アヴァロン 一章 ハント
14
「うおっと!」
飛んできたデーモンの首を、ポールが慌てて避ける。マイロは呪文を中断させると息をついた。いつの間にか集まっていたガーディアン達によって、あらかたのデーモンは倒されていたからだ。
「ありがとう」
アンジェラが無表情で言うと、ポールは大袈裟な身振りを添えて「いえいえ」と返した。
「……ありがとう」
マイロはアンジェラに向けて小声で呟く。アンジェラはマイロの顔をじっと見た後、にこりと微笑んだ。
「さっきのお礼よ」
「『予知』のこと?……そんなの大した事じゃない」
マイロは「今の戦いに比べたら」という言葉を引っ込める。ポールがこちらを睨んでいるのに気が付いたからだ。
「何が言いたいんだよ」
マイロはポールに近寄ると脛を蹴飛ばす。
「マイロの天然なモテオーラに嫉妬してるんだよ」
ポールの舌打ち混じりの言葉にマイロは反論しようと息を吸い込んだ。その時、
「おい、そこの背高のっぽ」
後ろからの無躾な声。マイロは自分のことではないと分かりながらも、ポールの動きにつられて振り向く。
「お前、そう、お前だ。ちょっと来て貰おうか」
近付いてくるのは銀のプレートアーマーに身を包んだ男。胸に刻まれた紋章を見るにガーディアンらしい。顎の太さといい鋭い目つきといい、横柄そうな男にマイロはポールと顔を見合わせた。
「何の御用でしょう?」
ポールは帽子を取りつつ、男に微笑んだ。その手を男は憮然とした顔で引っ叩く。マイロはむっとして眉をしかめるが、ポールは苦笑するだけだった。
「何ニヤニヤしてやがる。『御用』じゃねえよ。今からお前をしょっ引くっつってるんだよ」
「なっ……!」
男の言葉にマイロは思わず身を乗り出す。それを制したのはアンジェラだった。
隣ではポールに掴み掛かろうとしている男の手を、ナディアが振り払っている。
「罪状は?」
ナディアの冷たい眼差しに男は一瞬気圧されたように後ろへ退いた。が、すぐににやり、と笑う。
「お前ら双子はこの男と出来てるらしいからなあ、知らされてないんだよ。こいつは今日、国家反逆罪で捕まった男をコソコソと嗅ぎ回ってやがった」
「アダムの件だって言い掛かりじゃないかよ」
マイロが食ってかかると男は面白くなさそうに目を細めた。
「なんだ?餓鬼が。お前も連行してやってもいいんだぞ」
「待ちなさい、この子は……」
アンジェラの言葉に被せるように男は話しを続ける。
「お前、あのウィンチェスター家のお坊ちゃんらしいな。家に帰してやっても……」
「ぶあっくしょっ!」
ポールの大きなくしゃみが鳴り響く。余りにも場違いな声にマイロは沸き上がった血の気が一旦退いていくのを感じた。男が舌打ちするとポールは肩を竦める。
「悪いね、冷えには弱いんだ」
「……残念だがお前には冷たい牢獄が待っているだけさ。おい」
男の一声に周りにいた衛兵二人がやって来る。ポールを両脇から抱えると、そのまま歩き出した。
ポールがちらりとマイロを見る。
「部屋、片付けといてくれ」
「……ふざけんな」
マイロは悪態つきながらもポールの言葉の意味は「すぐに帰る」だと理解した。この男のことだ。あまり心配はいらないはずだ。
双子の二人も同意見なのか少し眉を寄せただけで、それ以上追及することは止めたようだ。アンジェラがマイロに囁いた。
「……あとで家に行くわ」
去り際のポールの肩がぴくりと動く。こんな時までそんな反応を見せる男に呆れつつマイロは小声で返した。
「あんた達、ガーディアンの中でどういう立場なわけ?大丈夫なのかよ、その……」
ポールではなく君達が心配なんだ、と言おうとしたが偉そうな言い方か、とマイロは口ごもる。その時、ナディアに肩を叩かれた。
「お前は心配しなくていい。ただいつでも出掛けられる準備はしておけ」
どういう意味か尋ねようとしたが、ナディアとアンジェラは黙って立ち去ってしまう。マイロは溜息をつきながら出した右手を引っ込めた。
「おいおい、ポールまで捕まっちまったのかよ。やってらんねえ」
隣にいた何でも屋の男が舌打ちする。
「こんな状況で『手伝え』とは随分な態度だよなあ。明日はきっと、相当人数減ってるだろうな」
他の何でも屋達も不満を口にしだした。
「今までだってデーモンは出現していたんだ。何をピリピリとしてるのかね?お偉いさん方は……。逆にびびっちまうよ」
皆考えることは同じか。マイロは再び大きな溜息をついた。
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