一体何を言われたのか、咄嗟に反応など示せなかった。

理解も出来ない。したくない。
頭の中が真っ白になったのは、多分、自分に限った話じゃなかった。

(いま、この人は、なんて)





「可能性の話ですけど、セネルさんの救出は不可能だと最初から諦めていた方が良いですよ。限りなく低いので、覚悟しておいた方が動揺も最小限に済みますし、ステラさん救出の可能性がぐっと上がるでしょうから」



すらすら、とそんな説明をしてみせるジェイの言葉に、まともに反応出来た人間などいなかった。
目を見張って、身動ぎ一つ出来ないでいる。
告げられる内容の一つ一つを、言語として認識することを、クロエは拒絶してしまいたかった(そこまで出来なかった強さは、きっとこの場合では、弱さ)。

からからに喉が渇く。
震える唇でそれでも、どうにか言葉を放った。
放ってしまった。



「どういう、ことだ…?なぜ、クーリッジは諦めろと…?」
「生きている可能性が低いからです」



あっさりと、本当にまるで何てこともないように言い切ったジェイの言葉に、黙って聞いていたモーゼスが感情のままに机を叩いて立ち上がった。
「どういうことじゃ!!」と、激昂してジェイに詰め寄る。
けれどジェイは、欠片も揺らぐことはなかった。
事実は事実ですから、と言い放つその姿に殴りかかろうとしたモーゼスを、マウリッツがやんわりと止めた。
言葉も、無く。



「僕はこの件を請け負った以上失敗するのは御免ですし、そう易々とヴァーツラフに滄我砲を使わせるつもりもありません。ステラさんの命を滄我砲を放つことに使わせない。使われる前に助ける。これは水の民の目的でもあります。そうですよね?マウリッツさん」
「ああ、その通りだ」



間髪入れずにマウリッツが返事を返せば、ジェイは一度頷き、そして更に言葉を続ける。



「源聖レクサリア皇国にとっても、クルザンド王統国が現在戦争している相手国、聖ガドリア王国を討つのに遺跡船の兵器である滄我砲を用いるのは見過ごせません。故に、ステラさん救出が最優先事項」
「だから、クーリッジを見捨てると言うのか?!」
「違いますよ。ステラさんをいくら優先させる、とは言えその過程でセネルさんを見捨てることにはなりません」
「なら、なんでなのさジェージェー!」
「良いですか?レクサリアも水の民も優先して助けたいのはステラさんです。そして、ヴァーツラフが手に入れたいのはメルネスであるシャーリィさん。言い方は悪いですが、誘き出す餌の役目を果たすのは実の姉であるステラさんで十分なんです。−−−セネルさんを生かしておく理由が、ヴァーツラフ側からすると無いんですよ」



淡々と言い放たれたその言葉に、突き付けられた事実に、今度こそクロエは、ノーマ達は、何かを言う気力すらなくなった。
愕然と目を見張って、瞬き一つ出来ない。
視界の端にウィルだけが辛そうに目を背けているのが見えたが、気に掛けれる余裕も、なかった。



「ヴァーツラフからすればステラさんさえ居れば滄我砲を撃つこともシャーリィさんを誘き出すことも出来ます。セネルさんは必要ない。雪花の遺跡でセネルさんを置いて来てしまった時点で、彼を助ける手段、また生かされている可能性はほぼ無くなったと言っても良いでしょう。そしてウィルさん。あなたなら、この可能性に気付いていたんじゃないですか?」
「……っ、ウィの字!本当か?!」
「嘘だよね、ウィルっち!」



縋るように声を張り上げて聞くモーゼスとノーマの言葉に、気付いていて仲間を見殺しにしたことが事実ではないと、否定してくれと言う想いに、けれどウィルは、望む言葉を、放ちはしなかった。



「……気付いては、いたさ。あの時セネルを置いていくことがどういうことか、俺は気付いていた」
「ならなんで!」
「セネルが行けと言ったんだ!自分がどうなるか、知らずに言ったんじゃないだろう…!知っていて、それでも行けとあいつが言ったんだ!」
「!!」
「だから、言ったろう…無駄にするつもりか、と」



続くウィルの言葉に、モーゼスは唇を噛み締め、ノーマは嫌だとばかりに首を振って俯いた。
フェニモールが震えている。
仲間を生かす為に、自分自身が犠牲になることは全く躊躇しないだろうセネルの性格を、フェニモールもまた知っているから。
クロエは、何も本当にどうすることも出来なくなっていた。
座ったまま、動けない。
そこまで馬鹿でないから、有り得ないと言い切れないから、可能性の話だと、強がりも出来なかった。



(浮かんだのは、傷だらけになって横たわった、あの。)



ギュッと唇を噛んで俯く。
それでも、と言い掛けることも出来ずに暫く黙り込んでいたのだが、ふと聞こえた物音に、弾かれるように顔を上げた。

ごとん、と何かが、落ちる音。
耳に届いたのは、シャーリィが寝かされている筈の、部屋からだった。




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