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楽園からの謁見
※前作 オーバー・グロウ・エデンの続編
※不道徳的な表現を含みます
※排泄描写あり
※弱視設定があります





<人物一覧表>

キャスター・リンボ…野良サーヴァント
真榊 なまえ(16)…呪術師の家系の娘

真榊 泰三(55)…なまえの父
真榊 里穂(46)…なまえの母
真榊 潤(18)…なまえの姉




<あらすじ>
カルデアとの激しい交戦により体力と魔力を多大に消耗したリンボは、立ち寄った村を次々と潰し、次なるカルデアとの戦いに備え力を蓄えていた。身なりの良い人間の装いを纏い、町で情報を集めては、消えても不都合の無い村里を襲って魂食いを繰り返していた。ある日、リンボは「不作を知らぬ村」が西の山を二つ越えた先にあるとの情報を耳にする。さまざまな呪具を操り、山の神を操ることで不作を免れていると云うのだ。聞き覚えのない呪具の名に興味を示したリンボはその日の晩、不作を知らぬ村「印田村」への襲撃を決行する。リンボは寝静まっている村人たちを次々と皆殺しにすると、この村で最も多くの呪具を有していると云う真榊家の土蔵を漁った。しかし、目当ての呪具は出ては来なかった。腹いせのように敷地内にある社を破壊する中、小汚い納屋の中から、何かが蠢く音を聞く。近づいてみると、伸ばしっぱなしの髪を引きずった娘が納屋の前で頭を下げていた。リンボが娘の髪を掴み上げると、娘の目には光が宿っていなかった。ものの輪郭を追うような瞳の動きを見て、リンボはその娘の目がまともに機能していないことに気が付く。暇潰しに行われた問答の中、リンボが気まぐれになまえの話に耳を傾けていると、とある呪具がなまえの身体の中に埋め込まれていることを知る。印田村がここ十数年前不作知らずだったのは、その呪具を介して生み出される魔力が村全体に作用していたためだった。事のあらましを把握したリンボは、なまえに強い興味を持った。リンボは毎晩なまえと交わり、村の大地を潤していた魔力を吸い上げ、愉楽に浸った。それから半月後、リンボはなまえを霊山の奥の奥へと構えた屋敷へと連れ去る。 朝焼けを背に、二つは荒れ果てた印田村を後にした。




◯屋敷・リンボの部屋(夜)

薄暗い十六畳の部屋。明かりのついた小さな燈台が部屋の真ん中に一つ。
北側の襖の前で、血の滲むほおを押さえながら倒れている真榊なまえ(16)。それをキャスター・リンボが俯瞰している。
リンボ、爪に挟まった血を舐める。

なまえ
「(小さく)ごめんなさい」

リンボ
「それは何に対しての謝罪になりましょう。ええ。別に怒ってなどいませんから、是非一から説明していただきたいと思いまして」

なまえ
「……勝手に部屋を出ようとしてごめんなさい」

リンボ
「ああ! 成る程。それに対する謝罪でしたら受け入れましょう。して、先ほどおまえが手を掛けた襖はどこへ通じるものになります?」

なまえ
「廊下です」

リンボ
「よくご存知で」

リンボ、なまえに近寄る。なまえは怯えて息を詰める。
リンボ、なまえの胸倉をつかみながらしゃがむ。鼻先が触れるくらい顔を近づける。

リンボ
「隣室への移動は許可しましたが、廊下には決して出るなと。そう、伝えました。おまえも、わかりましたと、そう返事をしましたね」

なまえ
「ごめんなさい、厠に行きたくて」

リンボ
「何かする際は声をかけろと言った筈です」

なまえ
「リンボさま、今日、お出かけしていらしたので、疲れていらっしゃると思って」

リンボ
「はあ。おまえなりの気遣いですか。無駄です。不要です。それより、以前のように廊下でいつまでも彷徨われた挙句、行き倒れられては困りますゆえ」

なまえ
「(辛そうに)ごめんなさい」

リンボ
「まったく。さて。厠ですね。ここで漏らされては困ります。立ちなさい」



◯同・廊下(夜)

左右に立ち並ぶ無数の襖。
リンボ、なまえの肩を抱きながら歩く。なまえはリンボの手と袈裟を握る。少しふらふらと歩く。

リンボ
「朝餉は何にいたしましょうか」

なまえ
「……あ、う、わたしは、なんでも」

リンボ
「では、鼠の肉、鶏の脚、豚の耳、蝙蝠の羽を煎じた寒天に兎の爪を添えて」

なまえ
「う……」

リンボ
「何に、いたしましょう?」

なまえ、少し悩み、

なまえ
「たまごのおかゆ……」

リンボM
「そんなものを?」

リンボ
「では、それを」

目玉の描かれた人型の紙を取り出し、後方に放つリンボ。
紙は粘土細工のように人の姿に変化しながら暗闇の中へ消えていく。

リンボ
「厠を出る頃には、出来ているかと」



◯同・厠(夜)

厠の前で立ち止まるリンボ。
なまえ、立ち止まったリンボに引っ張られる。
リンボ、引き戸を開ける。汚れのない綺麗な汲み取り式便所がある。
なまえ、便所に跨る。

リンボ
「ほら、裾をめくって、しゃがみなさい。お手伝いいたしましょうか?」

なまえ
「そんな、一人で出来ます」

リンボ
「(少し笑って)もし落ちたら?」

なまえ
「落ちないようにします」(怯えて)

なまえ、俯いて黙り込むと、震える手で自分から着物の裾をめくり、しゃがむ。
リンボ、なまえの肩を支える。
放尿音。
なまえが用を足しているところを眺めるリンボ。
リンボ、なまえの耳元で

リンボ
「上手、上手」

と囁く。
排尿が終わる。リンボ、紙でなまえの股を拭く。唇を噛むなまえ。



◯同・広間(夜)

薄暗い二十四畳の殺風景な部屋。
何もない机の上。リンボとなまえが横並びに座っている。
だるそうに机の上に肘をかけ、なまえの髪をいじるリンボ。
襖の開く音。
真榊里穂(46)が、たまご粥を乗せたお盆を持ってくる。
なまえ、里穂に気づく様子はなく、お盆の中に夢中になる。二人の前にお盆が置かれる。
里穂、すぐに立ち去る。
リンボ、お盆の上の匙を拾い上げる。

なまえ
「いいにおい……」

リンボ
「好きにお食べなさい」

なまえ
「あ、ありがとうございます。(里穂が立ち去ったほうを見て)あの、おかゆ、」

リンボ
「食事の前にはまず一言挨拶をすると、両親に教わらなかったのですね」

なまえ
「え、あ……い、いただきます……」

なまえ、手元で匙を探す。粥の器を触り、手を引っ込める。これを二、三度繰り返す。

なまえ
「ない……」

リンボ
「おや。何か探しものでも?」

なまえ
「匙、が、ほしいです……」

リンボ
「そうですね。しかし、その眼では食事もままなりませんでしょうから、食べさせて差し上げましょう」

なまえ
「そんな、一人で食べられます……」

リンボ
「匙の場所もわからないと云うのに?」(馬鹿にしたように笑って)

リンボ、匙に口付ける。体を起こしながら、なまえに寄り添う。

リンボ
「ン、ンン――食べさせて欲しいですか?」

なまえ
「はい」

リンボ
「ええ。ええ。構いませんとも」

リンボM
「一人で食事一つこなせないとは、なんと哀れな!」

匙でお粥を掬うリンボ。お粥からは湯気が出ている。
リンボ、息を吹いてお粥を冷ましてやる。

リンボ
「口を開けて」

なまえ、ほおの傷を気にしながら口を開ける。
リンボ、なまえの口の中に匙を入れ、ゆっくりと口から匙を引き抜く。
なまえ、咀嚼して飲み込む。
会話しながら餌やり。

なまえ
「(ぎこちなく微笑んで)おいしい」

リンボ
「結構」

なまえ
「あったかい……」

リンボM
「何をそんなに……」

なまえ
「あまり温かい食べ物を口にしたことがなくて、リ、リンボさまのお家は、すごいです」

リンボ
「はあ?」

なまえ
「温かいご飯が出てくる」

リンボ、少し目線を泳がせる。

リンボ
「でしたら、やはり、ここで暮らしなさい。毎食、温かい飯が食べられましょう。それがずっと続くのです」

なまえ
「ずっと」

リンボ
「ええ、ずっと」

なまえ
「……で、でも、お父さまやお母さまが、心配します」

リンボ
「気にせずとも、すでに了承済みですよ。おまえを引き取るにあたって、特に執着したようすも見られませんでしたねぇ」

なまえ
「そうですか……」

障子からどんどん光が入ってくる。部屋中が朝日の色になる。
なまえ、表情を歪める。
リンボ、粥を掬うが、なまえのようすがおかしいことに気づく。

なまえ
「ああ……すみません」

腹をかばうように背中を丸めるなまえ。
リンボ、光に濡れた障子のほうを見る。見ながら、爪で畳を引っ掻く。
障子の外で一斉に幕が落ちる。
部屋が暗くなる。
マッチの音。
真榊泰三(55)が、火の灯ったろうそくを机の上に置く。すぐに身を引く。

リンボ
「如何ですか?」

なまえ
「あ……大丈夫です。ごめんなさい、あの、明るいところにあまり慣れていなくて……」

リンボ、唸りながらなまえの腹を撫でる。

リンボ
「ンン……、暗くて湿ったところがお好きなのですねえ」

なまえ
「……確かに、そういったところが、いちばん落ち着きます。あの、ろうそく、ありがとうございます」

リンボ
「下郎に口を聞くな」

なまえ
「ごめんなさい」

リンボ
「フン。目は慣れてきましたか」

なまえ
「はい、これくらいの明るさが、ちょうど良いみたいです」

リンボ
「では、残りは自分でお食べなさい」

なまえ
「はい」

なまえに匙を手渡すリンボ。
リンボ、机に向き直り、笑顔を消す。一度だけ手を叩く。
襖が開く。
真榊潤(18)が、黒い盃をお盆に乗せて持ってくる。
なまえ、机に置かれたお盆を見ながら目を細める。
潤、襖を閉め、立ち去る。

なまえ
「リ、リンボさまは、何も……食べないのですか」

リンボ
「(なまえのほうを見て、微笑み)はい」

なまえ
「そんな、何か、口にしたほうが」

リンボ
「ン、フ、フフ、ハハハ……おまえの肉置きが豊かになるまでを見届けましたら、そのときは、そうですね」



◯同・廊下(夜)

泰三、里穂、潤、廊下の端に立ち並ぶ。

リンボの声
「おまえの親族も招き、会食でもいたしましょうか。ンフフ、フフ、アハハハ! フ――、それがいい、それがいい……」

呪符が貼られた三人の顔。
跳ねる泰三の右肩。


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