アヴァロン 一章 ハント
13
「それより可愛らしいお嬢さんに会った時の話しの方が興味あるね、俺は」
「フリュカのこと?」
マイロは少女の揺れる金髪を思い出した。
「そのお嬢さんにも大いに関心があるが、今一番気になるのは……デーモン化したっていうメイドさんの方かな」
「ポールが興味持つような人じゃなかったけど……」
初老に差し掛かったといってもいい年代の女中はいくらなんでも、とマイロが眉をひそめたところでポールが手を振る。
「まあ色っぽい話しは一先ず置いておけ。話し聞く限りじゃそのメイドさん、今の今まで働いてたみたいじゃねえか。メイドの仕事っていうのは意外と忙しいもんなんだよ。精神虚弱の状態できびきび働けるもんじゃない」
「……何が言いたいの?」
マイロはポールに話しの続きを促すと、水を飲み干す。
「厳しい状況になってきたね、ってことだよ。ちょっとした疲労程度でもデーモンに喰われる。そんな状況になっているんだとすれば、これから爆発的にデーモンが増えるかもしれないぜ」
ポールは飲み終えた黒ビールのグラスを名残惜しそうに見る。マイロはそれを見て、
「帰るか」
そう言うと立ち上がった。
「帰る?仕事はこれからだぜ」
ポールの言葉にマイロが口を開きかけた時、店の外が騒がしくなる。
悲鳴と獣の咆哮、そして破壊音。
「ほれ、おいでなすった。夜の方が奴らの活動時間だ」
ポールが言い終える前に、マイロはいち早く店の外へ駆け出した。他の何でも屋の人間達も後に続く。扉を開け放つとすぐに血の臭いが鼻についた。
「おいおい、まじかよ」
マイロの後ろにいた大振りの剣を担いだ剣士が呻き声をあげる。銀竜亭の前の大通り、目に飛び込むのは逃げる人々と十数匹のデーモン達。数の多さにマイロも思わず息を飲んだ。
「随分出たもんだねえ、ほらほら、行った行った!」
ポールが手を叩くと我に返ったように何でも屋達は走り出す。マイロも腰の剣を引き抜いた。
「あんた寝てないんだろ?大丈夫かよ」
「じゃあマイロに任せようかな」
横から放たれた光の攻撃に、二人は同時に跳んだ。帯状の光のうねりが銀竜亭の壁を削いでいく。
「ハイデーモンだ!」
マイロは舌打ちした。口から吐き出されるブレスはレッサーデーモンには無い能力だ。ここにいる全部がハイデーモンでは無いだろうが、相手が自分を選んだことにマイロは神を恨んだ。もちろんいつまでも手を出そうとしない自分の相棒にも。
周りで剣を振るう何でも屋達の意識が、何と無くポールに注がれているのがわかる。マイロはアダムの言葉を思い出した。
「『あいつ』まだ人前に出るの嫌だ、とか言ってるのかよ!?」
デーモンからの鈎爪を避けながらマイロは怒鳴る。ポールからの「んーそうみたい」という暢気な返事にイライラし始めたマイロは再び怒鳴り返した。
「ちゃんと教育しろよ!あんたのだろ!」
「マイロだっていつもの武器、持って来てないじゃない」
ポールは帽子を押さえながらデーモンから逃げ回っている。
「俺は家に置いて来たんだよ!」
こんな事になるなら持ってくるべきだった。避けたデーモンの腕が民家の壁をえぐるのを見ながら、マイロはもう一つの相棒の姿を思い浮かべる。
「苦戦してるみたいね」
上から声がしたかと思えば、肉を引き裂く鈍い音を立ててデーモンの体が傾いた。肩から胸にかけて引き裂かれている。そこから生えるのは黒い刃。
耳をデーモンの吠える声がかき乱す。ぐらり、とデーモンが膝をつき、後ろから金色の髪が覗いた。
「アンジェラ!」 マイロは思わず名前を呼ぶ。アンジェラの後ろでは既にナディアがレッサーデーモンの一匹を葬り去っていた。ナディアが持つ白い大振りのソードに、空へと消える寸前のデーモンの粒子が漂っている。
アンジェラは黙って黒いシミターを構え直す。マイロは役に立つのか不安な自分のロングソードを握りしめ、呪文を唱え始めた。アンジェラは接近型だ。呪文を放つ隙があるか分からないが、何もしないよりはいい。
小山程ありそうなデーモンの巨体が不自然に動く。切断された身体が外れないようにしているようだ。早くも修復の為に不気味な触手が無数、傷口に纏わり付いている。
再生能力が高いのもハイデーモンの特徴だ。その力は常人の戦士ならば剣を振るう早さを軽く上回れてしまう。大技で力押しするか、スピードで上回るしかない。
一撃を受けたせいかデーモンの標的はアンジェラに移っていた。しかしデーモンを狩ることを専門としているガーディアンの彼女の動きは流石だ。ハイデーモンにも臆すことなく突っ込んでいく。
マイロはじりじりとデーモンを追い込んでいくアンジェラを見ながら、完成した呪文を放つ機会を伺っていた。今放てばアンジェラも巻き込んでしまう。どうするか……、と考えていると視界の隅に何かが横切る。
ポールの放った小石だ。デーモンの赤く光る瞳目掛けて飛んだそれは、デーモンの手の平に軽く叩き落とされた。が、その一瞬の隙をアンジェラが見逃すはずがない。
きん、という鋼の弾ける音。マイロの目にアンジェラの敵を討つ美しいシルエットが焼き付いた。
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