アヴァロン 二章 接近
1
寒空の下に立つカカシの家はいつも以上におんぼろに見える。一人で帰ってきたという孤独からかもしれないが。
ポールも災難だったんだ。本当に片付けてやってもいいかもしれない。共同スペースである居間を散らかすのはいつも彼なのだけど。
そんな事を考えながらマイロは玄関の扉を開けた。ぼんやりと明かりが燈る室内に息が止まりそうになる。
「あ、やっと帰ってきた」
こちらを振り向く少女の金髪がふわりと揺れた。
「……勝手に入るなよ」
暖房が着いていないせいかファー付きのコートを着込んだままの少女、フリュカをマイロは軽く睨みつけた。
「そんなに怖い顔するなら鍵つけときなさいよ」
フリュカは頬を膨らます。別に勝手に入られたことはどうでも良かった。自室には鍵がついているし、キッチンや居間は盗られるような物は転がっていない。女の子が一人、こんな汚い家によくいられるな、とは思ったが。それよりも、とマイロはコートを脱ぎながら少女を見た。
妹ナシュカかと思ったのだ。背格好も髪型もよく似た少女に妹がついに家を出て来たのではないかと一瞬でも思ったことを、マイロはひどく不快に思った。なぜそんな事を考えてしまったのだろう。
「で、どうやってここまで?」
マイロが聞くとフリュカは嬉しそうに微笑む。
「酒場、っていうの?あなた達みたいな人が集まる所。そこで聞き込みしてきたのよ」
そう言うフリュカはとても誇らし気だ。確かに彼女のようなお嬢様がやることにしては勇気ある行動だ。
「竜のマークが架かった所で聞いたら一発だったわ。あなた有名人なのね」
「……銀竜亭?」
「そんな名前だったかも」
時系列的に考えてマイロ達が来店する前には聞き込みがあったはずだ。一言言ってくれればいいのに、とマイロはマスターであるランスの顔を思い浮かべた。
「何か用があって来たんだろ?」
マイロはシャツを脱ぐとソファーに投げつけた。フリュカが上半身裸になったマイロを見て目を見開くと、頬を赤くしながら睨みつけてくる。
「……悪い」
慌ててマイロは椅子にかけてある部屋着を取ると、素早く着込む。どうやらポールのだらし無さが伝染ってきているらしい。
「躾がなってないわ!」
フリュカは怒りながらソファーに体を埋める。が、すぐに身を起こす。
「うちのお父様があなたにお礼を言いたいんですって」
「あんたの親が?」
マイロは暫く考え込む。
何処の金持ちか知らないが、何でも屋風情にわざわざ礼を言いたいとは。普通なら有り難い話しだが、マイロには余計でしかなかった。
「……それでわざわざ娘が来たわけ?あんたまた勝手に家出て来たんだろ」
マイロが言うとフリュカは視線を反らす。どうやら図星らしい。
「で、でもお父様が会いたがっているのは本当よ」
「娘が夜中に忍び込んでる家の人間だと分かれば、良い顔はされないだろうね」
言い返されることが気に食わないのかフリュカは口を尖らせた。
「あなた達『何でも屋さん』って、モンスター退治なんかが仕事なんでしょ?だったらうちのお父様に会って損は無いわよ。うちのお父様は保安省の長官なんだから」
「本当か?」
マイロは思わずきつい口調で尋ねてしまった。フリュカも驚いたようで目をぱちくりとさせている。
「ほ、本当よ」
マイロは再び思案の為に黙り込んだ。
現在の保安省の長官は確かバラックという男だ。マイロは実家にいる時代、会った覚えのない名前にどうするべきか迷う。囚人の管理を担う保安省に近付いておきたい気持ちはある。が、もし自分を知っていたら?あのガーディアンの男が知っていたぐらいだ。可能性は充分過ぎるぐらいだ。
「……悪いけど」
「会ってあげなさいよ」
扉からした声にマイロは言いかけた言葉を引っ込め、振り返った。
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