「い・や・じゃー!嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ人食い遺跡だけは絶対に嫌じゃぁあああ!!」



人の目など一切気にせず、まるで子どもみたいと言うには子どもに失礼だと思うぐらいに駄々をこねるノーマの襟首を引っ掴んで、一行は人食い遺跡まで足を運んでいた。
途中までぎゃあぎゃあと騒いでいたのがぶつぶつと呪詛でも呟いてるんじゃなかろうか、と変化したのは若干気になるものの放置してウィル達はさっさと進んでしまう。
わざわざ案内役を請け負ってくれたフェニモールでさえも普通に引いてしまうぐらい、人食い遺跡を前にしたノーマの沈みっぷりはある種、とても見事なものだった。
勿論、誉められたことではないが。



「しつこいぞ、ノーマ。ここまで来たんだ。早くささやきの水晶を手に入れてマウリッツ殿の元に戻らなくては」
「クーは人食い遺跡のことなーんも知らないからそんなこと言えるんだよ!ここヤバいの!本当に本気で洒落になんないぐらいマジでヤバいんだかんね!」
「ならノーマはクーリッジとステラさんを救う為のヴァーツラフとの戦いに、負けても良いと言うのか?ここで手に入るささやきの水晶が、戦局を左右するとマウリッツ殿は言ってただろう」
「それは分かってるけど、嫌なものは嫌なんです!」
「…水の民の人間はここに入っても帰って来れたんだ。一方通行ではないだろ」
「あ、そっか!なら安心か!よーっし!人食い遺跡レッツゴー!」



浮き沈みのテンションがあんまりにも違う人間は扱い難いぞ、と傍観に徹していたウィルは思ったが、何も言わなかった。
「まあその水の民も、傷付き帰って来たのだがな」としっかりクロエに留めを刺されているノーマの襟首を相変わらず掴んだまま、ずるずると引き摺って遺跡の中へと入って行く。
ここまで来たら一人で帰ろうと思わないだろうな、と言うところまで連れて行って、そうしてようやく手を離してやれば凄まじい勢いでノーマがフェニモールにしがみつきに行ったから、これは早まったとウィルだけでなくクロエも思っていた。
突き飛ばされて壁に激突したモーゼスが哀れでもないことはない。
とりあえずフェニモールが本気でドン引いているのがわかったから、クロエはウィルに鉄拳制裁を頼んでおいた(ハンマーはまだ早いぞ、レイナード)。






「そういえばフェモちゃん、リッちゃんはどったの?」



人間の頭蓋骨はこんなにも凄まじい音がするのか、とうっかり感心してしまうぐらいウィルにぶん殴られて死にかけていたノーマが(つまりミミックベッドとディーバ戦では全くの役に立たなかった)(ライフボトルが必要になるぐらいやれば良かったとウィルが呟いたのは、誰も聞こえなかったことにする)、ようやく立ち直って隣を歩いていたフェニモールにこう聞いた。
脈絡一切無しの唐突な質問に、フェニモールは一度きょとんと目を丸くするも、すぐに気を取り直すことにする。
本音を言うとたとえシャーリィが信用したセネルの仲間達とは言え、陸の民を嫌っているフェニモールからしたら嫌みの一つでも言ってやりたい気持ちも僅かにあったのだが、あれだけ衝撃的な心臓に悪い光景を目にしていた分、ノーマに対しては同情の気持ちの方が、勝った。



「シャーリィはまだ雪花の遺跡の封印を解いた疲れが取れてないので、休んでいます。戦争になったらあの子もきっと、あなた達に着いて行くって聞かないでしょうから」
「えぇ?!リッちゃんってヴァーツラフに狙われてるんでしょ?!しかもメルネスだって話だし不味いって!」



慌てたように叫んだノーマの言葉に、こればっかりは前を歩いていたウィル達も足を止めて、フェニモールへと振り返った。「それは本当の話なのか?!」と驚きのまま聞くクロエに少し戸惑いつつ、フェニモールはしっかりと頷いて、答える。



「メルネスはこの遺跡船の『すべて』を操ることが出来る存在なんです。危険ではありますが、シャーリィが一緒に着いて行けばもしかしたら滄我砲の制御も出来るかも、と」
「…確かにそれが本当に可能ならばメルネスが共に艦橋へ向かえば、最悪の事態は防げるかもしれない、か…しかしリスクが高過ぎるだろう。マウリッツ殿は、何と?」
「最初は反対したんですが、ワルターさんも共に行くと言うことで了解したそうです。それに大体、陸の民だけに任せられませんから」
「フェニモール…」



話す対象がウィルとクロエになった途端、ふんっと顔を背けてしまったフェニモールに、二人は困ったように顔をしかめてしまったのだが、特に何も言うことはしなかった。
口ではなんと言おうと、危険を承知でこうして人食い遺跡の案内役をフェニモールはしてくれているのだから、それなりに自分達のことは信用してくれているのだろう。
早く行きますよ、と先へ行ってしまったフェニモールの後をウィル達は少し早足気味に追い掛けて、そうしてやがてそれなりの大きさに拓けた広間へと辿り着くことが出来た。
至るところに人形…のようなものが飾ってあるのが見え、初めて訪れる面々は不思議そうに見回していたのだが、不意に中央の台座を覗き込んだモーゼスが妙な声を上げたから、全員そこへ視線を向けた。



「どうしたんだ?モーゼス」
「…そーっと覗いてみ、そーっと」



声を潜めて言ったモーゼスに、怪訝そうに顔をしかめながらクロエ達は覗き込んだのだが、次の瞬間、ギョッと目を見張って誰もが思わず引いてしまっていた。




「…嘘でしょ、」




なんでこんなところで、女の人が寝てんのさ。





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