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 男の指先が女のまるい胸の輪郭にひっそりと触れたとき、彼は人間の肉というものの柔らかさに興奮の長息を吐いた。己の身体には凡そ近い肉質の部位は無く、乳房という一点においても、ここまでの弾力性は見られない上に、その形も全くの別物であった。彼は女の胸の感触に病みつきになったように、むき出しの乳房を捏ねて遊んだ。肉越しに心臓の鼓動を感じることは、彼にとって生命の神秘に触れていることと何も変わらなかった。
 熱せられ、膨張する。赤く染まった薪がパチリと爆ぜる。
 月明かりと複数の松明によって照らされた拠点内は薄明るく、空の暗さを殆ど感じさせない。暗幕に浮かぶ月の位置を見れば大凡の時間帯は分かるものの、夜行性の動物たち以外は既に就寝という行動をとっている。
 焚き火の灯りは二人の男女の肉体に揺らめく明暗を与えた。澄んだ空気を吐息で汚すことに快感を覚える必要はないが、女が吐いた息を吸って食うのは、彼にとって悦楽と心地よさを得られる行為であった。
 ティールブルーの瞳は三つの光を浮かべて輝き、深藍を宿した瞳孔は大きく開かれている。眼前に置かれているすべての事象をその目に収めようとする強欲な双眸である。「ぁう、」押し倒した女の両胸を掴み、その肉感を確かめている。「いやあ、」女が声を上げるたびに男の情欲は膨らんで、静かに暴れ始めた支配欲によって女ヘの触れ方を変えてみせる。
 たくしあげられた衣服からこぼれる胸を、彼は己の手でかき集め、夢中になって揉みしだいていた。張りのある若い肉ではあるが、指の埋まりゆく柔らかさは申し分なく、彼の興味を釘付けにする。

「い、や、っ、アルベド、さん、やめ、て、」
「……ボクは」

 白皙の頬が照らされている。濃くなりかけた陰影が揺らめく。

「ボクはアルベドではないから、やめない」

 手首に絡まる細い指先は震えている。掴んだ胸を揉みしだくたびに声が上がる。「ア、ルベド、さん、じゃ、ない?」女が聞くと、「そうだよ」と男は答えた。

「でも、キミがアルベドだと思えば、アルベドかもしれない」

 胸に触れていた手がゆっくりと女の肌を滑り、白い皮膚を温めながら、指先を絡ませ合う。

「ボクがアルベドであってほしいかい、」

 彼は聞いたが、返事こそ必要なかったのか、女の唇を塞いでしまった。深い口付けの中で入り混じる唾液は粘ついていて、水音が跳ねる音がよく響いた。「ん、」口付けの中にある明確な拒絶も、舌先で感じる甘い肉欲の渦も、ただの通過点に過ぎないものだ。
 暫くして、女の中に自分を押し込めた彼は、粘膜と肉が擦れる本能的な快楽を思い知った。

「あ……、」
「ウ、あ、あッ、……!」

 悲鳴を喉で押し潰している、女の膣口の締まりに唖然とする。執拗な愛撫で濡らされたそこに己を捩じ込み、あとは質量に応じた広がりを得られれば問題なく抽送できる段階へと至った。けれど、彼は自身を深く押し込んで、それ以降動こうとしない。
 ぎちぎちと締まる肉の輪は彼の陰茎の根元を絞るが、周りの柔らかな陰唇の感触に腰の感覚が惑わされる。ただでさえ挿入時の摩擦で敏感な亀頭を肉襞に遊ばれているというのに、迂闊に腰を振れば理性がもたなくなりそうだった。
 既に彼の理性というものはなくなってしまっているかのように思えたが、痛みに震える女の姿を見て、狼狽に明け暮れている。このまま好きに腰を振れば簡単に得られるであろう快楽を前にして、何かを躊躇っていた。
 ふう、ふう、と男が息をする。結合部からは水音が立ち、溢れた粘液を肌で擦る。「うう、」ぐずって唸る女の声を聞くと、心が解けていくような感覚に陥った。
 女に力任せに押し付けていた腰を、ゆっくりと引いていく。蜜に濡れた肉襞に張り詰めた亀頭が何度も引っかかり、女が悶えた。「あ、あ、あ、」困惑の声は間延びしていた。浅いところで止まり、再び肉襞を擦って奥へと到達する。
 熱の中で、彼はぼそりと言った。

「すごい……」

 女から溢れる悲鳴の中で、彼は今までに感じたのことない快楽を受けて腹の奥を熱くさせた。粘膜に走る痛みすら喜ばしかった。彼の理想に至るために必要なすべてがそこにあるように思えたのだ。
 細い腰を掴み、引き寄せようとして、女の肉に己の指が軽く埋まっていく様を眺めている。

「ボクは今、」

 腰を掴んでいた左手がゆっくりと女の腹を滑る。影を落とした臍の、その下のあたりに手のひらを当てて、ゆっくりと撫でさすった。

「ボクなのかもしれない、」

 上気する頬を押さえようともせず、泣き腫らした女の瞼のあたりを眺めている。
 胸の裏側を打つ激しい心臓の鼓動は彼だけのものだった。彼だけが、生命のゆりかごに一番近い場所にいた。

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