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#仙輝暗転の番外編



「鍾離さんの目って、すごく綺麗ですね」

 彼女の無垢な瞳が、鍾離の丸いまなこを見据えた。その真っ直ぐな視線は、鍾離の脳髄の奥まで深く突き刺さり、一瞬にして彼の思考を麻痺させた。
 決して鋭くはない視線だ。それは春の日照ほどに柔らかく、灯篭の光ほどに朧げである。鍾離と云う男の心を融かす柔らかな微笑みが、今、彼だけのものになっている。

「……、君の瞳も、その、とても綺麗だ。月並みな言葉かもしれないが、俺の目には非常に……魅力的に映っている」

 指先にまで響き渡る甘い痺れを感じながら、鍾離は己の本心を吐露した。
 目が離せない。離したくない。彼女をずっと見つめていたい、見つめられていたい。
 自分は何年でもその瞳と向き合う覚悟があると云うのに、ふと、彼女の瞳が薄い瞼に隠された。

「あはは、今まで何人の女性にそんなこと言ってきたんですか」

 困った顔で笑い、静かに茶器を己の唇につけている。彼女の頬を撫でる湯気にすら悋気の念を向けている鍾離は、「君こそ、誰にでもそんなことを言っているんじゃないだろうな」と声を低くして女の様子を伺った。

 しかし、彼女は微笑みを絶やさずゆるやかに睫毛を震わせる。

「言わないですよ。本当に、綺麗だなって思ってます。台座に乗せて、部屋に飾っておきたいくらい」

 鍾離の胸が、瞬く間に熱くなった。この場で目玉を取り出して差し出したら、彼女は喜んでくれるだろうか。体液で湿った眼球を愛おしそうに眺める彼女を想像して、鍾離は少しだけ頬を赤らめた。
 ただ、この二つの眼がなければ、彼女をこうやって見つめることもできなくなってしまう。彼女との距離すらも測れなくなって、終いには、狭くなった視界の外に彼女を置いてきてしまうことになってしまうかもしれない。
 この眼球は、もう少しだけ自分の眼孔に嵌め込んでおこう。彼は、今度自分の瞳の色と良く似た石珀を探しておこうと心に決めながら、桃色に染まる彼女の指先を眺めた。

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