久しぶりに目にしたその姿に、ウィルやクロエ達が抱いた感想は随分と痩せたな、とまずそれだった。
格好自体は変わっていないとは言え、覗いた手首が嫌に細く、全体的に窶れたな、と。とてもじゃないが一緒に行くなんて認められないような痩せ方をしたセネルに対し、しかしウィル達が何か言う前に動いた金色が、あった。



「バ・カ・な・こと言わないで下さい!お兄さん!あなた自分の体のこと分かってるんですか?分かってないんでしょう!理解してないんでしょう!寝言は寝てから言いなさいよ!!」



捲くし立てるにしても、病み上がりと言うのか、半怪我人に対しそこまでやるかと言う勢いで、とにかくフェニモールが絶対に許さないとばかりに詰め寄った。
思わず一歩引いてしまったセネルに、けれど容赦なくフェニモールはぐいぐい迫り、その勢いにはシャーリィだけでなくワルターでさえも呆然としてしまい、誰も何も言えやしない。
周りに他の水の民が居ようが、お構い無しにフェニモールは怒った。
食事をほとんど取らないことにも相当怒ってはいたが、まさかここまで怒るとは、シャーリィも思ってもいなかった。



「お兄さん、あなた肋骨折れてたんですよ。よ・う・や・く!支障が無いぐらいに他の傷も癒えてきたばかりなんですよ。それなのに!ワルターさん達と同行したい?お医者さまに訴えてみたらどうです!笑えない冗談だと言われておしまいですよ?!シャーリィのお姉さんと一緒に、大人しく寝てて下さい!!」



……なんだかもう、一切の反論も許さないとばかりのフェニモールの勢いに、セネルは顔を真っ青にさせて般若か鬼にでも遭遇したような気分になったが、けれどここで大人しく引くわけにはいかなかった。
断固反対!と怒ってまでみせるフェニモールに静かに首を横に振り、着いて行こうとする姿勢は、崩さない。



「ヴァーツラフの残党が見付かったって言うのに、一人で安全な場所に居るなんて俺には出来ない。悪い、フェニモール。行かせてくれ」
「嫌です。キツいことを言いますが……今のお兄さんでは、はっきり言って皆さんの足手まといです。肋骨折れてたんですよ?ヒビが入ってたところもあります。火傷だってあった擦り傷切り傷だっていろんな所にあった」
「……」
「治りきってないんです。お願いだから、無茶しないで下さい」



縋るように見つめたフェニモールに、セネルはぐっと押し黙ったことは押し黙ったが意志は変わっていないようで、それが彼らしいと言えば彼らしいが、あんまりにも無謀だとシャーリィもフェニモールと同じように、縋るようにその青色の瞳を見つめた。
視線に気付いたセネルがシャーリィを見て、そうしてクロエ達を見て、最後にワルターへと移る。
その視線の動きを見て、呆れたように溜め息を吐いたのは、フェニモールだった。
ぐいっとセネルの手首を掴んで(それでも勿論、どこか加減をしていたけど)、そうして、言った。



「55切ってたら、絶対に許しませんからね!」



何の話?とクロエ達が口を挟む間もなく、速攻で家の中へ戻って行ったフェニモールとセネルに、シャーリィは呆然と見送ってしまったあと、慌てて追い掛けて行った。

















「託宣の儀式だと?メルネスは昔失敗したと聞いたが、今更もう一度やると言うのか?」



当然の疑問をそのまま問えば、マウリッツがゆっくりと頷くのが見え、ワルターは少しばかり怪訝そうに見据えていた。
メルネスが以前儀式に失敗し、その力を失ってしまったと、死にかけるような目にあったとも知っているだけに、ワルターとしては何故このタイミングでマウリッツがやると言い出したのか、正直理解出来ない部分がある。
陸の民を里に入れることも理解出来なかっただけに、ワルターはほんの少しばかりマウリッツに対して不信感を抱きつつあった。
陸の民に対する気持ちと比べれば勿論、些細な蟠りではあるものの、納得が出来るか出来ないかと言えば、微妙なところである。



「今だからこそ、やるのだよ。今の彼女は昔の彼女とは違う。姉も目覚めぬ、虐げられる水の民の現状は変わらない。そのことに自分がメルネスとなり、皆を導こうと確かな意志がある。必ず成功する。陸の民に対する感情も、随分と変わっただろうしな」
「……あの男が居るのに、か?姉を助け出すことに協力した陸の民達を、メルネスが切り捨てれるとは思え」
「三年だ。三年もの間、彼女は陸の民の側でなく、我々と共に居たのだ。滄我の声は必ず届く。陸の民に向ける感情も、彼女の中では我々が抱くものと変わらないだろう」
「セネル・クーリッジのことはどうなる」
「……全ては、滄我の意志に」



必ず成功すると言う癖に、セネルに対してだけは妙に言い澱んだから、ワルターはますます疑問に思ったのだが、そこを突き詰めさせる程、マウリッツも隙を見せなかった。
くるりと背を向ける。
託宣の儀式の準備を女中に言い付けるのは、今頃フェニモール達と騒いでいる中に居るメルネスが、了承しているからとでも言うのだろうか。



「ワルター、お前はきちんと仕事をすれば良い。あと少しで全ては成される。頼んだぞ」



そうして奥へ消えて行ったマウリッツに、そう言われてしまえばワルターには拒否権などどこにも存在しなかった。





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -