ゴミ箱 | ナノ


#タルタリヤの本名がでます
#少しの不健全があります
#完凸公子の番外編





 まだ俺が十一歳の誕生日を迎えたくらいの頃だ。なまえにふっかけられた喧嘩の際に、ふと浴びせられた一言に酷く苛立って、負かす以外でこらしめてやるにはどうすればいいかを夕飯の時間になっても考えていた。

「アヤックス、パンはいらないの」
「いる。あと二切れ食べるよ」

 そんなに食べるの、と母さんは驚きながらよく乾いた黒パンを二切れ渡してきた。本当はもっと食べたかったけれど、その時ばかりは時間が惜しかったから、雪玉みたいな味のパンを水で流し込んで食卓を後にした。
 あのなまいきななまえを、負かしてやる以外でこらしめる方法を考える。
 おもいきり嫌がることをしてやれば、なまえも少しはおとなしくなるだろうか。
 思いつくのは簡単だった。でも、なまえが嫌がることなんか、とてもではないがしたくない。女の子が嫌がることを想像してみても、そんなことをなまえにしてやりたいとは思わない。
 なまえをこらしめてやるためには、俺がなまえに嫌われるようなことをしないといけないんだと気がついて、少しばかり憂鬱になった。
 弟や妹を叱るのとは訳が違った。だって俺が下の子たちを叱るのは、その子たちのことを思ってのためだ。俺はただ、なまえがもう少し大人しくなってくれれば可愛げがあるのになと思っているだけで、なまえの今後の人生のためにそれをしてやる義理はない。
 ただ、少し痛い目を見て欲しいだけだ。俺の前では、もっと可愛げのある姿でいて欲しい。
 戦士の真似事をして何回俺に挑んできても、勝てることはないんだってわからせてやりたい。何においても俺のほうが優っていて、俺のほうが強いんだ。それは俺が男だからではなくて、なまえが女だからでもなくて、初めからそう決まっていることだから。
 なまえには剣を取って欲しくなかった。そりゃあ、俺に向かって懸命に剣を振りかざしてくるその姿は本当にかわいい。でも、なまえには、俺のおよめさんになって欲しかったから。俺以外の奴を見つめるなまえなんて、これっぽっちも見たくはなかったんだ。
 戦うことに興味を持って欲しくなんかなかった。前みたいに綺麗な花を見つけたから見せにきてくれるとか、自分たちの背よりも大きな雪像を一緒につくるとか、そういう、何気ない意識の中に相手がいるような、そんな距離感が好きだったんだ。
 武器なんか持たないで欲しい。何回、あの細い手首を叩いたか分からない。痛みを覚えたら戦うことをやめてくれると思っていた。やめてくれることは、終ぞ無かった。
 少し湿った細雪が降りやんだ日、再びなまえが俺に喧嘩を売ってきた。大人たちに見つかると面倒だからと、入り組んだ森の向こうでそれは行われた。
 結果は、言うまでもない。俺はまた、なまえを大地に組み敷いてやった。なまえの上半身に馬乗りになって、地に膝をついてなまえの腕を拘束する。興奮した眼差しが俺に向かってくるのを見ていると、背筋がぞくぞくした。
 ああ、やっぱりなまえは俺に勝てないんだって、安心感のようなものに身を包まれる感覚さえあった。冷えた空気が頬を差して、お互いの顔は鼻先まで真っ赤だった。「なまえはさ、」白い息がこぼれる、それはなまえに落ちることはなく、風に乗って流されていく。

「俺に勝ちたいの?」
「勝ちたい」
「どうして?」
「強くなりたいから」

 それは、俺の問いに対する答えにはなっていないように思えた。
 きっとその言葉の裏で蹲っているのはくだらない思想だ。身の丈に合わないほどに膨れ上がったプライドと、俺の知り得ない欲求、或いは信念、若しくは子どもながらの淡い夢。
 けれども強さを追い求める理由に良いも悪いもありはしない。「いつか、俺に勝てるといいね」笑って見下せば、なまえは顔を真っ赤にして眉を吊り上げた。俺の脚を力の入らない手で殴って、早く退いて、と喚くばかりだ。
 こんな状況下で、どうせ何もできないくせに。暴れて泣いて、それで終わりなくせに。
 すっかり冷たくなった白い頬に手を伸ばす。びく、と身体をこわばらせるなまえは、ただの敗者の顔をしている。
 微かな泥と溶けた雪で汚れた頬を、指先でぐいとつねった。

