ガドリアへと放たれた滄我砲を、突如現れた白銀の光が包み込んだのは、一瞬のことだった。
鳥のような姿にも見えるその光は、必死に全てを葬る光を食い止め、翼にも見える光で包み、海面で数回跳ね、空へと、上がる。
軌道を逸らしたのだと理解するよりも早く、白銀の光は滄我砲と共に弾けて、消えた。

ちらちらと、僅かに残った白い光が、舞うように、降る。



まるで小さな雪の、結晶のように。





「テルクェ、ス…?でも、一体誰の…」



呆然と呟くように言ったシャーリィの言葉に、しかし全員が全員今の光景に立ち尽くすばかりだったので、答えはなかった。
装置をいじっていたジェイとウィルですらも、今の光景に呆然とするばかりで、まともな思考回路など誰も持てていない。


滄我砲は、海上で消えた。
誰かの、テルクェスによって。



あれは一体、誰のもの?





「−−−っ!ウィルっち!ウィルっち来て!誰か誰か誰か!!」



いきなり喚き始めたノーマに、あからさまにワルターなんかは不快そうに顔をしかめたのだが、そのただならぬ様子と、今にも泣き出しそうな顔に全員が慌てて駆け寄った。
同じようにセネルの側に居たシャーリィもそのノーマの姿に酷く困惑しているが、全くわけがわからない。
必死に話そうとするノーマの体は、可哀想なぐらい震えていた。
嫌に青ざめた顔をして、そして。




「…ど、どうしよう…セネ、セネに…セネセネに、ブレスが、効かないよ…!」
「なんだと?!」



その言葉に、ウィルは咄嗟に自分自身もセネルにブレスを掛けようと試みたが、どうしてかノーマの言う通り確かに、効かなかった。
愕然と目を見張るウィルに、シャーリィの顔が引き攣る。
それでも何度も何度も掛け続けたのだが、内に止まらず、溢れ出てしまうブレスに、とうとう耐えきれなくなったノーマが涙を溢した。
ぽうっ、と爪を光らせて。
でも、それだけだ。




「なん、で…?どうして…?さっきまで、ちゃんと掛かってたのに…!ちゃんと効いてたのに!どうしていきなりこんなことになるのさ!ねぇ、起きてよセネセネ!起きて!!」
「ノーマさん!落ち着いて!」
「落ち着けるわけない!だって、全部出てっちゃうんだよ?!これじゃ掛けても意味ない!こんなの嫌だ!嫌だよセネセネ!嫌だってば!!」



泣き喚くノーマの姿に、声を掛けれるどころか、クロエに至っては呆然と目を見張ったまま、力無く膝から崩れ落ちた。
微かに唇を動かす。
きっと名前を呼んだだろうに、それすらもまた、声にすらなりはしない。

嫌に冷たいセネルの手を掴んだまま、シャーリィは滲んだ視界に、ようやく自分が涙を溢していることに気付いたが、構ってなどいられなかった。


お兄ちゃん、と呼び掛けて、出来ない。


現実を直視したくなかった。
だからこそ、大好きな彼女の、小さな声に、咄嗟に反応出来なくて。



「シャー、リィ…」



名を呼んでくれたその声に、馬鹿みたいに時間を掛けてから、シャーリィはゆっくりと振り返った。
青い綺麗な瞳と、目が合う。
本当は、この瞬間は笑顔で迎えたかったけれど、シャーリィはどうしても、笑顔なんて作れやしなかった。



「お姉ちゃん…!お姉ちゃん!お兄ちゃんが…っ、お兄ちゃんが…!!」



泣きじゃくって縋りついて言うシャーリィに、ステラは一度その涙を指先で拭ってやったあと、穏やかに笑んでみせた。
そうしてゆっくり起き上がって、横たわるセネルの側へと、近寄る。
目を開ける気力も…意識すらも取り戻せないのか、何の反応も示さないセネルの頬にそっと手を添えて、慈しむように撫でてから、やがて放した。
涙で目を腫らしたノーマが、ステラへと視線を向ける。

ごめんなさい、と動いた唇の動きに、ステラは微笑んだ。
ワルターが辛そうに眉を顰めていたけれど、その優しさに目を瞑って、そして。



「シャーリィ、あなたのブローチ、セネルに貸してあげてね」
「お姉ちゃん…?」
「大丈夫。大丈夫よ。泣かないでね、シャーリィ」



一体何を?とシャーリィが聞く前に、ステラはシャーリィの胸元を飾るブローチを手に取り、横たわるセネルの胸元に、そっと乗せた。
ぽうっ、と仄かな光が、ブローチから溢れ、その優しい光が消えぬよう、ステラは手を翳し、祈るようにテルクェスを、光らせる。

オレンジ色の、暖かな光だった。
ずっと焦がれていた、彼女の、優しい光。




「セネル、あなたは昔から危なっかしいことばっかりして…私、全部見てたのよ。みんな、みんな…」



暖かな光が輝きを増し、傷つき横たわるその体を、包み込む。
癒やす光を、流れ出てしまわぬように。


命の光が、消えないように。




「ねぇ、セネル。水舞いの儀式の話、覚えてる?私、ずっと楽しみにしてたのよ?あなたが先に飛び込んで、シャーリィと私で追い掛けるの…いつか3人でやろうって。ちょっと意味は違うけど、きっと楽しいから、3人で一緒に、ね…」



幼い頃の他愛のない話が、いつか本当になるように。

ずっと、ずっと願ってた。

1人じゃなくて、2人だけでもなくて。


その両の手を1人ずつ握ったら、きっといっしょ。

3人で、ずっといっしょ。





「私は…また、眠るけど…きっと、きっとまた…目を覚ますか、ら…」
「お姉、ちゃん…?お姉ちゃん!一体何を…?!」
「3人で…また、一緒に…ね?大丈夫よ、シャーリィ。私なら、大丈夫…ね、セネ、ル…」



光の中に、あなたが見える。

大丈夫。
大丈夫だと。

消えないように、何度だって紡いでみせる。
その手は絶対にはなさない。
繋ぎ止めてみせる、から。




あなたは、この世界にいるべきなんだと。






「また、明日ね」





穏やかな光を持つそれが、小さな音を立てて割れた。
砕けて、そして。


パキン、





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