SSS | ナノ


(GOGO二号さんの設定)
(真名バレ回避のため「新宿のアサシン」と書きましたが、正確には新宿シナリオに登場するアサシンくんではありません、ごめんなさい)
(捏造多めです)
(荊軻さんの髪飾りやアサシンくんの髪型に対しての描写は個人的な見解です)
(後半のは会話文です)




「アサシンさん、前髪切らないんですか」
 焼きたての、ふんわりとした白パンにかぶりついているアサシンさんは、「んあ?」と声を上げながらわたしのほうを見た。彼の伸びすぎたように見える前髪が、パンの頭をこそこそと撫でている。口元には白っぽい粉がついていて、まるで子供みたいな食べ方だなあと思った。
「なんで?」
「え……、んー、前見えてるのかなって。邪魔じゃないんですか」
「別に? 慣れたしなぁ。鍛錬の一環みたいなとこもあるし」アサシンさんは唇についた粉をぺろりと舐めた。
「鍛錬?」
「そ。視界の情報だけに囚われないように、わざと死角を作って生活すんの」
 そう言って、アサシンさんは空いている片手で前髪の先をつまんだ。なんだか見惚れてしまい、それを悟られないために「へえ」と適当な相槌を入れる。伸びた前髪の理由を説明されただけなのに、ひとつひとつの動作が無性に格好良く見えるのは何故だろう。
 食堂には私たち以外誰もいなくて、厨房のほうも珍しく静かだった。物音一つしないから、ただ目の前のシチューを口に運ぶのにも緊張してしまって、咀嚼すらうまくできない。さっきまで遠くのほうでエミヤさん(赤いアーチャーのほう)がお皿を洗っている音がしていたくらいなのに、キッチンは不自然なほど、しんと静まり返っている。
「おねえさんのそれ、パンにつけてもいい?」それ、とはシチューのことだ。
「いいですよ」
「やった」
 わくわくしたような顔で、アサシンさんはわたしのシチューにちぎったパンをくぐらせた。本当に好奇心旺盛な少年みたいだな、と思う。
 彼のしなやかな指先に摘まれたパンが、白いとろみのついた液体を乗せて、口に運ばれる。少し口の中で噛んでから、アサシンさんは「うまい」と微笑んだ。息子の成長を見届ける母親ってこんな気持ちなんだろうか。頬がほころぶのを感じて、そんな表情を隠すようにスプーンを口に運んだ。
 アサシンさんは、紺の手甲も黒の双籠手も外して、珍しく素手になって食事をとっている。食べているものがパンなのだから当たり前なのだけれど、彼の手や指先を生で見るのはちょっと新鮮な気分だった。
 自然と、その手の行方を目で追ってしまう。指先についたパン屑を舐めているアサシンさんと目が合った。アサシンさんは「んー、」と何か言いたげに唸ったかと思うと、唇の隙間から赤い舌をちろりと見え隠れさせた。
「おねえさんさ、俺の顔、そんなに気になんの?」
 ニイ、といやらしい笑みがこちらへと向けられる。ただでさえ、彼が笑顔をつくるときは碌なことがないというのに。下唇を指の腹で拭うその仕草にさえ、目を惹かれてしまう。
「ねえ」
 唇の間に親指の先を挟んだまま、アサシンさんはこちらを見つめていた。「黙ってないでさぁ」すうっと細められた目がひどく色っぽくて、思わず視線を外してしまう。
「指は、布巾で拭いたほうがいいですよ」
「……真面目」
 台の上に寝そべっている布巾を押しやって、アサシンさんに差し出す。
 何か会話が欲しかったからアサシンさんの前髪のことを口にしてみただけで、彼の顔立ちに目を向けている訳ではなかった。普段の武装から推測して、接近戦を得意とするであろう人が自分から視界を悪くするようなことをして大丈夫なのかなと思っただけだ。なんとなく気になったから聞いてみただけ。それ以上でも以下でもなかった。
「俺の渾名知ってる?」
「あだ名もなにも……名前だって教えてもらってないのに」
「浪子、って云うんだけど」
「ローシ?」
「調べてみな?」
 それで。と手元に伏せていた端末を指差される。教えてくれればいいのに。
 漢字の作りをなんとなく教えてもらいながら、内蔵されている国語辞典で検索をかけてみる。さんずいに、良い。と、子供の子。「へー、日本だとナミコって読み方するんですよ」「……女みてぇ」「女の子の名前ですからね」「浪子だよ、ろ、う、し!」食事中にタブレットを弄るとか、行儀が悪いにも程があるけれど、他に誰もいないし。でも、エミヤさんに見つかったら怒られてしまいそう。ちょっとだけ周りを気にかけながら、国語辞典の検索結果に表示された文字を目で追う。浪子。ろうし。
