ゴミ箱 | ナノ


#タルタリヤの本名が出ます



 わたしはあいつの青いひとみが好きだった。風に揺れる少しだけ癖のついた茶色の髪も、血の気が多いくせに血の色をあまり感じさせない、あの白い肌も好きだった。
 家族思いで、喧嘩っ早くて、けれども自分の美学を追求する、あの鋭いまなざしが好きだった。単純にかっこよかったんだ、競い合った末に頂点に立つという人が。まるで物語の中にいる主人公とか、英雄とか、そういう類いのもののように見えた。
 ああなりたいと思った。わたしも主人公みたいになりたい、アヤックスみたいになりたい! わたしがそう思うようになったのはあいつのせいなんだから、あいつに認めてもらわないと気が済まない。
 わたしの目標はいつだってあいつだった。わたしの世界で、あいつ以外に強いやつなんかいないんだから。
 でも、あいつはわたしに剣先を向けようとしなかった。女だからって馬鹿にしないで! 叫ぶわたしを口で軽くいなして地に伏せさせる、その態度も気に食わなかった。

「俺は君が女の子だから戦いたくないって言ってる訳じゃないんだよ」

 意味が分からなくて、悔しくて、何度もあいつの下で泣いた。殴ろうとしても避けられるのは分かっていたから、子どもみたいに泣き喚いた。だって、わたしは何をどうしても、アヤックスに勝てない。
 あいつの強さはいつだって本物だった。きっとわたしが弱くても強くても、あいつの強さは変わらないんだろうと思った。
 勝ちたいのに勝てない。負けたくないのに負けてしまう。不意を突いても届かない。真っ向から向かったところで笑われながら弾き飛ばされるだけだ。
 わたしもあいつみたいに強くなりたかった。同じくらいの力をつけて、認めてもらいたかった。わたしの気持ちを認めさせたかった、強くなったねって言って欲しかった。
 神に認められたって、なんにも嬉しくなかったのに。あいつに近づけるんだって思ったら、涙が出た。認めてもらえるかもって。少しは努力したことを褒めてくれるかも、そんなふうに考えていた。
 勝ちたかった、わたしはアヤックスに勝ちたかった。『勝ち負けなんかどうでもいいんだ、俺は戦うために戦ってるんだよ』なんて言葉、わたしには理解できなかった。だって勝たないと、あんたはわたしのことをきっと認めてくれないもん。
 主人公を倒そうとするのは強い敵だけじゃない、ライバルだってそうだ。わたしはあいつのライバルになりたかったんだ。主人公と肩を並べる好敵手になって、あるときは敵で、あるときは仲間になって、お互いに強くなっていきたかったんだ。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -