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 新しい、幸福の匂いがする。初めて吸い込むそれの匂いに、オレは意識を甘やかに溶かされて、肺の中いっぱいに詰められた多幸感に溺れていた。愛しいなまえが腕の中でいじらしく暴れようとして、それが本当に可愛くて、また抱き寄せてしまう。
 なまえは恥ずかしいのか、時折オレの胸をぐいと押したり、腰をくねらせたりして、オレの気を引こうとする。「ダンデ、」名をひとつ呼ばれただけで、胸のあたりがひどく熱くなった。オレはそれに応えるために、少し強引にキスをして、己のにやける口元を隠した。
 薄皮に包まれた唇を味わいながら、また軽く腰を揺らす。愛液でたっぷりと濡れそぼったそこは、既にオレの形を覚え始めてきているようで、剛直と化したそれを何度も締め付けた。内側にある襞一枚一枚を蠕動させ、奥に引き込もうとするいやらしい肉の洞。それで、自身を扱くのがたまらない。気持ち良くて、なまえに許されたことが嬉しくて、涙がこぼれそうなほど、幸せだ。

「っ、あ、ダン、っ、デ、え」
「なんだ、なまえ、っ、」

 頬も、耳も、首筋も、肩も、鎖骨も、むねも、目に付くところすべてに唇を落として、吸着音を立てる。肌を重ねて熱を押し付けて、愛しい人の内側に自分のそれを擦りつける。
 なまえが、本当に、オレのお嫁さんになってくれるなんて。望んでいたことだ、ずっとそうなればいいと思っていた。もう、これで、なまえは一生オレから離れられない。オレに縋って生きていくしかない。身体の奥からぐつぐつと感情が煮えていくのを感じて、目を細める。

「好きだ、なまえ……っ、好きだ、ぁ、好きだ……っ!」
「あ¨っ、ッ! う¨、あ¨っ、あ¨っ!」
「ッ……! っ、ふ、ゥ……っ、なまえ、好きだって、言ってくれ、好きって言ってくれっ、」
「ぎ……っ! あ¨、すき、好きっ! 好きっ……!」
「っ! なまえ……っ!」

 なまえの身体を揺さぶった分だけ、上擦った声が聞こえてくる。吐息で濡れた呼吸が肌を湿らせる。煽情的な色をたっぷり含んだ表情で、彼女はオレの情欲を煽る。「う、う、っ」鼻から抜けるなまえの声は未だに刺激的で、何度聞いても下腹に響いて仕方がない。強引に腰を打ち付けて声を出させて、内側を締めさせるのがたまらなく心地良い。
 奥の、少し右あたりを突くと、「ッ、ぅああ、っ!」大きな嬌声と共に、膣内がさらにきつく締まる。雁裏に絡みつく淫猥な襞をめくり返しながら、今も尚満たされぬ独占欲に頭の中を支配される。
 中に出したい。なまえの中に、オレの精をぶちまけたい。種を付けて、オレ以外の選択肢を取れないようにしてやりたい。きみの相手はオレだけなんだと認めさせたい。こんな強欲なところも、願わくば、愛して欲しい。「なまえっ、ぐ、ううっ、はあ、もう……ッだめだ、……っ、イく、イくぞッ、なまえ……っ!」「な、なんでっ、えっ、なん、」「うあ、あ、イくっ、なまえ、出す、出す……ッ、」狼狽える細い腕を掴み、指先を絡めた手をきつく握りしめる。腰を激しく振って、「なまえ……っ、あああ……っ!」小さな身体を乱暴に、何度も突き揺らした。
 オレのものだ、なまえはオレのものだ。他のやつがきみに向けて吐く愛の言葉なんか全て嘘だ、信じる価値もない戯言だ。オレの言葉だけが本当なんだ、この気持ちだって、本物でしかない。
 きみが欲しがるものならなんだって用意する。そうだ、オレの今後の人生のすべてをきみに贈ろう。だから、オレだけを欲しがって、オレだけを好きになってくれ。オレは、きみのことを、一生をかけて愛したいだけなんだ。
 拒絶の言葉は、照れ隠しのひとつであるとすることにした。オレが彼女を愛している音と、泣き声の混じった嬌声と、乱れた呼吸音だけが鼓膜の裏を支配して、あまりの幸福の密度に、意識が飛びそうになる。果ての直前を感じ、奥歯を噛んでなまえの行き止まりを無我夢中で突き回した。「う、ぅう、う¨、いや、い¨やあッ、いや¨ぁあッ!」「ああああっ……!」びくびくと跳ねる竿を深くなまえの中に埋め、彼女の矮躯を抱きとめる。

「っ、――――……っ!! お¨ッ、お¨ォおお……っ! あ¨……ッ!!」

 彼女を包む肉を掻き抱きながら、なまえの最奥に向かって劣情の汁を注ぎ込む。快楽の波に乗って吐き出される、おびただしい量の精。オレがなまえに向けて抱いているすべての欲望の、成れの果てだ。
 なまえの中を、これでいっぱいにしたい。なまえの内側も外側も、心も、身体も、ぜんぶ、オレのものにしたい。その一心で、彼女のそこにぬるい白濁を詰めた。精漿に子種を混ぜたものが、なまえの中にどくどくと注がれる。

「なまえ……っ、あ¨……っ! ぐ、う¨うぅ……っ! なまえっ、なまえ……っ! あ¨ぁ……っ!」
「……、あ……、あ、……っ、」

 強烈な快楽が続く。それは断続的にオレを襲い、頭の中を強制的に真っ白にさせた。そうして、ゆっくりと思考の水面に、ひとつの泡が浮上する。
 オレは今、なまえに種を付けているんだ。なまえの中に射精して、彼女が自分のつがいであることを身を以て証明しようとしている。
 興奮した。全身の震えが止まらない。視界が明滅する。なまえの身体はそこを何度もいやらしく収縮させて、オレの精液を逃さまいと膣口をきつく締め上げる。「っ、や¨、…………っ」気持ち良い、熱い、射精が止まっても、ずっとこうしていたいくらいに。気持ちが、良い。
 腰を押し付けているからか、矮躯に随分と負荷をかけてしまっているようで、なまえが小さく潰れた悲鳴を上げた。それを気にも留めず、精液でぬかるんだ膣道を軽く前後する。オレを引き込もうとするいじらしい肉襞の隙間に、白濁を余すところなく滑り込ませた。
 そして、上体を起こす。淡い期待を胸に静かに腰を引いた瞬間、ごぽ、と音を立てて、それは溢れ出した。桃色に染まった肉の割れ目から、粘ついた白い体液がとめどなくこぼれてくる。奥から押し出されてくる種汁は、オレがなまえに向けて出したもので、間違いない。脚を押さえつけ、火照った肢体を眺める。
 オレが、頭の中で思い描いてきた、理想のなまえの姿だ。

「う……ぁ、あ……」

 ひく、ひく、と身体を跳ねさせている、オレの大好きな人。充血した肉穴から精子をこぼれさせ、それを身体に染み込ませるためにじっとしている。
 オレがなまえを愛した証だ。そして、なまえがそれを受け入れてくれた証だ。「っ、ぁあっ、」少しばかり下品な音を立てて、可愛らしい声と共に、そこから精液が押し出されてくる。興奮のあまり、出しすぎてしまったか。穴から白濁をひり出す感覚に震えている姿もかわいい。
 
「っ、……けっこ、ん、するって……言った、……」
「……! ああ……! 結婚しよう、なまえ……」

 ぼんやりとした表情で言質を取ろうとするなまえに向かって、笑顔でそう答える。本当に嬉しくて、先程から頬が緩んで仕方ない。うれしい。本当に、なまえはオレのことを認めてくれた。オレの気持ちを、許してくれたんだ。肉体から湧き出る多幸感に支配されて、また、オレの竿は頭を持ち上げる。濡れた先端をなまえの腹に擦り付けて、軽く腰を揺らす。

