「あー…その、あれだ、フェニモール。ここは即身仏でも奉っていたのか?」
「おーい、現実見てよウィルっちー」
「いいえ、なかったと思いますけど…」
「フェモちゃんも真面目に返さなくていいから!だぁーっ!もう現実逃避してんなよオヤジー!!」
「誰がオヤジだ!」
「こういう時だけ反応すんなぁ〜!!」



喚くノーマの声が聞こえたかと思えば、次の瞬間「ほげっ?!」とかなんとか、まあ自身をか弱い女の子と称するのならば不味い声が聞こえたが、慣れたことなので巻き込まれなかったクロエ達は無視を決め込んだ(酷いとか言うな)(あれに巻き込まれる方がご免だ!)。
まあとにもかくにも、何にせよ部屋の中央に位置する台座の中に眠る人物を前に、どうしたものかと顔を合わせるしか、ない。
魔物だって平気で出るし実はこの女性、死んでたりするのか?と冷や汗を流しつつ密かに全員でジャンケンをして、負けたモーゼスが息をしているかとりあえず確かめた。
全員が全員、気が動転していたのは、否定しない。



「……生きてはおる、みたいじゃぞ」
「なら、単に寝てるだけってこと?まさかモーすけじゃあるまいし…」
「おーい、シャボン娘。ワレも現実見てみ」
「モーすけよりは見てるって!」
「笑って言うことじゃないじゃろが!」
「お前ら喧しいだろうが!!」



怒鳴り声が聞こえたかと思った瞬間、景気良く頭をぶん殴った音が2つ分聞こえ、「いや、レイナードが一番喧しいだろ」とクロエはどこかで思ったが、まさか言える筈もなかった。
白けた目で見ていれば、不意に台座の中から小さな呻き声が聞こえたような気がしたから、クロエはフェニモールにしがみついて勢いよく離れる。
顔を青ざめ、どこか怯えたようなクロエとフェニモールに、ようやくウィル達も気付いて振り返ったのだが、そうして見えた光景に思わず立ち尽くした。
ゆっくり、寝ていた女性が、起き上がってこちらを見てる。
武器を構えることも出来ずに立ち尽くしているのは不味いとどこかで思った気もしたのだ、が。



「みんな、おはよう」
「「「…おはようございます」」」



うっかり挨拶し返してしまうぐらい、のほほんとした雰囲気に緊張感も何もかもが吹き飛んだ気がした。
頭を抱えるクロエは既に現実逃避に移ったらしく、背を向けて隣に居るフェニモールに「これがささやきの水晶ではないのか?」と聞いている。が、やはり気が動転したままなようで、視線の先は思いっきり間違えていた。それはカカシです。クロエさん。



「えー…貴女は、一体なぜこんなところに?」



多少は立ち直ったのかウィルがまずそう聞いた。
にっこり、笑んだ女性は相変わらずのほほんとしたまま、答える。



「陽の光に誘われて〜」



ひらひら〜、と手まで振って答えた女性に、モーゼスが「陽の光て…遺跡の中じゃぞ、ここ」とまあ誰もが思っただろうことを口にしたが、ツッコミ入れたら負けな気がするのでウィルは何も言わなかった。と言うか、何も言えなかった。



「……お名前は?」
「んー…グリューネ、だったと思うのだけど」
「思う、とは?自分の名前ですよね?」
「んー…どうだったかしらねぇ?でも、わたくしはわたくしよぉ」



何だか相当ズレにズレまくったグリューネ(仮)にウィルは頭が痛くなったが、まさか誰か通訳係を呼んで来てくれ、とも言えずただ耐えた。
側でようやくささやきの水晶を見つけれたらしいクロエがフェニモールと共に近付いて来るのが見えたが、完全にグリューネ(仮)を視界から除外…いや、モーゼスを視界から除外している辺り、どうやらまだ少し混乱しているらしい。
「グー姉さんよくここに居て無事だったね!魔物とか沢山出るのにさ!」「みんな、とーっても親切にしてくれて…」「嘘吐け!んなわけあるか!」と何だかんだ言って会話が成立しているノーマとモーゼスの神経を見習いたいと思っ…たりはやっぱりしないが、とりあえず。



「とにかくここに居るのは危険だ。グリューネさん、一緒に外へ行きましょう」



言えば、のほほんとした雰囲気のまま「みんなでお散歩は、とーっても楽しいものねぇ」と言い出したからうっかりクロエがささやきの水晶を落とすところだった。
割ったら全てが台無しにはなるのだが、責めるに責められないのは多分、ウィルもやる嫌な自信があるからだ。

……ワルターでも連れて来るべきだったのだろうか。
通訳よりもツッコミ係を、募集したかった。本気で。





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