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 ころん、と手の中に何かが転がってきた。リンボさまはわたしに向かって「命ですよ」と優しい声で言った。笑っているような声だった。

(なんだろう……あったかい……! ねこの……赤ちゃんかな? 犬の……? かな……)

 毛が生えたような感じはなく、つるんとしていて、少しだけ湿っぽい。

(とくんとくんって、脈うってる……! すごい……! かわいい……)

 ほおずりをするのはこわいから出来なかったけれど、わたしの手の中で、その子は確かに心臓を動かしていた。
 輪郭はぼんやりとしていて、なんとなく、桃色に近いということは分かった。それが本当に桃色なのかは判別はつかないけれど、何か、赤みを帯びた小さなものが、手のひらの上で動いている。
 脈打つ温もりというのは、かくも愛おしい。

「少し野暮用があるもので、外に出ます。ああ、それは暫くおまえに預けますので、殺さぬように」

 そう、言われた筈が。
 暫くして、わたしの手の中にあった“たま”――勝手ながら、名前をつけた――は、動かなくなってしまった。
 戻りましたよ、との声を聞いて、リンボさまがお帰りになったことを知る。

「り、りんぼ、さま」
「何か」
「あの、この子、動かなくなっ、て、しまって」
「おや。おやおやおや。なんと……このような畜生の世話も出来ぬとは」
「ごめんなさい、ごめんなさい……うう……」

 リンボさまはわたしの手のひらから“たま”を拾い上げると、天に掲げ上を向いて……それから、何をしたのか。わたしの目では読み取ることが出来なかった。手のひらが降りたころ、リンボさまは何も持ってはおらず、虚空をなでているように見えた。“たま”を持っていた手のひらに、じっと焦点を合わせてみても、なにも見えはしない。リンボさまは背がお高いから、その頭部のあたりで何かされても、わたしにはよく見えない。きっとどこかへ隠してしまったんだ。わたしがいのちをきちんと扱えなかったから……。

「たま……」
「たま?」
「あの子の、名前です」
「たま」

 リンボさまが復唱する。そして、笑う。

「ほぉ……たまですか。くふッ! ええ、たま、ですよ。あれは。タマ。たま……」

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