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「アルハイゼンさん」
「うん?」
「来週末とかって、空いてますか」
「特に予定はないよ」
「……一緒に、ズバイルシアターに行きませんか。『フィマチカの末裔』を、ニィロウが演じるんです。チケットも、ちょうど二枚あって。もらったものですけど……」
「いいのか?」
「え?」
「俺よりも、理解のある友人と共に観劇に行ったほうが君も有意義な時間を過ごせるだろう」
「……でも、アルハイゼンさんと一緒に観に行きたいんです」
「俺と?」
「はい。……一緒に」
「……わかった。開演時間は」
「朝の十時からです」
「うん、問題ない」
「(アルハイゼンさんと一緒に来てって言われちゃったし、ニィロウとの約束だから……ニィロウとの約束、破りたくない……)」


「へえ! やるじゃないか、アルハイゼン! それってデートのお誘いだよ!」
「俺は観劇に付き添うだけだ」
「だからそれがデートなんだよ。しかも彼女のほうからチケットを用意してくれたんだろ」
「譲ってもらったものだと」
「そんなの言い訳だよ。君をデートに誘うためのね」
「……彼女がそんなことをするとは考え難い。関係者に誘われたんだろう」
「考えが改まったんだよ。君となら一緒にシアターに行ってもいいって思えるような関係になったんだ。彼女が自分のテリトリーでもあるズバイルシアターに君を招き入れたがるとは思えないだろ」
「……」
「事実だろ」
「……」
「まさか君がデートに誘われる側になるとはね、いつも誘って断られてばかりだった分嬉しいんじゃない?」
「言うほど断られてばかりではないさ」
「買い出しはデートじゃないよ」
「インテリアショップで家具を選び合ったこともある」
「お互いの?」
「ああ」
「君が買ってあげた家具は彼女の家で使われているのかい?」
「見たことはないが、恐らく使われているだろう」
「はあ?」
「手頃なランプシェードを選んだんだが、寝室に置いてあるそうだ。俺はあれから彼女の部屋に入っていないから、実際に使用されているかは分からない」
「使い心地とか、感想的なものも聞いてないわけだ」
「不満があれば俺に言うだろう。何も無いということは、満足しているということだ」
「実際にそのランプシェードが彼女の部屋に置かれてなかったら?」
「……何が言いたい?」
「ムカつくかい?」
「君の態度にな」
「彼女にはムカつかないんだね」
「当然だろう。実際に使われていなくとも、俺は構わない」
「売られてたらどうする?」
「また新しいものを買って贈るさ。それを彼女が気に入るまで続ければいい」
「……君、ずいぶん変わったね」
「俺は普段通りだが」
「そうか、彼女に対してはずっとそうなんだ。大切にしてるんだね」
「……ああ」
「じゃあコーヒーのおかわりをもらおうかな」
「……」
「冗談だよ」
「俺は彼女が欲しがる物を買うことで、同時に彼女から信用されるきっかけを作っているに過ぎない。そもそも俺は彼女に信用されていない。未だに裏があるんじゃないかと思わせてしまっている」
「ふうん?」
「俺が自分の意思で買っているものだから、既にそこで取引は終わっている。もっと言えば、俺の行動が彼女からの信用に結びつく必要もないんだ」
「一生信用してもらえなくても? 信用を買っているのに?」
「俺が買っているものは『店の商品』だ。『彼女からの信用』は、俺がいくら金を積んでも買えるものじゃない。俺が手を出せるのは『信用に繋がるきっかけ』までだ」
「物ばっかり買ってるから進展が遅いんじゃない。物で釣ってるように見えるかもしれないよ。君にその気がなくてもだ」
「……、」
「君が欲しいものを彼女に提案したところで意味はないしね。……」
「なんだ」
「彼女から何か欲しがられたとき、断ったことはある?」
「ああ」
「代わりのものを渡したことは?」
「常に用意している」
「それかもね。重荷になってるかもよ。どうせ君のことだから、要らないって言われても受け取らせているんだろうし」
「……」
「図星だろ」
「……良くないのか」
「僕は良くないとは思わないけど、彼女はどうか分からない。コーヒーのおかわりを頼んでもいい?」
「構わない」
「彼女にコーヒーのおかわりを求められたことは?」
「……ないな」
「それも一つの答えじゃない?」
「彼女は紅茶派だ」
「そうじゃないよ、バカ。……紅茶なら?」
「ないな」
「……そう」
「彼女は俺が淹れた選りすぐりのものを自宅でたっぷり飲んでいる」
「今日僕が君の相談を聞く必要ってあった?」
「ああ。参考になる」
「……それならいいけどね」


「今日は、公演が終わったらすぐに家に帰りたいです」
「……体調が悪いのか」
「いえ、暫くシアターにも行っていなかったので、久しぶりにあそこに行ってステージを見たら、きっと頭が追いつかないから……」
「すぐに帰ると言っても、公演が終わったらニィロウに挨拶に行くんだろう」
「はい。そのときは、アルハイゼンさんも一緒に来てくださいね」
「え?」
「はい?」
「俺は外で待つよ。部外者がいては話しにくいだろう。それに、俺がいると君が白い目で見られるかもしれない」
「アルハイゼンさんと一緒に行かないと意味がないんです」
「……、」
「ダメですか?」
「いや、構わない……」
「行きたくないですか?」
「違う、本当に、俺でいいのか」
「アルハイゼンさんじゃないとだめなんです」
「……そうか、」
「はい」

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