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 小さくて、弱くて、少しでも乱暴に扱ったら壊れてしまう。肉の器から解放された剥き身の魂、およそ冥界以外の場処では風が吹いただけでも消し飛んでしまうほど酷く脆い存在があの子。私の加護が無ければこの現世で形すら保てない無力で脆弱なたましい。六角柱の鉄籠の中に閉じ込めて、三重は結界を張っていた。私が戦闘に出た際も、絶対にあの子に被害がいかないように。けれどだめだった。今考えれば置いていくべきだった。それでも、肌身離さず持ち歩いていたかったの。だって私はあの子の主人なのだもの。威厳を見せなくてはと躍起になっていたばかりか、防御が間に合わずに敵の攻撃が結界を貫通、念には念を入れて魂の周りを軽く結界でくるんでいたから最悪の結果は免れたけれど、もし何もしていなかったら、今頃。

「それほどまでに大事なものであるならば、その檻に何重にも鍵をかけておくべきだろう。決してそこから溢れ出ぬように、まず一方からの出入りを認めぬようにすべきだ」

 賢王と呼ばれた男は臆すことなく私を責めた。黒い影が揺れ、声がいばらのようになる。地に座り込んだままの私を、仁王立ちのまま叱咤していた。側に刺してある槍檻を取って牽制してやっても良かったのだけれど、今は籠を作り直すほうが先だった。
 彼の場合は外側からの侵入を許さない作りをしていて、もし王の財宝展開時に手違いがあったとしても、決して宝器を射出することはない。彼の“大事なもの”を、絶対に外に出さない為に。
 そう、次こそは、絶対に。二度と零さないように。金輪際、外に漏れ出ないように。材質は出来る限り最良で、強靭で、至高のものを。格子の内側の中には丹念に術式を練りこんで、外側からも内側からも、私の許可なしでは決して出られないように細工をして。「ご忠告痛み入るわ」せめて、この子だけは。

「もう、にがさないから」

 目を離すことも、手離すことも赦さない。私が私にかける、唯一の枷。「え、レシュきがルさま、」なまえはまだ、私の檻の中にいる。その事実が、やはり、どうしても嬉しくて、「さあ出来たわ。入りなさい」「……はい、」か細くて儚いこの子の熱を、決して失うことのないように。静かに、檻の扉を閉める。あとは腰の装具に下げて、外套で隠してしまえば良いだけ。
 ふと前方を見ると、紅い目の男がまだ私のことを見ていた。「……何かしら」こちらも視線を鋭くすれば、男は呆れたように目を伏せて、いいや、と何かを否定する。「この子が欲しいの?」「まさか。間に合っている」つまらない問答。「ただ――」どんな解釈をしても、不必要な対話のように思えた。「閉じ込めるだけではなく、たまには外に出してやると良い」そう言って、男は不敵に笑った。
 ああ、本当に。
 不快だわ。

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