SSS | ナノ


(ヘイト作品ではありません)
(キャラ改悪に近い表現があります)
(どこかの剪定事象先、並行世界のぐだおくんです)
(独自の解釈多めなヤンデレ・メンヘラ複合型のぐだおくんです)
(「藤丸」呼びをしています)
(嘔吐描写があります)
(人理修復済みで、少しだけ終章のネタバレがあります。1.5部のネタバレはありません)
(匂わす程度ですが多少性的な表現があります)
(夢主出てきません)





 ダ・ヴィンチちゃん。
 オレがこれからあなたに話すことは、懺悔でもなんでもないんだ。赦してほしいことなんか何一つないし、許されることだとも思ってない。でも、オレのやってきたことがすべて正しいとも思わない。開き直ってるように聞こえるかもしれない。というか、たぶん、そうなんだ。
 ただの独り言みたいになっちゃうと思う。話にまとまりもないし、この話をダ・ヴィンチちゃんにしたところで、オレが改心することもきっと無いと思うよ。うん。改心。心を入れ替える気は本当に無いし、それを踏まえた上でこれからもずっと続けていこうと思ってることがある。だから、告解にはならないんだ。
 ……それなら、いいんだけど。
 ああ、じゃあ、ええと。何から話せばいいんだろう。誰にも話すことはないと思ってたから、うまくまとめられないや。ううん、簡単にまとまるような話じゃないんだ。上手に話せなかったらごめんね、ダ・ヴィンチちゃん。
 なまえさんって知ってる? ほら、解析班の……。うん、あの人。
 オレ、なまえさんのことが好きなんだ。
 大好きなんだ。オレ、なまえさんのこと。本当に好きなんだ。
 なまえさんの、ぜんぶが好きなんだ。顔も、声も、呼吸や瞬きの仕方も、あの立ち姿も、振り返ったときの表情も。オレのことを愛してくれるところも、オレに何もかもを合わせてくれるところも、全部、ぜんぶ、大好きなんだ。
 オレ、なまえさんのこと、頭がおかしくなるくらい好きなんだ。きっと死ぬまで好きだ。ううん、死んだって好きなままだ。なまえさんもオレのこと好きって言ってくれたし、相思相愛なんだよ。本当。本当だよ? なまえさんがオレのこと嫌いなわけないよ。だってオレ、なまえさんの恋人だもん。恋人。ふ、はは、ははは! ……嬉しくってもう、涙出そう。
 はじめてなまえさんのことを好きになったとき、オレ、吐いてたんだ。確か、オルレアンの定礎復元を達成した、その日の夜。情けないし、誰にも見られたくなかったから、スタッフさんたちの誰もが使わないような、遠いところのトイレで吐いてた。もちろん男子トイレ。レモンの芳香剤の匂いが、鼻にこびり付いた煤のにおいと死臭を掻き消してくれて、ちょうど良かったから。
 レイシフト後に吐くのは初めてじゃなかったよ。それまでにも何回か吐いてたし。あれ、初めて聞いた? うん。だってオレ、誰にも言ってなかったから。悟られないようにやってきたんだ。人類最後のマスターがそんなのじゃ、みんな心配するでしょ。なまえさんはずっと前から知ってるけどね。ふふ。ははは……。
 ……だからその日も吐いてた。今ほどカルデアにサーヴァントが居たわけじゃなかったし、夜中だったから、周りには誰もいないと思ってた。なのに、なまえさん、オレの嗚咽を聞いて……たぶん廊下に声が漏れてたんだと思うんだけど。あのときは失敗したなって思ったな……、なまえさん、藤丸くんって叫びながら、ドアを壊す勢いで男子トイレに入ってきたんだ。
 オレも最初はすごく吃驚した。女の人が男子トイレになんか絶対入ってくる訳ないって思ってた。それはいいんだよ。なまえさんはオレを心配して来てくれたんだから。ああ、そのあとも、大丈夫、力んでただけですよって、わりと明るい元気な声を個室の扉にぶつけたのに。人を呼ばれる前に適当に口拭って、普段通りの顔で出ていこうって決めてた。なのに!
 あの人、「藤丸くん!」って、すごくきれいな、泣きそうな声で、オレを扉越しに怒鳴りつけたんだ。嘘吐かないで、って続けたころには、なまえさん、泣いちゃってたのかな。個室のドアを開けたとき、なまえさんはどちらかと云えば怒ったような顔をしていたと思うんだけど。声だけは、確かに震えてた。
 嬉しかった。一気に頭がのぼせた。脳みそ蕩けそうだったよ。なまえさん、きっとオレのことが好きだから、あんなところまで駆けつけてきてくれたんだ。絶対にそうだよ。だって、どうでもいいやつのことなんか、普通心配しないでしょ。探し回ったりするもんか。抱きとめてくれたりなんか、絶対にしてくれない。
 なまえさん、ちょっと焼死体とか瓦礫の山とか見たくらいで気分悪くなって、その日の夜にまとめて吐いちゃうような……オレみたいなやつの背中を優しくさすってくれたんだ。気付かなくてごめんねって、藤丸くんにぜんぶ一人で背負わせてごめんねって、オレの背中さすりながら何回も謝ってくれた。人理修復は人類最後のマスターであるオレの役目だから、謝られた内容とかはどれもこれもわりとどうでもよかったし、そこまで考えてなかったけど。なまえさんは悪くないのに、ずっとずっと謝ってくれて。オレが落ち着くまで、ずっと一緒にいてくれるって言ってた。抱きしめ返して、本当ですかって聞いたら、うん、って。ずっと一緒にいるよって。
 オレはね、そのときほど、人類最後のマスターで良かったって思ったことはないんだよ。
 口の中、酸っぱくなってきちゃったな。ううん。大丈夫。なまえさんに恋したときの味だから、その日から結構好きな味なんだ。
 それから吐くたびになまえさんのことを思い出すようになった。吐くたびになまえさんのことを好きになった。それもいつしかやめちゃったけど。オレの傍になまえさんがいてくれたから、吐くのやめたんだ。吐いてる時間も、もったいないし……たまに構ってもらいたいときに吐くくらいかな。ああ、手にタコ出来ないように気をつけてるから大丈夫だよ。
 なまえさんの掌の感触を思い出すとゾクゾクする。だって、なまえさんがオレの背中に触ってくれてる。吐くときも、抱きしめてくれるときも。なまえさんが触りたくて触ってるんだ。オレのことが心配だから。オレのことが、好きだから。
 オレは人類最後のマスターなんだから、人理修復のために生きなきゃいけない人間だから。メンタルのケアもちゃんとしないといけないんだって。オレ、メンタルはそこまで弱いほうじゃないし、大抵のことは寝たり吐いたりすれば治るからさ、誰かにケアしてもらう必要とかも特に無かったんだけど……落ち込んでるフリすると、なまえさんが慰めてくれるんだ。ぎゅって抱きしめて、話聞いてくれるんだ。寂しいって言うと、ずっと一緒にいてくれる。辛いって言うと、ごめんねって言いながら背中をさすってくれる。なまえさんに会えない時間が一番辛くて寂しいけど、時々めいっぱい甘やかしてもらえるから、オレ、頑張れるんだ。なまえさんが隣にいるだけで、不思議と勇気が湧いてくる。根拠も何もないけど、強くなった気さえした。
 だから頑張れた。守られて、支えられて、癒されて、救われたから。何もそれをしてくれたのはなまえさんだけじゃないけど、なまえさんはオレに必要だったものをぜんぶ満遍なく与えてくれた。実際にオレを強くしてくれたのは、スタッフの人たちやサーヴァントのみんなだよ。でも、オレの折れそうな心の根元を支え続けてくれたのは、やっぱりなまえさんだったんだ。
 オレが生きていさえすれば、世界は救われる。だから、なまえさんはオレを生かさないといけない。死にたいですって言うと、なまえさんは絶対に引き留めてくれる。そんなこと言わないでって、オレのこと抱きしめてくれる。オレのことが好きだから。オレのことを、純粋に愛してくれているからだよね。
 終局特異点に行く前に、なまえさんと一緒に思い出づくりもした。あの短時間で一体何が出来るかを考えたら、もうそれしかないって思った。……最高だった。嬉しかったし、楽しかったし、なにより気持ちよかった。死んだらこんな思いは二度と出来ないんだって考えたら、絶対に生きて帰ってこなきゃって思った。もしかしたらオレ、父親になるかもしれないわけだし。
 ……で、最後の最後でちょっと死にかけて、あんなに死にたくないって思ってたけど、そのときばかりは、別にここで死んでもいいかなって思ったんだ。オレが死んでも世界が救われるなら、無かったこと自体が無かったことになって、それで、なまえさんが生き続けてくれるなら、別にいいかなって。はは、流石に覚悟したなぁ。
