SSS | ナノ


 細く骨ばった身体の中で、炎が燃えている。
 不必要を削いだ筋肉の間を、熱が駆け巡っている。

 肉体の中心で燻る感情に目を向けたことは幾度もあった。それが劣情を腐敗させたものであることなど、カルナにはわかりきっていた。

 だからこそ、誰にも知られたくはなかった。特に、なまえにだけは。

 知られてはならなかった。自身は俗物的なものとは隔離された場所にいるのだと彼女は信じきっている。確信はあった。自分への対応が周囲の女のそれと何一つ変わらないと云うことから、カルナは彼女に“期待されていた”のだ。

 男の形をとりながら、男であることを削いだもの――そう、信じられている。

 燃えている。身に纏うことで己を守ってきた炎が、男の身を焦がしている。
 その中心で、燻っている。燃えてはならぬと抑えこんできたものに、煙が立っている。

 太陽の周囲に水などある筈もない。そも、水をかけたところで消えるようなものでもなかった。
 カルナの炎が一際強く燃えあがり――それが過ぎ去ったあと、そのときだけは、随分と火が弱まる。
 火種を、そっと捨てているのだ。誰の目にも入らぬ場所で、静かに放っている。呪いを、水にくるんで捨てている。

 彼はそれで良かった。どこかに注ぎたいと思うことだけは決してなかった。注いだところで生まれるものは嫌悪と深い溝だけだったからだ。

 それを注ぎたいと望むことは、ひどい裏切りにしかならない。雪ぐことは何よりも難しい。うつくしい新緑の大地に火を放つ行為に他ならない。

 焼けた土地を脳裏に浮かべて、少しだけ、誰にも分からぬ程度に笑う。カルナがなまえを視界の端に収めたとき、それは行われる。

 緑を煤に変え、湖を干上がらせ、焼かれた土を瞼の裏に描いて、虹彩に蒼穹を映す。下瞼に焔の色を差して、何の色にも染まらぬ顔で、なまえを見ている。

 あの白い手首を掴んだら、肉の焼ける香りがするのだろう。少し経って、カルナは得物に指を滑らせた。
 炎が強まった。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -