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 赤と白の間に引かれた黒い線、その真ん中にある白のスイッチが点滅するのをやめた。球体であるそれは二度と揺らぐことなく、何の音も発さずに、地面の上に静かに転がっている。
 ぶわ、と全身の毛が逆立った。身体が燃える、おなかの奥から興奮が沸き立つ。吹いた風に顔を冷やされて、やっと、「つ、」喉から言葉が押し出されてくる。

「つ、つかまえたつかまえた! 図鑑最後の一匹!!」

 ポケットからロトムが飛び出てきて、即座に図鑑を起動した。図鑑の中で唯一捕獲マークの付いていない、最後のポケモンの項目を埋め始める。ガラル地方に生息するポケモン四百匹、そのすべてを私は見つけ、捕獲したことを意味する。

「つかまえた!!」

 大人しくなったボールを拾い上げ、後方へと一目散に駆ける。向かう先は、少し慌てて両腕を広げてくれているなまえさんの胸の中!「わ、」「やった、つかまえた、最後の一匹! やった、やった!」嬉しくてめちゃめちゃな言葉しか出てこない私を強く、優しく抱きしめてくれるなまえさんは、何も言うことなく、私のことを震える腕で引き寄せた。
 私は途端に不安になった。迷惑だったかな。ごめんなさいと謝りながら離れようとしたけれど、なまえさんはそれすら許してくれない。
 ポケモンを捕まえて直情的に嬉しがるなんて、子供っぽかったかな、引かれたかな。ただ、私は、やったねって、図鑑完成おめでとうって言って欲しかっただけ、なのだけれど、それが良くなかったのかな。震えたままのなまえさんの声をよく聞いてみると、なんだか、笑って、る?「ふふ、なんだか、わたしがユウリちゃんに、ゲットされちゃったみたいだなーってね、思ったの」つかまえた、最後の一匹、と彼女の前でまくしたてたことを思い出す。
 言われてみれば、そう言う風に聞こえてしまってもおかしくなかったかもしれない。血の巡りが良くなったのか、顔が熱くなる。急に恥ずかしくなった私をよそに、なまえさんはもう一回私を抱きしめて、「図鑑完成おめでとう、ユウリちゃん」と、私を抱き上げた。

「なまえさん! あ、あの、」

 なまえさんと密着した上に、地面から足が離れて身動きが取れない! 暴れたら落ちるかもしれないし、とにかくなまえさんの負荷にならないように彼女の背中を抱きしめる。「おめでとー、おめでとー!」私よりも大きな声で喜んでくれるなまえさん。少しだけ飛び跳ねながらくるくる回るなまえさん。バランスを崩して草むらに背中から落ちるなまえさん。「ぎゃっ」「わ、なまえさん、」「大丈夫! あはは! ユウリちゃん、おめでとう、おめでとー!」私の落とした影に濡れて、みどりの葉っぱにまみれながら笑ってくれるなまえさん!
 やっぱり、私、なまえさんのことが、だいすきだ!

「なに、ユウリちゃん泣いてるの!? いたかった!?」
「泣いてない! なまえさんのほうが、背中痛かったでしょう!」
「いや泣いてるよ! 今ハンカチ出すからね、ティッシュのほうがいいかな!?」

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