絶対に諦めたくなどなかった。
共に笑い合って過ごす時が訪れると、信じてた。



(優しい時間が、流れるように、と、ただ。)








それは、翌日になってもう一度ウィルを説得しようと、クロエ達が意気込んで部屋を出た、その時のことだった。
誰か来てくれ!とそんな叫び声に外へ駆け出してみれば、そこに傷付き倒れ込んだ水の民の姿が見えたから、ウィルとノーマは慌ててブレスを唱える。
陸の民に対し強い警戒心を持つ彼らに詳しく事情を聞きたいものの迂闊に話し掛けるわけにもいかず、立ち尽くしていればふとフェニモールの姿に気付いたからクロエは側に駆け寄った。
彼女なら、きっと教えてくれるだろう、と。
だが、



「ワルター!?」



駆け寄り、目の前に立つまで気付かなかったが、フェニモールのすぐ側でワルターが倒れていたから、クロエは驚き目を見開いて、つい咄嗟に肩を揺すってしまった。
すれば微かな呻き声が聞こえたから、最悪な事態まではいかないことにほっと息を吐きつつも、すぐにノーマを呼んでブレスを唱えてもらう。
なかなか意識を取り戻しそうになかったのだが、ノーマが「しっかりしてワルちん!」と声を掛けた瞬間、頗る嫌そうに眉間に皺が寄ったのは、流石だな、と密かに思った(口が裂けても言えないが)。
フェニモールもほっと息を吐いている。どうやら思ったところは同じらしく、目が合えば思わずお互いに苦く笑うことしか出来なかった。



「これは…そうか、ワルター達は失敗してしまったのか…」
「マウリッツ殿!」



怪我人の手当てにばかり気を取られていれば、不意にマウリッツが側にまで近付いて来てそんなことを言ったから、クロエ達はおや?と首を傾げた。
話の流れが全くわからない。
「一体どういうことですか?」と代表してウィルが聞けば、マウリッツは困ったように顔をしかめて、そうして答えた。



「ワルター達にはある遺跡に、ヴァーツラフとの戦いで重要な役割を果たす物…ささやきの水晶と言う物を取りに行ってもらっていたのだが…手に入れれなかった、となると少々厳しいな…」
「はいはーい!それって、そんなに大切な物なんですかー?」
「ああ、この戦いの戦局を左右する、と言っても過言ではないほどだ」



だからこそ、ないと困るのだが…と呟くように言ったマウリッツの言葉に、ノーマがにやり、と笑ったその瞬間、正直ウィルにとっては嫌な予感しかしなかった。
何を言い出すつもりだ?この馬鹿娘め、と睨み付けるも当然ノーマは聞く耳など持たず、にっこり笑って元気よく、言ってしまった。



「はーい!なら、あたし達でそれ取って来るから、無事に取って帰ったらあたし達の参加も認めるってことにしてくださーい!」



脳天気に告げたその言葉に、一切の躊躇なくウィルはノーマの頭をぶん殴ったのだが、しかし次に返って来たマウリッツの言葉の方が、理解したくなかった。



「いいだろう。こちらとしても人手が足りなくてね。そうして貰えるととても助かる」
「それは本当ですか!マウリッツ殿!」
「よっしゃー!ワイもやったるでー!」



暗い顔をしていたのがそのマウリッツの言葉により一瞬で明るくなってしまい、これは益々暴走するんじゃないだろいかとウィルは頭が痛くなって仕方なかった。
ちょっとー!ウィルっちなんであたしを叩いたのさー!なんて喚くノーマの訴えなどは無視。
ただひたすら頭を抱えているウィルを前に、気持ちはわからないこともないとクロエは密かに思っていたが、飛び火でもされるのは絶対に御免なので、黙っておいた(さり気なく距離を開けているフェニモールにも、気付かなかったことにしておこう)。



「それで、そのささやきの水晶は一体どこにあるんですか?」



至極普通の流れでクロエはそう聞いたのだが、まさかマウリッツから返って来た言葉に、ノーマの妙な絶叫が響き渡るとは、思ってもいませんでした。





「人食い遺跡と、呼ばれる地にだよ」





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