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(GOGO二号さんの設定)
(真名バレ回避のため「新宿のアサシン」と書きましたが、正確には新宿シナリオに登場するアサシンくんではありません、ごめんなさい)



 おねえさん、それ、いつ終わんの。
 まだ時間かかると思いますよ。
 どのくらい。
 二時間、くらいでしょうか。
 はあ!?

 この女は心底バカだと思った! 首根っこ引っ掴んで廊下に放り投げてやろうか。あのでかい嵌め殺しの大窓に顔面押し付けるなりなんなりして、物理的に頭を冷やせばいい。そうしたら、馬鹿を言う唇も少しは冷気でひっついて動かなくなるだろう。
 人間の稼働時間なんてたかが知れてんだ、サーヴァントが年がら年中行動してるからって、人間がそれに合わせる必要なんかあるわけない。ましてや、肉体補強の魔術に長けた魔術師でもないくせに。身の程を弁えろ、と声を大にして怒鳴りつけてやろうとも思ったが、舌が思い通りに動かない。
 ゆっくりとこちらを向いたなまえの、きょとんとした顔に、怒る気力も失せてしまったからだ。
「交代の時間までまだありますし、少しでも他の人の負担を減らしたいので」
「自己犠牲のつもり? 自分で自分の首絞めて楽しい?」
「何言ってるんです、いつもわたしの首絞めてるの、アサシンさんじゃないですか」
 それもそうだ。いや、納得してどうする。
 話をはぐらかされたことに腹を立てても良かった。まともに人の顔を見て口を利いたと思ったら、すぐさま正面に向き直り、液晶に映し出された文字列を指先でなぞり始める。呪文の詠唱でも始まったのかと思えばただの独り言。耳を傾けることすらばかばかしくなって、胡坐を掻いた脚の上に肘をつきながら溜息を吐く。
 すぐ後ろにいる俺のことよりも、面白くもなんともなさそうな文字列遊びに次いで、仕事を引き継ぐ人間のことばかり考えている。立ち上がり、あと五歩も歩けばなまえの首筋に手が届く。俺がそれをしないのは、最近覚えたらしい肘打ちが脇腹に飛んでくるのを恐れてのことだ。素人の力加減の無さは、不意打ちと掛け合わされると実に恐ろしい。
 となるとすれば、正面から強行突破という形が一番理想的だが、生憎なまえの目の前には人一人分入れる隙間など存在しない。それどころか、あの指先から向こうは精密機械の山なのだ。それらに俺が触れようものなら次こそ本気で殴られるのだろう。
 殴られるのは別に良い。本質は別のところにあるからだ。
 敵意や殺意とは一時のみの感情ではない。だから、なまえの神経を逆撫でするような発言や行動は極力慎むべきだ。そうさ、本気で嫌われてしまっては元も子もない。
 俺があの生肌に触れるのは、あのうなじに手のひらを寄せるのは、心からなまえのそれを掴みたいと思ったときだけだ。謂わば、こちらが優勢であると、皮膚を介して刷り込むときのみ。それ以上は、ただ隙をつくってしまうだけ。
 必要以上の接触は毒だ。なまえにとっても、俺にとっても。
 だからと言って。このまま沈黙を続けるというのも面白くない。「おねーえさん、少し休憩しよ。十分、いや五分でもいいからさ」少しでもなまえをその気にさせるために声を跳ね上げる。笑ったって向こうからは見えやしないだろうが、良い返事をもらえたときのことを考えると顔がほころぶというものだ。
 返事はない。予想通り。ならば。
「ねー、聞いてる?」
 ぽつりとそう尋ねると、なまえは大袈裟に肩を震わせた。それから静かに振り向いて、俺がこの位置から一歩も動いていないことを確認し、安心したように軽く息を吐く。
 この言動を引き金にして首に手をかけられたことが、随分と深く記憶に残っているらしい。
 うん、それでいい。その首が錆びて動かなくなったとき、また潤滑油を流し込みにいけばいい。毎日毎日あの温かくて柔らかいうなじに触れていたら、俺のほうがおかしくなってしまう。
「休憩しよ。甘いのあげるからさ」
 本当はそのまま手を取って、無理やり廊下に投げ出してしまいたいけれど。「じゃあ、五分だけ」俺の手のひらに恐れ慄くその表情に免じて、今は、薄ら笑いを返してやるだけにした。

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