「浪子……、……! 放蕩息子! 放浪者! 不良児! 遊び人!」
「他は!?」
「無いです!」
「はぁ!?」
「アサシンさんは不良って呼ばれてたんですか!?」
「ちっげーし!!」
 不良自慢か何かかと思って声を荒げてしまった。しかし、よくよく聞いてみれば、近からずといえども遠からず、と云った感じで。それから言われるがままに侠客についても調べ、一緒に検索結果を覗き込み、また二人して頭を抱える。「いや間違ってはいねぇんだけど、そうか、んー……、そうか……」アサシンさんは脱力して、椅子の背もたれからだらしなくずり落ちた。口元に寄せたコーヒーカップを傾けて、喉を鳴らしながら、ううん、と困ったように唸る。
 彼の意図しない意味の言葉が出てきてしまったようで、なんだか申し訳なくなる。誤った知識を覚えるわけにもいかないので、国語辞典を閉じながらアサシンさんに視線をやった。
「浪子って、別の意味もあるんですか?」
「ん? うん」
「どんな?」
「色男」
 彼は一度カップから口を離すと、「あと、伊達男とかね。まあ意味は同じだけどさ」と付け足した。
 色男と聞いて、彼を表すにはぴったりの言葉だな、と思った。確かにアサシンさんの顔立ちはとても整っているし、一言で言うなら美青年だ。長い黒髪は常に艶めいていて、歩くたびに揺れるあの髪束には思わず目を奪われる。戦っているときの彼は、きっと踊り子のように華麗に、美しく地上を舞うのだろう。並大抵の女性では到底太刀打ちできないほどの美貌を持っているし、肌だってハリがあって、色白できめ細かくて、本当に羨ましい。なのに、可憐や華奢といった言葉は全くと言って良いほど当てはまらない。白い肌に映える鮮やかな入れ墨は、彼のがっしりとした逞しい肉体を彩っていて……まさしく、絶世の美丈夫だ。
「それでなぁ」
 アサシンさんは軽く首を傾けながら、私の顔を覗き込むようにして話し出すことがある。
 たぶん、そういうところ。人の注目を集める、所謂美人の所作。
「すっげーモテたんだぜ、俺。女にも、男にも」
「アサシンさん、かっこいいですもんね。それから、とびきり美人ですし。中性的な顔立ちというか……」
「……褒めてんの? 貶してんの? 煽ってんの?」
「すごく褒めてますよ! 本当に。アサシンさんって、強くて美人でかっこいいじゃないですか。男女問わずモテるのもわかりますし、一目見たら誰だって惚れちゃいますよ」
 端末を伏せて、またスプーンを手に取る。白く染まったニンジンを掬って、ひょいと口の中に放り込んだ。ちょっと恥ずかしいことを言ってしまったな、と少しだけ頬が熱くなる。
 こんなに完璧なんだから、あとはお遊びで人の首さえ絞めなければ……そんなことを考えながら、ちらりと彼を盗み見る。すると、アサシンさんは一呼吸置いてから、コーヒーを流し込むようにカップを高く傾けた。反り上げた喉からゴクリと一際大きい音が鳴るのが聞こえて、口の中どころか喉までも火傷してしまうのでは、と心配になる。
 アサシンさんはカップから薄い唇を離すと、何かに急かされたみたいに、「まあね」と吐き捨てるように言った。あんなに勢いよく飲んだからか、顔が軽く火照ってしまっている。その表情には妙に色気があって、なんだかいけないものを見ている気分になった。
「お水要りますか」気恥ずかしくなってしまって、余計なお世話を焼いてみる。
「いらない」
「じゃあ、コーヒーおかわり如何ですか。わたしも飲み終わってしまったので、注いできますよ」
「……ん」
 少し赤くなった顔のアサシンさんは、わたしに空になったカップをぶっきらぼうに手渡した。それからガクリと項垂れて、あの長い前髪を弄りまわしていた。
 両手に持ったカップは、二つとも冷えている。これではどちらがどちらのカップが分からなくなってしまいそう。立ち上がりながら、左手に持ったほうがアサシンさんのカップ、と脳裏で何度も繰り返す。すると、前方から一際大きな溜息が聞こえてきた。
「なんですか」
「胸やけ」
「甘いパンばかり食べるからですよ」
 そう言い残して、何故かぐったりとしているアサシンさんに背を向けた。一応、砂糖とミルクは二人分持ってこよう。左手に持ったほうは色男が使ったカップ。右手に持ったほうは、特になんの特徴もない、どこにでもある普通のカップだ。



