アヴァロン 一章 ハント
12
「奢ってやる、って言って結局ここかよ」
「『銀竜亭』の何が不服なんだい?」
マイロのふて腐れた顔にポールはメニューで風を送る。
カウンター席とテーブル席が揃った酒場兼飯処、薄暗い店内は柄の悪い連中の話し声で溢れていた。マイロ達「何でも屋」が集まる店に成り果ててしまった場所には似つかわしくない雰囲気の店長が、二人に水を持ってくる。
「文句言いつつも通ってくれるなら、満足だよ」
茶の髪を引っ詰め、すらりとした身体に細身の服を着た『銀竜亭』の店長ランスは、コックというよりバーテンダーに見える。
「悪い、そういうつもりじゃなかったんだ」
マイロが謝罪すると、ランスはトレイを振って笑う。「気にするな」と言っているのだろう。
「そうそう、マイロは文句言いつつ此処のアサリパスタが好きなんだ」
「どさくさに紛れて一番安いもの頼もうとするなよ」
ランスがポールの頭をトレイで軽く叩いた。
「そうよお、今日はお仕事して懐温かいんでしょう?」
注目を取りに来た看板娘、イレーヌがテーブル脇にやって来る。
「よお、イレーヌ。相変わらずおっぱい重そうだな」
ポールの言葉にイレーヌは一瞬目を大きくした後、ポールのおでこをぺちん、と叩いた。こういう事を言っても、何と無く許されるのはポールの人徳といっていいのかもしれない。
一通り注文を済ませ、テーブルに自分達だけになるのを確認するとマイロはポールに尋ねる。
「で、アダムの事はどうしたんだよ」
「んー?何か彼、処刑されちゃうかもしれないね」
軽い言い方とは対照的な内容に、マイロは口に含んでいた水を噴き出しそうになった。
「……思ったより濃い内容だな。それで、何やったらそんな処遇になるんだ?」
「嗅ぎ回り過ぎたんでしょ。あの子、盗賊とはこういうもんだ、って気取り過ぎてたからねえ」
「まあ、ね……」
マイロは曖昧に返事することであまり悪いように言うことを避ける。
「何とかしてあげたいけどねー。下手に動くとこっちが危ない。可哀相だけど今回は残念でした、ということで」
「……仲間意識はもう終わりかよ」
マイロも正直同感だったのだが、ここで肯定するのは人としてどうなのだろうと考えてしまった。アダムに仲間意識などポールよりも持っていないマイロだったが、処刑の話しを『残念ね』で済ませる程お気楽ではない。命を粗末にするような、とまで考えてマイロは広場で見た集団を思い出した。
「そうだ、変な団体を見たんだった」
マイロが揃いの赤い上着を着込んだ『反デーモン狩り』を主張する集団を話すと、ポールはふっ、と笑う。
「アンジェラらしいね」
てっきり集団の主張を嘲笑ったのかと思いきや、アンジェラの反応が面白いかったようだ。マイロとしては集団の主張をどう思うのかが聞きたかったのだが。もやもやとした気持ちでいると、ポールが「それより」と口を開く。
「アンジェラと何があったんだよ、ん?」
くだらない質問にマイロは怒りが湧いてくるが、すぐにその気持ちも消え失せた。この男に真面目な議論を持ち掛けようとするのが間違っていたのだ。
自分でも妙に達観しているものだ、と思いつつ、マイロは昼間ポールと別れてからの出来事を順に話し始めることにした。


「へえ、それでアンジェラに気に入られたわけだ」
長々と話した自分の話しに、ポールの最初の一言がこれか、とマイロはがっかりする。
「それしか無いのかよ」
「あるよ。俺もそんなかっこいい能力欲しかったなー、とか、なんでマイロにはそういうおいしい場面が来るのかなー、とか、クロスボウとはいえアンジェラの装甲ぶち破る相手ってやばくね?とか」
最後の言葉に思わずマイロは立ち上がった。
「あ……」
気まずく周りを見渡すと、ポールに手で座れ、と示される。
「……アンジェラに伝えてくるよ、俺」
彼女達ガーディアンの装備は特殊なもので、よく何でも屋の中でも質の悪い連中が「あんな装備があったら誰でも強くなれる」と嫌味を言うような代物だ。それを貫通させる矢。マイロは自らの見た予知のイメージが脳裏に横切る。
「大丈夫、大丈夫。端からわかってるよ、彼女は」
ポールは食べ終えた皿を重ねながらにやりと笑った。
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