「……、…………」

 黙り込むなまえの濡れた唇が光っている。それに吸いつくために顔を寄せると、ふと、なまえは瞼を閉じて、オレの口付けを待った。瞼の端から流れた涙を優しく拭えば、なめらかな眉間に皺が寄って、首を軽くねじらせる。
 そんなに恥ずかしがることはないのに、きみはいつだってオレの胸をときめかせて、めちゃくちゃにして、狂わせて、ああでも、これが永遠に続けばいいと思ってしまうのは、きっと。オレの中の最後の杯が、もう二度と空になることはないと証明してくれているからだ。
 小さな頬を両手で包み込んで、深い口付けをする。満たされた杯の中身は、幸福の味がした。
 その幸福の中で、オレはまだ、溺れていたいと願ってしまう。

「はあ、なまえ、っ……ぁあ、入れるよ……っ!」
「……ッ!? ま、ッ、――……っ! あ¨……っ!」
「なまえ、うう、ああ、あぁあ……っ!」

 唇を離すや否や、オレはなまえの足を開かせて、自身の精液でぐちゃぐちゃになったそこに、また己を押し込めた。何度も名前を呼びながら、柔らかくなった膣肉を掻き分けていく。力任せに腰を振ったときに上がる嬌声は、悲鳴のようでもあるのだが、それを聞くたびに、興奮してしまう己が居た。なまえがオレで感じてくれていることが、何よりも嬉しかった。

「なまえっ、大好きだ……っ、もっと……ッ、もっと、好きって、言ってくれ……っ」
「…………す、き、好き、だんで、ッ、あっ! す、すき、好きっ! 好き……ッ、」
「あああ……っ! なまえ……っ、オレも、オレも好きだっ、大好きだ……っ!」
「すき…………、っ」

 手首を掴んで、自分のほうへと引き寄せる。「す、き、好き、だんで、すき、すきだからっ……、」「なんだっ」「や、さしく、して、っ、う、う¨っ、おねがいっ、優しく……っ、お、おかしく、ッなる……っ、ぅ、う!」なまえからの、はじめての、オレへの要求だ。いや、我儘だろうか。オレにして欲しいことを、あのかわいい唇を動かして、伝えてくれている。
 おかしくなればいい。壊れてしまえばいい。オレの手でめちゃくちゃに壊されて、きみの残骸すらも、オレのものになればいい。「う¨、好き、ダンデ、好きぃっ、だ、い、すき、大好き……っ」オレに己の気持ちを伝えようと、奥を貫かれながら懸命に愛の言葉を吐くなまえが、本当に愛おしくて、加減ができなくなる。
 夢の中でしか出会えなかったなまえが、現実に居るのだ。「すき、ダンデ、っ、」頭の中でどれだけ犯してもその言葉を口にすることはなかった、なのに、なまえはオレの目の前で、オレの名前を呼んで、好きだって、愛してるって、結婚しようって、オレの竿をきつく締め上げながら、言う。

(幸せ、だ)

 こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。これを手離さないためにも、最善の手を尽くそうと決意する。「わ、わかった、優しく、するっ……」ぬかるんだ膣道はすっかりオレの形を覚えたようで、奥を責める度に程よく締まった。一瞬だけ見せたなまえの安堵する表情が、オレの内臓を優しく炙る。
 矮躯の腰を持ち上げ、なまえの身体を引き寄せる。反った身体は艶かしく、なまえの、更に奥へと入り込みながら、奥を何度も優しく小突いた。

「っ、あ¨っ! 嫌、あ¨っ! だめ、嫌ぁあ、これだめっ!」
「ふ……っ! お¨、ッ、おお……っ!」
「う¨あっ、だめッ、――……っ、やだ、だんで、やめて、やめ、っ!」

 角度が変わったことで、なまえの弱点が顕になる。偶然にも弱いところにオレの先端が当たり、なまえの身体は大袈裟に反応を示した。オレはそれを見逃さないし、腰を支える手に絡まる細い指にさらなる劣情を感じながら、なまえの感じる場所を丁寧に突き荒らす。

