なんとか体重は、ギリで55切ってはいませんでした。





「いやぁ〜…フェモちゃんも凄かったねぇ…。あたしあのまんまセネセネひん剥かれると思ったもん」
「鬼神の如き動きでしたからね…僕は追い剥ぎにでもあったのかと錯覚しましたよ。上半身裸の変質者はもう要りませんので凄く焦りました」
「ジェー坊、ワイの目ぇ見てもう一回言ってみ?」
「きゃー、助けてー。誰かここに変態がー」
「棒読みで言うなや!!」



ぎゃあぎゃあと騒ぎながらも、ワルターから伝えられたヴァーツラフの残党が居る隠し砦へ向かっている一行の中で、先ほどの水の民の里での出来事を思い出してか、一人セネルはどんよりとへこんでいたのだが、これには流石に誰もフォローには回れる筈もなかった。
仏頂面が相変わらずなワルターはさておき、苦く笑うクロエとウィルが何か言える筈もなく、遅くならないよう先頭を歩いて行くぐらいしか出来ない。
55.2キロと言う中途半端な値を出したセネルの自業自得だろう、と服をひん剥かれ掛けたあの光景を思い出して、ワルターとウィルは少しだけ顔を青くしていた。
むしろワルターの方が顔色は優れない。自分と同い年の男が、年下の少女に追い剥ぎに会うような絵面は、なかなかに衝撃的な部分があった。
それもこれも、衣類の分を引けば、確実に55切っていた数値を弾き出した、セネルのせいなのだが。





「−−−着いたぞ」



ノーマ達の馬鹿なやり取りを一切無視して、ようやく見えたヴァーツラフ軍の隠し砦を前にワルターがそう言えば、今までふざけたことに付き合っていたジェイが僅かに目の色を変え、ウィルもまた険しく顔をしかめて、そこを見回した。
隠し砦と言うだけあって分かり難い場所に位置するらしく、成る程このような場所になら残党が残っていてもおかしくないと思う反面、人気を全く感じないことに、おや?と首を傾げてしまう。
だがその疑問を解決するより先に、ワルターから順々に中へ進んでしまったものだから、ウィルとジェイはお互いに目を合わせたものの、とにかく先に進むかと、その時はそれだけだった。



「なんかよう分からん仕掛けばっかある場所じゃのう」
「いきなり床が抜けて地下に落ちるような造りをしてる、シャンドルのアジトよりはマシだろう」
「確かに」
「ワレら根に持ち過ぎじゃぞ!大体引っ掛かってないじゃろが!!」
「ああいう仕掛けがあったことに腹を立てているのだ。幼稚だぞ、シャンドル」
「いやいや品が無いの間違いですよ、クロエさん」
「ワレらがワイのこと嫌いなのはよう分かった!」



うがぁー!と喚き出すことはしなかったにせよ、無言のままジェイに挑むモーゼスがセンサー式の爆弾に引っ掛かったところで、ふとセネルがぼんやりと牢屋を眺めていることにクロエとワルターは気付いた。
近くに拷問器具もある場所で足を止めたいとは思わないのだが、どこか気を取られているセネルを無視出来る筈もなく。



「どうかしたのか?クーリッジ」



名を呼んだクロエに、はっと我に返ったのか気付いたセネルは慌てて振り返って、どこか複雑そうに顔をしかめながらも、答えた。



「いや、そういえばここは…フェニモールと一緒に、捕らえられてたところだなって思い出して」
「えー?!そうだったなら早く言ってよセネセネ!あんま気分良くないでしょ?」
「別に気分良くないとか、は」
「ん?でもなんで入って来た時に気付かなかったわけ?ここまで来なきゃ思い出せないとかセネセネちほ…」



「痴呆なんじゃないの?」と言いかけた瞬間、ウィルとクロエからの容赦ない鉄拳制裁により、ノーマは呻いて最後まで言うことも叶わずのたうち回っていた。
アホじゃのう、シャボン娘…と。少しだけ学習したらしいモーゼスは口には出さず思うだけにしたのだが、騒がしくし過ぎだ!と結局鉄拳を喰らった辺り、運のない男だと密かにワルターは呆れるしかない。
この隠し砦へ訪れた時、セネルが思い出せなかった理由としては、周りの様子も窺えぬ程、傷付き意識を保っていなかったからだ。
毛細水道での、あの、傷だらけで横たわっていた姿が、脳裏に過ぎる。

フェニモールを庇っての怪我だとは、ワルターだって分かっていた。




「…大丈夫か?クーリッジ」
「あ、ああ…別に俺は平気だ。ただ…」
「クーリッジ?」
「いや、なんでもない」



曖昧に笑んで、誤魔化すように言ったセネルの言葉に、クロエだけでなくワルターも疑問に思ったのだが、それ以上追求することも出来ず、ただ先へと足を進めるばかりだった。
血の臭いだとか、生々しい跡の残る部屋を通り過ぎれば、やがて少しばかり開けた空間へと出る。
その部屋には所狭しと書物が並んでおり、何気なく手に取ったジェイやウィル、そしてノーマはそこに記されていた事実に顔をしかめ、どういうことだと覗き込んだセネル達もまた、愕然と目を見張ることとなった。






「−−−煌髪人の人体実験のようですね、これは」







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