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「いつ? いつになったら、戻って来てくれるの?」
「はい?」
「ずっと待ってた。でも君はいつまで経っても帰って来なかった。どうして? どうして僕を裏切ったの。僕は君のこと、ずっと待ってたのに」
「何ですか、待ってたって。裏切ったって、何をですか。わたし、燭台切さまを待たせるようなこと、しましたか?」
「うん。待ってた。待ってたんだよ。僕は。君のことをずっと待ってた。なまえくんが、またここに戻ってくることを、ずっと待っていたんだ」
「なんですか、どういうことですか? ちゃんと説明してください」
「本当は君も解っているだろう。わざと言っているのかな。それなら随分と意地悪、ううん、性悪になったとでも言うのかな」
「なに、なんですか? わからない、わたし、なにか忘れてますか? ごめんなさい、思いつきません、わたし、一体何を」
「待ってたのに。どうせ忘れているだろうから、迎えにまで来たのに。どうして、どうして思い出してくれないんだ。憶えていてよ! 君にとっては昨日の出来事かもしれない。でも、僕にとっては半年前、ううん、一年前のことみたいだ! 一年なんて誤差の範囲だと思えるくらいもっと昔だったかも! 二年? いや十年も前のことかな!? ああ、時間なんて概念、ぜんぶ無くなってしまえばいいのになあ!」
「痛い! なに、痛い! やめて! 離して! あ、あっ!」
「痛い? 痛いよね。ごめんね。でもこの痛みはきっと本物だよね。僕が君の目の前にいて、君が僕の目の前にいることの証明なんだ。はは、手首、ほそいね、なにも、変わってないね……ごめんね、でも、本当に、ずっと待ってた。待ってた、待っていたんだ」
「う、う……、痛い、離して、燭台切さま、いたい、いたい……」
「また、どうせ。君の意思に関係なく、君はどこかに行ってしまうんだろう」
「どこか?」
「どこにも行かないで。無理なお願いだって解ってるよ。でも、どこにも行かないで欲しいんだよ。僕は、ずっと待ってるから、たまにでいいから、こうやって思い出して、戻ってきて欲しいんだ。君を待ってる刀が、ここにあるってこと、ここにいるってこと。何回忘れたっていいよ、その度に思い出してくれるなら、僕は……」
「なに、わたし、一体なにを忘れて、」
「僕がここにいることを、たまにでいいから、こうやって、思い出して欲しいんだ。たまにでいいよ。本当に。君が別のところに行ったって、恨んだりしない。別のところにいる君の相手……僕ではない他の誰かに恨みつらみをぶつけることだって無いよ。だから、だから……たまにでいいから帰って来て。お願いだ、こうして、また……話をさせて」
「別のところ……?」
「それにすら気づいていないんだ。本当に、悪い女。大好きだよ。どうして、こんなに好きなんだろう。どうして僕は、こんな酷い仕打ちばかりをする君のことが、今でも好きなんだろうね」
「……ごめん、なさい」
「ああ、やっぱり、それは君が、いつまで経っても。今になっても、空っぽだからなんだろうなあ……、」

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