森の中を先へ先へと駆けて行くフェニモールを前に、ウィル達はただ必死になってその背を追いかけた。
体を鍛えているわけでもない、言ってしまうなら戦闘に参加するわけでもなく、一般市民なフェニモールの後を着いて行くだけで簡単に息が上がってしまうのは、もうこちらの体力に限界が近付いているからだろう。
鬱蒼とした森を抜け、少しだけ拓けた道と呼べるような場所に出た時、ようやくフェニモールは足を止めて、振り返った。
ギートの背に眠るシャーリィの姿を見て、そうして逃げ延びた人間を確認して、ほんの少し、顔をしかめる。

足りない色が、一体なにか、なんて。




「―――ようやく来たか。遅かったな」
「嘘、ワルちん?!」



フェニモールのすぐ隣に、不意に降り立ったのはワルターだった。
全員の声を代弁してノーマが驚いてそう言ったが、途端にワルターが不機嫌そうに顔をしかめたのが明らかにわかったので、その呼び名は今は封印してもらいたいと思ったのはウィルに限った話ではないだろう。
「ワルターさん」と正しく名を呼んだフェニモールに、ワルターは一度頷いてから、確認するようにウィル達を見据えた。
欠けた色を、探るように。



「ワルターにフェニモール。二人はどうしてここに?」



息を整えたウィルが、まず浮かぶだろう当然の疑問を、口にした。その言葉を耳に、ワルターがギートの背に眠るシャーリィを腕に抱き抱える。
覚醒を促しても、シャーリィは目を覚まそうとはしなかった。
ワルターもそれ以上無理には、起こそうとしない。
どちらかと言えばいま目を覚まされては、困るのだ。

いまここに、彼女の大好きな色はどこにもいない、から。




「…仲間から聞いたんです。あなた達が、ヴァーツラフ軍に追い詰められてるって」
「助けに来てくれたのか?」
「それは…」
「メルネスを迎えに来ただけだ」
「ワルターさん!」



言外に、シャーリィが居なかったら勝手に野垂れ死ね、と言っているに等しいワルターの物言いに、フェニモールが非難めいた声を上げたけれどまさか聞く筈がなかった。
ふん、と顔を背けて、そうしてさっさと歩き始めてしまう。



「着いて来て下さい。…一応、なにがあったのか状況はわかってます」
「どういうことだ?」
「私たちだって何もしていないわけじゃありません。ヴァーツラフ軍の中に、スパイを紛れ込ませてます。彼らから聞きました…それとも何ですか?いつまでもここに居て捕まりたいんです?」



聞き様によっては随分と冷たく言い放ったフェニモールの言葉に、それでもウィル達はすぐに彼女と、そして先を歩くワルターの背を追った。
途中に見えた、湖の水が干上がっていることに対しても、現れた遺跡に対しても聞きたいことは山程あると言うのに、一行は黙々と着いて歩くことしか、出来ない。
必要以上に口を開くことを、誰もが躊躇われたのだ。
クロエとモーゼスは、どこかうつ向いたまま、顔を上げようとすらしない(理由は何か、なんてわざわざ聞く必要も、なかった)。



「ねー、フェモちゃん。あたしらってこれ、どこに向かってんの?」



出来るだけ声を潜めて言ったノーマの質問に、フェニモールは一度足を止めた後、ノーマだけでなくウィル達を…陸の民である彼らを視界に入れてから、答えた。





「私たち水の民の、住処です」





それは本来なら足を踏み入れることも許される筈のない、彼の地の、話だった。





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