「痛い!」
「そうだね」
「離ひてよ!」
「うん」

 柔らかい頬が伸びて、ぱっと手を離すと、そこが少しだけ赤くなっていた。目元に涙を浮かべているなまえを見て、腹の奥に熱がこもっていくのを感じる。
 ああ、今のなまえって、本当に無力なんだ。
 俺にされるがままになったなまえを想像したら、なんだかすごく興奮した。このまま性器を晒して目の前で己を扱いたら、なまえはどんな反応をするだろう。
 驚いて、泣き喚くだろうか。大声を出して大人を呼ぼうとするか。こんな森の中、誰も来やしないのに。
 興味本位であって、実際にしようとなんて思ってはいない。それに、なまえに俺のものを見せたりなんかしたら、あの威勢の良さでそのまま食いちぎられてしまいそうなものだ。
 それとも、恐れ慄いて萎縮するだろうか。それも、可愛いな。
 俺の言うことに従順になって、愛おしそうに俺のものを口に含むなまえを想像すると、白銀の景色に添えられた寒ささえ忘れていくようだった。
 なまえと戦っているときより、こうして敗者となったなまえを見下ろしているときのほうが、俺の体温は高いのだ。

「どいてよお……」

 その情けない顔に白濁をぶちまける想像をして、頬に竿を押し付けて精液をなびる感覚を頭の中で思い描いて、できっこないな、と冷静になって瞼を閉じながら、なまえの上から退いた。
 俺の欲求をなまえに受け入れて欲しいけど、それはなまえに嫌われてまで叶えたい願望ではない。地に背をつけたまま空に向かって大声で泣くなまえを、俺は暫く黙って見つめていた。
 泥水で汚れた身体を綺麗に洗ってやったら、俺は再びその身体を汚す権利を得られるだろうか。
 もし、その権利を俺が手にしたとしても、きっと行使することはできない。俺はなまえに嫌われたくないし、なまえのことなんか穢せる筈もない。
 ただ、なまえが、俺にそうされることを望むのなら。

「ほらなまえ、帰ろう。手当てしてあげる」
「いらない、先に帰っててよ」
「やだよ。もしなまえが帰って来なかったら、俺が怒られるだろ。ほら! 立てる?」
「立てる」
「じゃあ立って」
「立ちたくない」
「そう」

 なまえの言葉は矛盾まみれで、いつだって不器用だった。立たせてって一言言えば、俺は喜んでその通りにするのに。
 可愛げのないことばかりを口にする、おてんばなお姫さまだ。いつだって泥だらけで、生傷が絶えなくて、口も悪くて目付きも剣筋も悪い。でも、それでも俺に向かってくる姿が、最高に可愛いんだ。
 俺はなまえの騎士になることはできないし、なまえも俺のお姫さまになってくれることは無いだろう。
 ただ、今だけは、そんなふうに見えるようであればいい。
 眠る姫君に口づけを落とすのは、頭のおかしな王子さまだと相場が決まっているけれど。キスは唇にするものだと、大体の人はそう言うかもしれないけれど。
 泣き喚くなまえの隣に両膝をついて、その額に唇を落とす。
 それから肩を思い切り殴られて、すぐに飛び退いた。「痛いなぁ、」怒りでなまえを立ち上がらせるために額へと口づけをした訳じゃない。唇にしたら悲しませてしまうこともあるだろうから、これでも妥協したほうだ。それで、結果的になまえの怒りに触れただけだ。
 細い足で地面を踏みつけて、意地を張りながら体勢を整えようとする。俺を振り払うために飛んできた腕を避ければ、強い目でこちらを睨みつけてきた。
 なまえの、その目が好きだ。届かない剣先の代わりに俺を刺し抜く鋭い視線、あれに串刺しにされる瞬間がたまらない!

「アハハ! もう少し遊んでから帰ろうか! なまえが疲れて動けなくなっちゃったら、また俺が家まで運んであげる!」

 そう叫べばまたなまえは怒り始めて、剣を拾い上げるのも忘れて俺に掴みかかってくる。一発くらいは食らってやってもいいかもしれないが、食らったら食らったで手加減するなと罵声を浴びせてくるのだろうから、俺はいつだってなまえの理想の戦士でなければならない。
 もし、俺がなまえの唇に触れていたら。
 あの乾燥して割れた唇に、自分の唇を押し付けていたら。

(……それはそれで、怒るだろうな、)

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