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(※ふたなりぐだ子のぐだ♀ロビNLものです)



「あのねえ、ロビン、私ねえ。秘密にしていたことがあるの」
 マスターはいつも唐突だった。
 特別な催しのあるレイシフト先で、時間もないのに周回をすると言い出したり。素材回収のためだとか言って、今までためてきた林檎を齧り始めたり。育成予定のサーヴァントもいないくせに。きまぐれか。猫みたいだ。
「誰にも言ってないことなんだよ」
 しかし、唐突でない会話の始まりなどどこにも存在しないわけだから、大して気にすることでもないのかもしれない。
 オレは「唐突ですね」と思ったことを口にした。「うん。ビックリさせたかったから」マスターは花が咲くような笑顔で頷いた。長い睫毛が揺れる。オレの心も揺らされそうになる。いや、もう揺れていたのか。
 傾けるはずだったティーカップをソーサーの上に置きなおす。オレはいつでもマスターの話を聞ける体勢に入ったというのに、マスターはオレの手元にあるビスケットなんかを摘み上げていた。
「マジメな話なんじゃないんすか」
「真面目だよ。だから糖分補給」
 桜色の唇がビスケットを挟む。「おいしいね。ロビンが焼いたの?」さくさくと軽い音を立てながら、マスターは黄土色のビスケットを咀嚼した。
「いいや。まあ、たぶん赤い人だと思いますけど。食堂に置いてあったんで、テキトーに」
「そっか。ざんねん」
 何が残念なのか。オレが焼いたビスケットだったら、もっと喜んで食べてくれていたというのか。
 食堂の、一番大きなテーブルに。皿の上に大量に積まれていたから。ただ、そこにあったから。紅茶でも飲むついでにと、少し持ってきただけ。誰が作ったかは関係ない。食べられればそれでよかった。
 なのに、残念だ、と言われたことが、すこし心に引っかかる。
「それでね、本題なんだけどね」
 指についた砂糖をぺろりとなめる。金色の猫目が片方隠された。所謂ウインクだ。
 オレの部屋まで来てしなければならないくらい真面目な話。一体なんだ。新しいサーヴァントが来たから、そっちの育成に集中したいとか。オレのスキル上げの一時中断とか。その程度のことしか思いつかない。
「なんすか」
 興味を示していると悟られるのが、なんだか気恥ずかしくて。塩っぽい対応をしてみる。
「実はね、私、ふたなりなの」


