これからのことについての話し合いに、ウィルとジェイ、そしてマウリッツが遅くまで話し合っているのを横目に、クロエはその庵の近くにある広場で空を見上げていた。
頬を撫でる風に目を瞑る。
夜の帷が降りたこの時間帯に、人の姿など見掛けはしなかったが、眠れないからと言う理由で外に出たにしては、誰も居ないと言うことが妙に寂しかった。


無力さが、歯痒い。
頭の中に付き纏う考えはどうしても暗い方へ働いて、正直嫌になってばかりだ。



(……勝手にくたばるなど、許さない、か…)



決して楽観視出来るような状況ではないと言うのに、きっぱりとそう言ったワルターの言葉を思い出して、クロエは一度目を瞑った。
脳裏に浮かぶ。
傷付き、倒れ伏した銀色は、どこか遠い。
自分でも気付かぬ無意識の内に、ヴァーツラフ達の強さを目の当たりにして来たからこそ敵わないとそう思っていたかと言われれば、否定する術をクロエは持っていなかった。
ジェイに言われ、信じられないと思いつつもどこかでそうかもしれないと受け入れた部分が確かにあって、可能性の話だと、ワルターのように言い切ることも出来なかった。
強い意志さえもない。
その癖、感情にばかり走るものだから、告げられたのは切り捨てられた言葉だけ。


お前達は子どもだと。
戦場にはとてもじゃないが出せない、と。


ウィルに告げられた言葉が、頭の中で繰り返される。
帰らずの森でのことを引き合いに出されては、クロエは何も言うことが出来なかった。
言える資格が、なかった。




「そんな所で何をしている」



ギュッと唇を噛み締めて、少しばかり俯いていたその時に、不意に背後からこう声を掛けられたから、クロエは弾かれるように顔を上げて、振り返った。
警戒は、しない。
知っている声だった。
ただ、情けない所を見られたとそんな自覚はあるから、真っ直ぐに見据えることは、出来なかったけれど。



「…ワルター」
「そこは鍛錬場も兼ねていて魔物だって出る。そのつもりが無いなら、不用意に近付くな」
「そうだったのか…すまない、少し眠れそうになくて、な」
「眠れないなら横になっているだけでいい。そんなこともお前は知らないのか」
「それは知っているが…!…いや、違うな。私は、逃げているだけか」
「だろうな」



眠れそうにない、と偽るのではなく、本当の所を認めて口にすれば、すぐに踵を返して去るだろうと思っていたワルターがすぐ隣まで歩み寄って来た。
水の民としての服を纏うワルターに、まだ少しだけ違和感はあるものの、見てくれよりもその行動にクロエは密かに驚きつつ、そこは口にはしない。
夜の静けさが辺りを支配していた。
異質なのは、自分達だけ。



「……あの男に言われたことが、そんなに気にすることだったのか」
「そうだな…レイナードの言う通りだから。感情のままに行動していると言われれば、私にはそれを否定出来ない。帰らずの森でスティングルと対峙した時、私は自分で自分を止められなかった…」
「帰らずの森でどころか、毛細水道でもだろう」
「うっ、うるさい…!とにかく!私は、レイナードの言う通り自分を律することも出来ない、足手まといの子どもだったんだ…!」



こうして癇癪を起こしていることも、全てを含んでクロエはウィルの言葉の通りだと思えば思うだけ無力さが身に染みて情けないとしか捉えれなかった。
無意識のうちに伸ばした手が、剣の束に触れる。
結局、何もかもが中途半端だったのだ。

誓った復讐ですら、まだ、何も。




「なら、諦めるのか」



ギュッと唇を噛み締めていれば、あっさりとワルターがこう言ったから、クロエは咄嗟に顔を上げてワルターに感情のまま怒鳴りつけようとしたのだ、が。



「「んなわけあるか!!」」



突如ガバッ!と草むらから飛び出て叫んだ2つの声に、思わずきょとんと目を丸くしてしまっていた。



「ノーマ?!それにシャンドルまで!二人共そんな所でなにをして、」
「なにをじゃないよー!クー!あんたウィルっちの言葉にめげ過ぎ!ワルちんにもなんで言われっぱなしなのさ!!」
「そっ、それはお前達がいきなり飛び出て来たから…!」
「いいや、あそこは間髪入れずに否定するところじゃ!ワイは諦めん!絶対に二人を助け出す!ウィの字に言われたところで、ワイは止まらん!」
「その通り!よく言ったモーすけ!あたしら確かにウィルっちの言うように子どもだけどさ、そこは曲げらんないよ!クーだって、二人を助けたいでしょ?」



突然現れたかと思えば、思い付くがままに話すノーマとモーゼスの二人に、ワルターは呆れたように溜め息を吐いていたが、クロエは先ほどまでの自分の考えが恥ずかしかったし、そして嬉しかった。
何を迷う必要があったのか。
答えなんて、初めからそれだけしかなかったのに。




「当たり前だ!明日、もう一度レイナードに話をしよう。私達は絶対に、諦めない!」




たった、それだけのこと。




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