当時、一体どんなことがあって託宣の儀式が失敗したのか、フェニモールは過ごしていた村も違っていた為に詳しくは知らなかったのだが、何だか妙に不安だけを覚え、怪訝そうに顔をしかめてしまった。
水の民としての力が無いと言うことはそのせいだとは聞いていたけれど、無理に気負って『メルネス』としての使命を果たそうとするのは、何だか違う気もする。
その失敗した時を知らないから何とも言えなかったのだが、「お兄さんに相談してからにしたら?」とそんな言葉を言おうとした時に、近付いて来た何人かの足音と明るい声に、その時は、それだけで。



「おーい!リッちゃんにフェモちゃーん!」
「ノーマさん!それにウィルさん達も!」



明るい声で、手を振って呼んだノーマと共に、ウィルやクロエ達と言ったウェルテスの街に居た仲間達の姿が見え、シャーリィは嬉しそうに顔を綻ばせて駆け寄った。
少し呆れたように笑ってから、フェニモールも後に続いたのだが、近付けば近付いただけ不機嫌そうなワルターの姿も見え、これには困ったように笑うしかない。
大方ノーマにワルちん呼びされるのが我慢ならないと言ったところだろうが…こればかりは、耐えてもらうしかなかった。



「お久しぶりです。皆さん、今日はどうしたんですか?」



ここが水の民の里だと言うことが頭に過ぎったのか、少しだけ無理に笑顔を作って言ったシャーリィの言葉に、ウィルはあえてそこには気付かなかったことにして、答えた。



「マウリッツ殿に話があってな。街に来ていたワルターにここへ案内してもらったんだ」
「話、ですか?」
「いや、なに聖皇陛下から親書をお預りして、それを渡しに来ただけさ。ちょうど話も終わったことだし、一度セネルとステラさんに顔を出しておこうと思ってな」
「そうですか…あ、今ならお兄ちゃん、起きてますよ。つい先程まで、一緒にお昼ご飯食べていたところなので」



言って、手にしていたバスケットを見せれば「あー!いいなー、あたしも一緒に食べたかったー!」とノーマが言い出し、モーゼスが「家族みんなで食べるのが一番じゃ」と言った瞬間、何やら聞き取れなかったが小さな声でジェイが呟いたらしく、騒がしく喧嘩し始めてからウィルの拳を喰らうまでのやり取りが続き、シャーリィは困ったように笑ったが、クロエとワルター、それにフェニモールは呆れ返るばかりだった。
相も変わらずな彼らのやり取りに、喜べばいいのやら嘆いてみればいいのやら。
こんな調子に四六時中付き合わされているだろうクロエに、密かにワルターなんかは哀れに思っていたりするのだが、口に出さないことがまた、いまいち報われないところだった(気に掛けれるだけの気力が無いと言われれば、それまでだが)。



「……おい、顔を出すなら早く済ませろ。その気が無いのなら、もう行くぞ」



どうにか苛立ちを堪えて言ったワルターの言葉に、ウィルに頭をど突かれたノーマとモーゼスが不満そうに口を尖らせたが、聞いたシャーリィとフェニモールは、揃って不思議そうに首を傾げた。
何の話だろう?と素直に浮かんだ疑問はそこなのだが、「ブーブー」と仕様もないことを口走ったノーマとモーゼスに更に拳骨が落とされるのを見送って、それから。



「行くって…何かあったんですか?ワルターさん」



訪ねたシャーリィの言葉に、一瞬だけワルターも顔をしかめたのだが、どうせ黙っていられることではないと、割とすんなり答えた。



「…ヴァーツラフの残党が見つかった。いまこちらには動ける者があまり居ないからな。協力を要請した」
「!」
「嘘か本当なのか分からないが、このままにしておく訳にはいかない。…あの男の企ての残りを、放置するなんて出来ないのだから」



淡々とした口調で述べたワルターの言葉に、これにはシャーリィだけでなくフェニモールも顔を強張らせ、苦々しく唇を噛んだ。
あの男の愚かな思想のせいで、何人、同胞が命を散らしたかさえ分からないのだから、それは余計に。
セネルとステラのこともあって、正直シャーリィの中であの男のことはその名前も聞きたくない程、嫌悪…いや、むしろ憎悪の対象だった。


陸の民なんか、嫌いだと。
私たちに関わらないで欲しいと。


そんな思考が過ぎっては、ウィル達や、そしてセネルのことを思い出して否定するのだが、確かに芽生えつつある不信感を捨てきることも出来ず、自分で手一杯になっているからこそ、シャーリィは不安げに見つめている、フェニモール達の視線にすら、気が付けなかった。
そして誰が、この話を聞いているのか、すらも。




「−−−俺も行く。行かせてくれないか、ワルター」




その言葉に、一体誰が、どう思ったか、なんて。





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