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 無理無理無理無理死ぬ死ぬ死ぬ死ぬこんな女と寝るくらいならいっそ舌でも噛み切って死んでしまおう、あ、僕死ねないんだった。
 そんなことに今更気がつくなんて、もう、取り返しもつかないくらいに頭がおかしくなってしまったのかもしれない。それほどまでに僕を苦しめるものが目の前にある。僕の心身を蝕む、汚泥の底を詰めたような女。
 人間の死と刀の死は同一のものではない。僕ら刀剣男士はモノなのだから、どれだけ人間と生命の価値観を比べようが意味のないことだ。
 僕を構成する物質が消えたところで、僕自身に死そのものが訪れることはない。本霊は肉の器とは別の処に在るからだ。人々の信じる心無くして神は顕れない。僕らの生は人々による意識とコトダマのなかにしか存在し得ない。結局のところ、九十九の神は人間に依存することでしか自分の存在意義を見出せないのだ。いつの世もそうだった。そして今も。
 出来得ることなら神になりたい。たったひとつだけの神に、謂わば全知全能の、凡ゆるものの頂に君臨する神に。あまりにも傲慢で狂った望みに、涙が出そうになる。本当に叶えば良いのになとさえ思う。
 僕が神様になったら、本当の神様になったなら。人ひとり消したって赦されるだろう。
 淫蕩で半人前で何の役にも立たなくて、そのくせどこまでも利己的な、自分の役職がどれほど重要なものかすら理解出来ていない馬鹿女が! こんな人間が僕の今際の主君だなんて、気が狂いそうになる。
 夜伽を命じられたのはこれで二度目だ。前の夜、もう二度とこんなことはしたくない、するものかと思っていたのに。
 ああ、ああ! 誰が好き好んで君なんかを抱かないといけないんだ。勃つものも勃たないというのに、どうしてこんなに必死になって、僕は惨めな姿を晒さねばならないのだろう。
「みつただ、」
 その声が、声色が! 吐き戻しそうになるほど嫌なんだ。あの子にそんな呼び方をしてもらえたら、どれほど幸福だっただろう。目の前の女に彼女を重ねて、ありもしない幻影を抱き締める。
 僕は刀だけど、人間に扱われるために生まれたモノだけれど。審神者がいないとこの身一つ保てない、階級の概念すらない無様な付喪神かもしれないけれど。
 やっぱり、僕は僕の意志で、何かを好きになりたいと思う。燭台切光忠という刀に人権はない。でも、意思持つものとしての権利くらいならあるはずだ。この一瞬、現世で過ごすことを許された生命として。
 いのちすら持っていないくせに、僕は意思持つものとしてそこに在らねばならないんだ。彼女に、なまえに、モノとして見られないためには、いのちが必要だ、いのちが欲しい、いのちが、目の前にある。

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