 でもね、神様はオレを見放さなかったんだ。これって、オレのしてきたことは間違ってなかったってことでしょ。神様はオレの行いをすべて見ていたうえで、こんなオレでも生きているべきだって、これからも存在することを赦してくれたってことでしょ。
 ……マシュ? マシュはオレの、世界で一番大切な人だよ。あのね、ダ・ヴィンチちゃん。マシュはオレにとって、本当に大切な存在なんだ。あのとき、マシュはオレに好きになってもらいたかったから、オレに手を伸ばしたんじゃないんだよ。あのとき、オレはマシュに好きになってもらいたかったから、あの子の手を強く握ったわけじゃないんだ。マシュはオレの光なんだ。希望なんだ。信仰を捧げるに値する神様みたいな人なんだ。そして、誰よりも大切な、本物の。至って普通の、女の子なんだから。
 マシュはオレを全身全霊で守ってくれた。背中を押してくれた。希望を与えてくれた。オレを生かしてくれた。
 なまえさんはオレの形を留めておいてくれた。背中を支えてくれた。絶望を拭ってくれた。オレを死から遠ざけてくれた。それだけ。それだけなんだ。
 世界を救った人類最後のマスターがこんなので幻滅した? ごめん。オレ、やっぱり普通の人間だったよ。
 なまえさんは、オレの言うことはなんでも聞いてくれるんだ。それって、なまえさんがオレのことを好きだからだよね。人類最後のマスターがオレじゃなくても、なまえさんはオレのことを好きになってくれてたよ。絶対。絶対そうだよ。あは、だってなまえさん、オレのこと好きって言ってくれたし。大好きだって。愛してるって言ってた。なまえさんはオレに嘘吐かないから、絶対に本当だよ。うん。確かに、なまえさんじゃなくても良かったかもしれない。だけど、あのとき、オレの心が人生で一番脆くなってたとき。オレを救ってくれたのは、この世界でなまえさんだけだったから。運命って感じしない? もしかしてなまえさん、狙ってやってたのかな。やっぱりなまえさん、オレのことずっと前から好きだったんだ。そうだよ。きっとそうだ。じゃなきゃ、オレはこんなにもなまえさんのことを好きになる訳がないもの。
 だからさ、ダ・ヴィンチちゃん。ここから出して。オレ、なまえさんに会いに行かなきゃ。今頃なまえさん、オレがいなくて寂しがってると思うんだ。もう二日も会ってない。気が狂いそうだよ。あは、あはは、そうかもしれない。不屈の精神を持った、それこそ完璧な人間が。人類を救済してくれれば良かったのにね。世界中から集められた選りすぐりの英傑たちの誰かが、人類最後のマスターに選ばれていれば良かったのに。でも、神様が選んだのは、オレだったんだよね。どうしてだろう。どうして。
 なまえさんも、オレなんかに自分の未来託して、こんな普通の人間を、周りに言われるがままに誉めそやして、何もかも投げ捨てて、オレのご機嫌取るために一生懸命になっちゃって。可哀想な人だなあ。かわいそう。だから、今度はオレが慰めてあげなきゃ。たくさんたくさん、なぐさめてあげないと。
 はあ?
 狂わないわけない、壊れないわけないよ。オレの心は鋼鉄でできてなんかいないんだ。オレはやっぱり、どこまでも普通の人だったんだよ。寧ろ、どうして壊れないと思ったの。結局、みんなの言う普通って、どんなに悲惨で過酷な時を過ごしても、心が壊れたり腐ったりしない、完璧な人間のことだったの。オレは今、なまえさんの手の中で、辛うじて人の形を保っているに過ぎないのに。ああ、その点では、まだオレは壊れきっていないね。壊れ続けてる。
 もうこれ以上オレを壊さないでよ。オレからなまえさんを奪わないで。せっかく存続させた世界を、オレから取り上げようとしないでよ。
 なまえさんに会わせて。今すぐ。あなたの中に少しでも良心が残っているのなら。こんなオレに同情してくれるって言うのなら、オレをなまえさんのところに行かせてよ。じゃなきゃ、こんな世界、…………ありがとう。ありがとう。ありがとう。そうなんだ。なまえさんもオレに会いたいって。そうなんだぁ。ふふ、ふふふ、そうかぁ……。
 オレも会いたいですって伝えておいて欲しいな。あは、あはは、嬉しいな、嬉しいな! なまえさん、やっぱりオレのこと好きなんだ。そうだよね、なまえさんはオレのことが好き。それだけは絶対に変わらない。嬉しいなぁ。あは、あははは。オレ、この世界を救えて、またこの世界で生きられて。本当に良かったって、心の底からそう思うよ。

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