「……は」
「ふたなり。うんとね、心も体も女の子、なんだけど……、男性器も、生えてるの」
 だんせいき。年端もいかない娘の口から、そんな言葉が飛び出てくんのが信じられなかった。(マスターの歳なんか知らねーけど、まあ十代後半ってところか。そんな女の口から)男性器って、アンタ。「……マスターは、実は男だった?」「ううん。女だよ。胸もあるでしょ」そう言って、自分の胸についてる二つのふくらみを両手で指さした。
「あー……そうッスね」
 凝視するのも失礼か。いや、しかし、マスターが女の身であることを、こうして証明してくれているのだから、見ない方が失礼なのか。目線を反らして、肯定だけ返してみる。
「でもね、……生えてるの」
 そう、言われてしまうと。マスターのつま先から、足を追って、下腹部あたりに目線が行ってしまうのも仕方ないというか。スカートでうまく隠れているのか、例のモノの輪郭すら見当たらない。
「……そんなことオレに言ってどうするんすか」
「ロビンになら、言ってもいいかなーって思ってね。まだ、誰にも言ったことなくて。マシュにもだよ。でも、ロビンになら、男の人だし。いちばん、信頼してる、から」
「信頼してるって言ったって、なんすか、それ、ははあ、つまり、オレに襲われないための予防線にってこと?」
「そんなんじゃないよ」
 生えてるから、なんだってんだ。オレにだってついてるものが、マスターについてるから、なんだってんだ。どんだけ可愛い顔で否定したって、そういうふうにしか聞こえないでしょうが。
 信頼してる男に自分の秘密をさらけ出す、っていうのは、なかなかオツなもんだ。だが、内容があまりにもアレすぎる。本当にそんなモンがついてるかどうか、確かめてほしくて言ってるみたいだ。
「本当に、そんなんじゃないよ。予防線とか、違うよ」
「じゃあなんなんすか」
 マスターはぐっと言葉を詰まらせる。眉を下げて頬を上気させて、何か言いたそうに唇を噛みしめた。「あのね……」震えた唇の端には砂糖の粒がついていて、
「ロビンとね……してみたいの。あの、その、ロビンのお尻、貸してください!」
 取ってやろうかなーと、頭の片隅で考えていた。急に距離近くなりすぎか? いやでも距離詰めてきたのは向こうだろ。
 ロビンとね……してみたいの。
 そこまではしっかり聞こえた。正直、頭がイカれるぐらいにはうれしい。しかし、マスターとサーヴァントという関係でしかないオレらがそんなことしていいのか? とか、それ以前の問題の話が、発言の後半に含まれている。カッと顔が熱くなる。
「はっ……はあああ!? なッ……お、オレが抱かれる側ぁあ!?」
「そうなの! ロビンのこと抱きたいの! 前から思ってたけどめちゃめちゃにしたいです!」
「いや待てよ普通逆でしょーがッ!?」
「私に普通もヘチマもないもん!」
「いやでも……えええ!?」
 勢いあまって椅子から立ち上がる。驚きすぎて転げ落ちるかと思った。
 しかし、それほどマスターの告白はオレに対して衝撃がでかすぎた。なんだよオレを抱きたいって! 抱かれたいじゃないのか!? してみたいって言い方も、お試しみたいな感じがして好きじゃあないけども!
「本気か!?」
「ほんきッ!!」
「本気の本気か!?」
「本気の本気の本気っ!!」
 いや、本気だとしても、オレにも男の意地がある。若い娘にマウント取られるだけでも屈辱的だと感じる男が多いってのに、マスターは積極的にそれをしたいと言ってきた。頭おかしいんじゃないか。そう口にしたくとも、何やら意固地になって真っ赤な顔で震えているマスターを見ると、どうにも舌が回らない。睨み付けられているのか上目遣いなのか、それすら判断できないほど、その表情はかわいい。
 そんな可愛らしい顔をしながら、ぐっと息を吸い込む。
「ロビンが好きだからこんなこと言ってるんだよ!!」
 爆発だった。大声の比喩じゃない。
 大きな口で、小さな手を握りしめて、泣きそうな声で叫びあげた。告白してるんだかキレてるんだかまったくわからない。しかし、オレの胸の中に流れ込んでくるものは、怒りとか、嫌悪とか、そういった負の感情とはかけ離れたもので。むしろ泣き出したくなるほどの喜びと慈しみと、幸福に近いそれの色をしていた。
「ロビンのこと、私、大好きなんだよ……!」
 声はびっくりするぐらい泣きそうなくせに、その瞳は真剣で、水のひとつも浮いていなかった。「ロビンだから、してみたいって、思ったんだよ。好きだから、私の秘密、教えてもいいって、思ったの……!」それはマスターのワガママだし、秘密を教えたからやらせろと言っているようなものだとは思ってしまったけれど。
 オレがマスターのことを、特別な人だって思っていることは、今後も変わらないし。
「それ、なら。いいです、けど。その気持ちは、嬉しいです、し。オレも、スキ、だし」
 あまりにも真剣な瞳に、まともに視線を合わせることができない。でも、視界の端で、マスターが笑ってくれたということだけは、本当にすぐにわかった。
 なんだかんだ言って、マスターがどんなやつでも、どんな身体でいたとしても。オレは、マスターのことが好きなのだ。
 嬉しそうに抱き着いてくるマスターの、その股間部分に、何やら固いものがあったとしても、だ。

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