「……? チビ、おい、ジャック」
「なあに? 後ろ!」
「ん。その前髪どうした」
「えへへ、にあう? おねえさんのヘアピンを貸してもらったの。前髪邪魔そうだからーって」
「……ふーん。良かったな。似合ってるよ。右」
「てい! やったー! えへへ!」

「前髪、別に邪魔じゃないってこの前言ってたじゃないですか」
「でもさぁ、洒落っ気があったほうが、より男に磨きがかかるだろ? 身嗜みには常に気を配ってこそだ」
「でも、わたし、お花の飾りがついてるヘアピンしか持ってませんよ」
「気にしないから。なぁ、一本だけ!」
「もっと早く言ってくれれば……いくつか他の人に貸してしまっていて」
「……他にもあるのかい? ジャックのは……」
「あれは桜の花ですね、可愛いでしょう! アサシンさんには、そうですね、牡丹のやつはけーかさんに貸してしまったので……、あ、もうわたしがいつも使ってるやつしかないです。すみません」
「じゃあそれでいい」
「えっ、汚いですよ、ダメです」
「なんで?」
「人の髪につけるものですし……せめてお手入れしてから」
「なに、潔癖症?」
「いや、そういうのではないんですけど。え、嫌じゃないですか? 皮脂とかついてるかもしれないし」
「誰もそこまで考えて髪留め使わないだろ」
「うー……除菌するので少し待っててください」
「除菌」

「あーっ、おにいさんもおねえさんにヘアピン貸してもらったんだ!」
「おう」
「でも、付け方ってそれでいいの?」
「いーの」
「前と、あんまり変わらないよ? 前見える?」
「いーのいーの。おしゃれって云うんだよ、こういうのは」
「おしゃれ?」
「そうそう。荊軻も百合の髪飾り付けてるだろ? こういうのは、あーやって顔が一番綺麗に見える位置に添えんの」
「……! わたしたちも、おしゃれにして!」
「いいよぉ」
「やったー! おしゃれ!」

「あれ、ジャックちゃん、ヘアピンなくしちゃったの?」
「え? つけてるよ! ここ!」
「本当だ。おしゃれさんだね〜」
「えへへ、おしゃれさん! おにいさんに、おしゃれさんにしてもらったの!」
「おにいさんに?」
「洒落てるだろ?」
「……アサシンさんには、前髪邪魔だからって理由でヘアピン渡したのに……ちゃんと髪留めないと意味ないじゃないですか」
「ねーねー、にあうー?」
「似合うー!」
「俺はー?」
「……んー……」
「んー」
「な、なんだよ、」
「完璧なものに余計な飾りは要らないというか……」
「いらないというかー」
「褒めてんの?」
「すごく褒めてます」
「ほめてまーす!」

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