンジェラのブーツのヒールが木造の床を踏み鳴らす音が妙に響き渡った。
「あなたガーディアンね?あなたからも言ってやってよ。この人、昼間も家に来るの嫌がったのよ」
フリュカが言うとアンジェラは微笑む。無邪気な少女を嘲笑うようにも見えた。
「ポールの事も何とかなるかもよ?」
アンジェラはマイロの隣に腰掛けると、「でも」と渋るマイロの口を指で押さえる。
「バラックは平民出身の長官よ」
小声で囁かれ、マイロは息を飲んだ。つまりマイロとは顔なじみは無い、と言いたいのだろう。アンジェラはガーディアンだ。ガーディアンが所属する保安省の長官といえばアンジェラの上司ということになる。ある程度の確証はあってのことかもしれない。
マイロは額に手を当てると眉をなぞるように触る。つまらない癖の一つだった。
「……わかった、行くよ」
「本当!?じゃあ明日の昼には絶対来て!うちの場所はね……」
声を弾ませるフリュカをアンジェラが手で制した。
「私が知っているから、大丈夫」
「ならお願いするわ。きっと来てよ?」
フリュカがマイロの手を取り、振り回す。マイロは静かにそれを押さえると首を振った。
「行くつもりが無いならここで断ってる」
マイロがはあ、と息をついてもフリュカは一人はしゃいだままだ。昼間会った時も思ったことだが、彼女の中だけで世界が構成されているような、独特の雰囲気を持っている。それは妹ナシュカとは正反対の性格といえた。
「じゃあ、私帰るわ」
フリュカが立ち上がり、手袋をはめる。
「送っていこうか?」
マイロは流石にこの時間に、少女一人で歩き回らせる気にはなれずに席を立った。しかしフリュカはブンブンと首を振る。
「大丈夫よ。だって一人でここまで来れたんだし」
自信の理由になっていない答えにマイロは少々わざとらしく息を吐くと、首を振った。
「昼間、デーモンに襲われたのをもう忘れたのか?そんな向こう見ずじゃ、あんた命がいくつあっても足らないぜ?」
「大丈夫だったら!お客様が来てるのに家を空ける方が変でしょう?」
フリュカはアンジェラを指差す。ムキになって反論する様子を見ると、マイロの言い方が少女の性格上、気に食わないものだったにちがいない。
面倒な、とマイロは腕を組んだ。アンジェラが溜息と共に立ち上がった。
「……衛兵を呼ぶわ」
その言葉にフリュカは慌てだす。
「こ、困るわ。その……」
「大丈夫。家の前まで送らせたら、中には報告しないよう言いつけるから」
家人に言い付けられることを一番避けたいフリュカの意思を、アンジェラは分かっているのだ。
そのまま返事も聞かずに玄関を出ていくと、指笛を鳴らす。暫くすると、この辺りを巡回していたのであろう衛兵がやって来た。
紺色の制服に大きな盾、スピアを携えた男はアンジェラの指示に一瞬、「はあ……?」と怪訝な顔をしたもののすぐに頷く。ガーディアンは特殊部隊だとはいえ衛兵達から見れば目上の人間だ。かしこまった様子で、
「わかりました」
と言うとフリュカを見た。
「さあ、家の前まで送っていきます。参りましょう」
フリュカは少し困った顔をするが仕方ない、といった様子で玄関に向かう。流石に断れなかったらしい。
「じゃあ、明日の昼にね」
フリュカが壊れかけた門の前で手を振った。マイロは組んでいた腕をほどくと手を振り返す。
「もう一人で出歩くなよ」
偉そうだが、いちいちこんなやり取りをさせられては堪らない。マイロは去っていく二人が街灯の魔法の光に照らされながら小さくなる姿をある程度見届けると、表の寒さに身震いしながら扉を閉めた。
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