ゴミ箱 | ナノ


「わたしは、鍾離さんのこと、良い人だなって思ってますよ」

 金色の瞳がぎらりと光った。
 鍾離は壁に女を押しつけ、恐怖に震える唇を強引に奪った。くちびるを割り、肉厚な舌で小さな舌を絡め取っては乱暴に扱った。それは激情のままに押し付けられているようで、女の反応に対して容赦がない。彼は潰された高い悲鳴のすべてを呑み込みながら、身をよじるその肉体をまさぐりはじめる。「いや、」呼吸の合間に吐かれた拒絶は男の激情を瞬く間に燻らせ、再び唇を奪っては女の声を食い荒らした。
 力の無い腕が鍾離の胸を押し退けようとする。小さな手のひらのかたちを受けて、鍾離はゆっくりと女から唇を離した。
 鍾離の息は上がっておらず、表情ひとつ変わらない。ただ、女を見つめるその視線ばかりが熱を帯びている。

「鍾離さん、」
「……ん、」
「やめ、やめて、ください」

 服の裾は身体の線に沿って少しばかりたくしあげられ、濃い皺を複数刻んでいく。「何故だ?」吐かれた疑問符は女の服の留め具を緩やかに解き、細い鎖骨を覗かせる。「……っ、」視界の一角に白い肌が現れたことで、鍾離の視線はそこに釘付けになった。
 この奥を見てみたいという欲求と欲望がある。彼の喉の奥でもぞもぞとしたそれが芽吹きはじめていて、「わたしのこと好きなんじゃないんですか!」思わず吐き出してしまった非難の声色は思った以上に大きかった。感情の高まりを受けて瞳から雫が溢れそうだった。そんな目つきを受けながらも男は平然としている──訳もなく。気丈にも睨み返す彼女に多少怯んだのか視線をしばしさまよわせ、「好いた女性の身体を見たいと願う、自然な心理だが……」言いにくそうにしながら続ける言葉にはやはり熱がなかった。どう見てもわざとらしかったせいだろうか、ますます泣きそうになっていたなまえへ更に顔を近づけると、口元を抑えて鼻先の触れる位置にまで寄り、そこで初めて声を出した。彼女の肩口に唇を寄せて甘えるようなそれだった。

「……駄目か?」

 耳の縁をねっとりとしたそれに撫ぜられて身体の自由が失われていく恐怖に抗いきれない。それでも弱々しい拳を握る彼女は懸命だといえよう。
 ついに堪えきれなくなった雫が大きな粒となってぼろりとこぼれ落ちてしまうその寸前、彼女の頭を優しく宥める手が伸びた。後頭部に触れる手の動きにつれて髪に差し込んだ指先がそれをあやしていくうちに、少しずつ怒りの方角へと寄っていた頭が冷静さを取り戻そうと努めていた。
 ふーっと深く長く息を漏らせば気持ちが落ち着く。顔を持ちあげて目を閉じていればしばらく撫でられたのち、頭に柔らかい何かがそっと重ねられる気配があった。なんだろうと好奇心に負けて目を開ければ頬にキスを受けている最中だという事実を知ることとなる。驚き固まる彼女を意にも介さず何度か軽いリップ音を繰り出されてようやく男の意図に気付き、逃げ腰になる女の腰を追いかける彼はとても生き生きとしているようでもあった。そして再度捕まえた女の腹の前に手を伸ばすと布地の上からゆるく掴む素振りを見せた。そのまま下着の中に侵入しようとするところで再び女の甲高い叫び声が建物全体に反響することとなったのであった。

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