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(会話文)(マイルーム会話ネタバレがあります)(エドぐだではないですごめんなさい)(エドモンくんがどう読んでも偽物なのですがご容赦ください)










「ウェイター。……ウェイター! 耳をベッドの上に置き忘れてきたか? オーダーすら取りに来れないとは、給仕人としてどうなのだ」
「……あのですね、食堂はカフェとは違うんです。耳は今朝ちゃんと付けてきました。それに、わたしは給仕の人じゃありません」
「では、その格好はなんだ」
「素敵なエプロンでしょう! いつも厨房でお世話になっているエミヤさんが作ってくださったんですよ」
「そうか。今、特別必要な情報ではないな」
「そうですか。何かご注文ですか?」
「コーヒーを二つ」
「ふたつ? ……はーい、少々お待ちください」
「ああ」
「ちょっと、どこに……」
「席に戻る」
「運んで来いと」
「そうだ」
「……向こうの、二人掛けの席ですね。はい、かしこまりました」


「ご注文のコーヒーになります」
「結構」
「では」
「待て」
「しかして希望せよー!」
「黙れ。そんな問答をするためにおまえを呼び止めたのではない」
「……ミルクと砂糖はそこですよ」
「見れば分かる」
「……? インスタントコーヒーかどうかを疑っていらっしゃる?」
「まさか。俺の眼識を舐めるな」
「なんですか。人待ちですか?」
「クハ、察しが良いのか悪いのか。早くしろ。このコーヒーは冷めると酸味が強く出る」
「……? マスターさんを呼んで来いと? てっきり一緒に来ているものかと……」
「……座れ」
「はあ?」
「座るがいい。深く。自室の椅子に腰を下ろすように。或いは――」
「もう、お話があるなら最初からそう言えばいいじゃないですか。ちょっと厨房に声かけてきますね」
「何を。俺は初めからそのつもりだったのだが」
「日常会話はもっと簡単でわかりやすい言い回しでお願いします」
「おまえと話がしたい」
「不覚」


「大体、いつもマスターさんと一緒にここでお話してるじゃないですか。毎回そうなら今回もそうだと思うでしょう」
「マスターとは、そうだな……おまえを口説くにはどうすれば良いかを話し合っていた」
「コーヒー噴きそうになったじゃないですかやめてください」
「更に簡単に言うとするならば、おまえの落とし方を」
「簡単に言えってそういうことじゃないですよ! ちょっと! 笑わないでください!」
「これが笑わずにいられるか! おまえの慌てふためく表情は実に愉快だ!」
「本人の目の前でそれを言いますか!?」
「まあ聞くがいい。一週間の議論の末、結論はこうだ。まず、おまえが一番暇を持て余している午後二時半辺りを狙い、何かしら文句をつけに行く」
「文句」
「地獄と謳われるランチタイムならまだしも、昼過ぎとなればおまえは突如として暇を持て余す。絶好のチャンス到来という訳だ」
「そんな、午後から暇人になるみたいに……わたしだって休息の合間に皆さんのお弁当の献立考えたりとか、今後お出しする料理の研究とか……いろいろやってますよ」
「そして俺の特等席とも言えるこのスペースへと誘い込む」
「誘い込むって」
「現におまえはこうして俺の前にいる」
「……そうですね」
「……」
「……」
「何か話題は?」
「突然そう言われましても」
「……抜かった。実際に作戦が成功した時のことを考えていなかった」
「成功しないと思ってたんですか?」
「如何にも」
「なぜ!?」
「マスターは、日本人は面識のない者に対し強い警戒心を抱く人種、ゆえに気を抜けないと奮起していたからな。無論、口説いた相手が異性となれば警戒心は更に強まるだろうとも言っていた」
「えっ、でも、わたしと巌窟王さんって面識あるし仲良くないわけでもないじゃないですか」
「!」
「ほら、いつだかここにいらしたとき。キャスター陣があのあたりに固まって原稿に追われていたじゃないですか。そのときですよ、巌窟王さんが初めてわたしを呼んだの」
「そう……だったか。憶えているものなのだな」
「人を勝手にウエイター呼ばわりした上に豆の質に文句言われたら嫌でも覚えます。カップを返しに来るたびちょくちょく嫌味を言われ続けたら反論もしたくなります。実際に何回か言い返した気もします」
「カップの返却時に小言を挟めと提案したのはマスターだ」
「もうあの人を信じられない」
「……ク、ハハ、随分と、良い淹れ方をする」
「あ、お味のほうはどうですか?」
「さあな」
「はぁーっ!?」
「……味覚など、とうの昔に忘れたと言えば嘘になるが、それが真実であるとも言い難い。だが、これはおまえが手ずから淹れたものだな」
「えっ……ストーカーですか!? マスターさんだけでは飽き足らず……!」
「何を言う。おまえは……、ん……、コーヒーを淹れるのが下手だということだ」
「なぁーっ!?」
「しかし、ああ、何故だろうか。舌に馴染む、と言うのか。このコーヒーを淹れたのはおまえだと、口にした瞬間に判別できる。何故だろうな。何故だと思う?」
「えっ……、カップは温めていますし、時間もきちんと測ってますし、淹れ方に関してもエミヤさんから合格のお墨付きも貰っていますし……、な、何故ですか……?」
「終始観察していた」
「なぁーっ!!?」
「すべての行程に不可解な点は何一つ見当たらない、だと云うのに。たかだかドリップコーヒー一杯にこのような味を出せるとは、天より賜りし才か」
「はぁーっ!!?」


「おや、休息に入るのではなかったのかね」
「もう知りませんあんな人! 人!? アベンジャイ!! エミヤさん! わたしのコーヒーの淹れ方は下手くそですか!?」
「…………」
「なん……」
「……いくつか思い返してみたが、気にかかる点は特に見当たらないな。大丈夫だ。君の腕前は私が保証しよう」
「ですよね! 流石エミヤさん!」
「何かあったのか?」
「いいえ! 何も!」
「クハハハハハ! ウェイター! いいぞ! 逃走劇とは常にスリルと緊張感によって構成される。更に匿われた先でひとときの平穏を愉しむ演出までこなすとは賞賛に値する!」
「食器の返却口は左側になります」
「この笑い声は……巌窟王か? 姿が見えないが……痴話喧嘩ならよそでやってくれ」
「そんなカワイイものじゃないです。そもそも彼とはそういう関係ではありません」
「……? ベッドの上に耳を置いてきたんじゃなかったのか?」
「ベッド……? ……、……!! よく考えたらそれセクハラじゃないですか……もう……マスターさんに言いつけ……マスターさんもグルだ……! もう何も信じられない」
「よくはわからないが、先ほどの会話から察するに、彼は君の淹れたコーヒーが飲みたいのでは?」
「でも淹れ方が下手くそだって言うんです」
「それは君に奮起してほしいからだろう。君をわざと怒らせて……おっと、ここで言ってしまっては彼の作戦も水の泡か。最も、あの巌窟王ともあろう者がそんなわかりやすい手法を取るとは、到底思えないのだがね」
「うーん……バカにされている……?」
「バカにしている、というのも違う気がするが……」
「きっとものすごく舌が肥えているに違いありません……今度から巌窟王さんのコーヒーを淹れるときはぐうの音も出ないくらいめちゃくちゃに美味しいのを淹れてやる……」
「はは、その意気だ。……頑張れよ、」
「……ああ、」

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