「い¨やっ、だめ、だめって、嫌あッ! う¨ぁああっ! やぁあっ!!」

 そこを突かれるたびに気持ち良さそうに奥を締めていることに、なまえは気がついていない。こんなの、嫌じゃないって、だめじゃないって、丸分かりだ。

「やだぁあ¨っ、やだ、だんで、うっ、う¨っ! ヤダよお¨っ、これやだっ、ぁあっ!」
「なんでだっ、オレはすごくっ……! 気持ち良いっ……! なまえも……、気持ち良い、なっ?」
「――っ、あ¨、っ、う¨!」

 粘着質な水音が鳴る角度で、そこを執拗に責める。「あ¨っ! ひい¨っ、う¨、う¨ぅ……っ! も、やめ、やめてっ……、あ¨あッ!」これが気に入ったのか、なまえは甘い声を跳ね上げて、更に身体を強張らせた。奥がきゅんと締まって、律動をねだられる。
 本当はやめて欲しくないくせに、変なところで強情で、素っ気無い態度を取って、オレの思いのままにならなくて――オレを、本気で夢中にさせる。

「ッ、――――……っ! ……っ! あ¨――……っ!」

 好きだ、大好きだ。オレはなまえのことが、本当に、大好きなんだ。あれほど嫌だと泣き喚いていたくせに、この程度の腰使いで果てることを覚えてしまう、いじらしいきみのことが大好きだ。
 支えている腰が、びく、びく、と盛大に跳ねて、中のようすが変わる。彼女の呼吸も、随分と狂っているようだ。「っ……、あ……っ、あ……」奥のほうがふくらみ、膣道がゆるくなっていくのを感じる。だらしなく愛液をにじませるなまえの洞に肉竿をはめこんで、ゆっくりと腰を回した。

「なまえ、」
「ッ……、う、ぁ、……」
「……っ、気持ちいい、な?」
「…………、」

 オレの言葉に返事をするように、びくん、と白い身体が跳ねる。それを見るなり自然と胸の奥が熱くなって、また、なまえの身体を求めてしまいそうになった。
 恥ずかしそうに顔を隠すなまえの仕草がたまらない。奥を突けば精液まみれの膣を締めて白濁を漏らすくせに、嫌々と首を振って、オレから与えられる快楽から逃げようとする。それを捕まえて押し付けることに、オレは悦楽を感じてしまっているのだからどうしようもない。
 うつ伏せに寝転んだなまえの尻を揉みながら激しく腰を叩きつけるのも、四つ這いにした彼女の腰を引き寄せて抽送を強制させるのも、オレはたまらなく好きだ。
 ぐったりした彼女に覆いかぶさってキスをしながら腰を振って、時折なまえの肉の突起に触れながら律動を繰り返して、意識があるかもわからないくらいぼんやりとした声を上げる彼女を、何度も、何度も愛でた。
 なまえが疲れて動かなくなった頃、やっと睡魔が訪れて、目覚めた頃には、もう翌日の昼になっていた。
 夕方から予定が入っていることを思い出して、もうすぐ隣で眠る熱を失わなければならないことを心から名残惜しく思う。閉め切ったカーテンの隙間からは光が溢れて、漂う埃の輪郭を照らしていた。眩しさに視線を戻せば、隣で寝息を立てていたなまえが寝返りをうって、オレのほうを向いた。
 泣き腫らした瞼も、軽くひしゃげた頬も、何もかもが可愛くて、愛おしくて、柔らかい唇にそっと唇を寄せる。それよりも恥ずかしいことを昨夜さんざんやり尽くしたというのに。オレの心臓はずうっと、どきどきと肋の中で暴れ狂ってばかりだった。
 静かに、幸福の泉の底を揺蕩っている。きらめく光の差し込む水面を見ながら、水泡を口の端からこぼしていた。腕の中にはなまえがいて、オレはそれを抱きしめながら、もう少しだけ、と目を瞑るのだ。
 杯は水底に沈んだ。もう二度と渇くことは、ない。

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